昨年2月、深夜の多摩川河川敷で、わずか中学1年の少年が年上の不良グループに惨殺された。主犯格の少年Aに対し検察側は懲役10~15年を求刑。10日には判決が下る。2度と繰り返されてはならないこの事件。
約1年がたち、関係者は、街は、“カミソンくん”の死を教訓にいい方向に変わったのだろうか。
「カミソン、カミソン、きょう、裁判があってね、犯人が懲役10年から15年の刑になるかもしれないって。その報告に来たんだよ、カミソン」
神奈川県川崎市の多摩川河川敷の殺害現場でそう語りかけていたのは、中学2年生の女子生徒2人だった。
昨年2月、当時わずか13歳、中学1年だった上村遼太くんが暴行の末、殺害された。凶行に及んだのは、リーダー格の少年A(19)とB(19)、C(18)。殺人と傷害の罪に問われたAの裁判員裁判が、神奈川・横浜地裁で今月2日から、3日間連続で行われた。
初公判には、47席の傍聴席に対し、800人を超える傍聴希望者が列を作った。事件の衝撃は、薄れていない。
「カミソンの同級生」という冒頭の2人は、裁判が結審した4日の午後4時過ぎに、この場所にやって来た。
小遣いから1000円ずつ出し合い、小さな花束とチョコレート、ポテトチップスなどを買い求め、供えた。
「カミソンは男子にも女子にも人気がありました。同学年の男子でいちばんモテるかどうかはわからないけど、カミソンが好き! という女子はとても多かったんです。ホントにやさしかったから……」
女子生徒のひとりは、2度と見ることができない明るい笑顔を思い浮かべながら、そう話してくれた。
「犯人は絶対、許せません!」
もうひとりの女子生徒は声を荒らげ怒りをぶつけた。まったく罪のない同級生の命を勝手に奪った少年らへの憤りは、今も残されたものの奥に沈殿し、消えることがない。
裁判で意見陳述した父親は、「息子の苦しみを想像すると、気が狂いそうになる」「一生会えない苦しみをわかっているのか」と、やり場のない怒りを静かに吐き出した。
Aが被告人質問で「上村くんのことを忘れず背負っていきたい」と発言したことに対しては、「遼太の命は犯人に背負えるほどちっぽけなものではない」と声を荒らげて切り捨てた。
かわいくて仕方なかった、とタオルで顔をおおう母親は、「触れることも抱きしめることもできない。刑なんてどうでもいい。少年に言いたいのは、“遼太を返してほしい”」
子どもを思う母親の気持ちが、あまりにも切ない。“カミソンくん”が全裸で惨殺されたのは昨年の冬、凍える寒さの真夜中。2月20日の午前2時ごろだった。
死因は出血性ショック死。全身に43か所、首に31か所の切り傷。受傷状況が検察官によってつまびらかにされると、嗚咽をこらえようと必死の傍聴人もいた。
真冬の冷たい川を無理やり泳がせたという非道。首には、イスラム国が日本のジャーナリストらを殺害した処刑のように切断を試みた痕跡があったという残虐。
「あんなに幼い子どもが、どんなに痛く、冷たく、そして怖かっただろうと思うと、今でもいたたまれなくてね」
殺害現場で手を合わせていた、横浜市から来たという70代の女性は、涙と怒りで言葉を震わせていた。
取材/山嵜信明と週刊女性取材班