夏の参院選の争点を憲法改正と明言した安倍首相。今の国会でも「いよいよどの条項について改正すべきかという新たな、現実的な段階に移ってきた」と述べるなど、憲法改正への意欲をむき出しにしている。その突破口として『緊急事態条項』が浮上してきた。
名古屋学院大学の飯島滋明准教授(憲法学・平和学)が解説する。
「'12年に自民党が出した『日本国憲法改正草案』の98条、99条を見ると、規模の大きな自然災害、戦争や内乱、その他法律で定める緊急事態と書かれている。つまり戦争遂行のために利用される恐れがあるということです。何をもって緊急事態とするのか、その定義もあいまい。拡大解釈される余地を残しています」
主なポイントは以下のとおり。時の首相に権限を強化・集中させていることがよくわかる。
【お試し改憲「緊急事態条項」のポイント】
◎外部からの武力攻撃、内乱など社会秩序の混乱、地震など大規模な自然災害、その他法律で定める緊急事態に、首相が閣議決定で宣言
◎内閣が法律と同じ効力を持つ「政令」を制定できる
◎誰もが「国その他公の機関」の指示に従わなければならない
◎衆議院は解散されない
◎首相が「支出その他の処分」の権限を持ち、自治体の長に指示を出す
◎国会には事後承認でOK。緊急事態が100日を超えるときは、その前に国会承認が必要(国会承認は衆議院が優先)
「首相が閣議決定で緊急事態を宣言できます。国会の事前承認はいりません。緊急事態が100日を超えるときだけ国会にかければいい。宣言後は内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できたり、戦争の予算も自由に組める。緊急事態と認定されたら、市民や自治体が国の指示に従うことを強制されるなど、憲法で保障された基本的人権が過度に制限される可能性があります」(飯島准教授)
いつまで人権を制限するのか期限も書かれていない。
「ナチス・ドイツでヒトラー政権が好き勝手に振る舞えるようになったのは、緊急事態条項を悪用することで、当時もっとも民主的と言われたワイマール憲法を停止させたからでした。また1961年のアルジェリア危機の際に、フランスで緊急権が発動されましたが、少なくとも48人が警察に殺されています。歴史的に見て、きわめて危険な状態をもたらす恐れが高い」(飯島准教授)
先月19日の国会でも緊急事態条項の危険性を指摘するやりとりがあった。社民党の福島瑞穂参院議員から「内閣が法律と同じ効力を持つ政令を出せるようになれば、ナチス・ドイツの国家授権法とまったく一緒だ」と言われた安倍首相は、「いささか限度を超えた批判」と反論。大災害などの緊急時に国民の安全を守るため「きわめて重く大切な課題」と強調する。