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Cさんが民泊で貸し出す自宅の空き部屋

 2015年の訪日外国人観光客数は1973万7000人と過去最高を記録! 小売店をはじめ、観光バス業界、ホテル業界などがうれしい悲鳴をあげる一方、「うるさい」「マナーが悪い」など困惑の声も……。

 爆買いを楽しむ中国人の姿も見慣れたものになってきたけれど、2020年東京五輪に向けて、まだまだ増え続ける外国人観光客と私たちはどう向き合っていけばいいのだろうか。笑顔で“おもてなし”をするために知っておきたい日本の“宿題”とは?

 ホテル不足の新たな受け皿として注目されているのが、“民泊”。これは、住宅の一部や別荘、マンションの空き部屋などの一般家庭を、宿泊所として貸し出すサービスだ。

 火つけ役は、アメリカの民泊マッチングサイト『airbnb(エアビーアンドビー)』。滞在先を探す世界中の旅行者(ゲスト)と、空き部屋を貸したい物件オーナー(ホスト)をつなぎ、インターネット上で物件登録、検索、予約ができる仕組みだ。

 約190か国に200万件以上の登録物件があり、2013年に日本でもスタートした。今や国内でも2万件以上の登録があるという。

 いったい、どんなニーズがあるのだろうか。東京都内で民泊を利用し、夫婦で観光中だという中国人のBさん(30)に話を聞いた。

「実は数日前、箱根の高級旅館に1人4万円の料金を払って1泊しました。でも、日本の生活様式や文化も体験したくて、東京では民泊を選びました。ゴミの分別から、家具の配置に至るまで新鮮です。もちろん、宿泊費が安いのも魅力です」

 一般家庭のお風呂や洗濯機が置いてある洗面所、キッチンなど珍しいものがたくさん見れた、と満足そう。団体ではなく、個人での旅行は初めてだったという。

 一方、ホスト側には“副業ビジネス”としてのうまみがあると言われているが、実際はどうなのか。都内で3軒ほどの物件を5000円から1万円で貸し出すCさんはこう明かす。

「自宅の空き部屋などを貸していますが、正直、儲けにはなりません。光熱費がかかるほか、清掃も自分でやる。受け入れ前のやりとり、鍵の受け渡しなど、手間もかかります」

 それでも民泊を続けるのは、宿泊料以上の“体験”が得られるからだという。

「ゲストから食事に誘われたら、基本的に行きます。すると、宿泊後のレビューに“食事を一緒にしたことが楽しかった”と書かれる。次に予約する人も、それを見て“僕にも日本のお店を教えて”と声をかけてきます。そうやって、世界じゅうに友達が増えていくことが何よりの魅力ですね」

 フィンランド人の母(50代)と息子(20代)が泊まった際は、寿司の出前をとって、息子が大好きだという日本のアニメを鑑賞。母親の就寝後は男同士で朝まで語り明かしたという。また、タイ人2人が宿泊した際は安い居酒屋、バー2軒、締めのラーメン店まで付き合ったことも。

 トラブルになったことはないのだろうか。

「2年前、民泊を始めた当初は30代のオーストラリア人におねしょをされ、それを隠すためにベッドに水をまかれていたことがあった。原因は、受け入れ前のやりとりを省いて、宿泊許可を出したこと」

 『airbnb』では通常、受け入れ前にゲストとホストが互いに自己紹介をし、メールでコミュニケーションをとる。Cさんは、この過程で“英語での会話が難しい人”や“顔写真を登録していない人”“メールを送って1日以内に返信がない人”などは受け入れないようになったという。

 以来、トラブルはなく、泊めた人数は140人以上。ホストとゲストが互いを評価する口コミのシステムで、「安心」「清潔さ」「コミュニケーション力」などの高評価を蓄積してきた。同サービスには、登録者全員が不審者やマナー違反者を見張り、報告し合いながら秩序を保ってきた経緯がある。

「事前のメールで親しくなった相手には最大限、ホスティングをしようと愛着もわく。短期間ですが、家族のような存在になることもあるんです」(Cさん)

 しかし、こうした真剣な“おもてなし”も、日本では法律違反にあたるのが現状だ。旅行業界に詳しい金子博人弁護士に問題点を尋ねた。

「民泊は、昭和23年制定の“旅館業法”に抵触します。あくまでも目安ですが、年3回以上、お金を取って人を泊めたら営業行為とみなされてしまうんです」

 では、法律違反にもかかわらず、なぜ日本で民泊がこれほど広がっているのか。

「2年前の秋、国内では1000件以上、民泊物件の登録がありましたが、実態が把握できないまま見て見ぬふりをされてきた。旅館業法は、個人間のビジネスまで想定したものではなかったため“友人や知人を泊める延長線上の行為”という見方も一部あったのではないでしょうか」(金子弁護士)

 最近になって、民泊問題が騒がれるようになった背景には、日本特有の複雑な事情が絡むという。

「不動産業者が“空き家対策”を目的に民泊参入に動き出した。また、ゲストの受け入れや運営を英語で行うことが困難なホスト希望者のための代行サービス業者が異常発達しています。このようにビジネス色が強まる中で、取り締まりの必要性が叫ばれるようになったように思います」

 加えて、新たな問題として浮上したのが、賃貸物件をオーナーの許可なしに転貸する契約違反。いわゆる“又貸し”だ。

「突然、マンションに外国人が出入りするようになり、騒音やゴミの問題など、近隣住民から苦情が寄せられることで発覚するケースが多いですね。マンション規約に“民泊禁止”の項目を新たに追記するなど、対策が進められています」

 すでに東京・大田区や大阪府などの国家戦略特区では、一部地域で条例を定めて試験的に民泊事業を許可する動きも出ている。だが、“6泊7日以上の滞在”など、厳しい条件つき。

 政府は、ホテル不足の受け皿として民泊には期待を寄せており、旅館業法の“簡易宿所”に位置づけ、面積基準などを緩和する方針を決めたばかり。ワンルームマンションでも営業許可がとれるように最低面積基準のハードルを下げたうえで、家主に適正な営業を行うための申請を促していくという。早ければ今年4月から導入される予定だ。

 前出の金子弁護士は言う。

「世界では民泊が積極的な広がりを見せていますが、日本はまだ消極的です。本来、『airbnb』を中心とする民泊は、旅先の国の生活や文化を深い面まで経験したいというニーズに寄り添い、スタートしました。規制緩和、法整備の流れの中で、ホームステイ的な交流の要素が失われないことを願います」