2015年の訪日外国人観光客数は1973万7000人と過去最高を記録。小売店をはじめ、観光バス業界、ホテル業界などがうれしい悲鳴をあげる一方、「うるさい」「マナーが悪い」など困惑の声も……。
爆買いを楽しむ中国人の姿も見慣れたものになってきたけれど、2020年東京五輪に向けて、まだまだ増え続ける外国人観光客と私たちはどう向き合っていけばいいのだろうか。笑顔で“おもてなし”をするために知っておきたい日本の“宿題”とは?
日本の鉄道に不慣れな外国人観光客の“足”といえば観光バス。爆買いツアーの需要から、車両は増産体制に入っている。『三菱ふそう』広報部に話を聞いてみた。
「大型観光バスの販売実績は、'14年の約670台に対して、'15年は約810台と前年比120%になっています。大型バス全体(観光・路線含む)では、'14年に約1150台だったのが'15年は約1450台に。前年に比べ300台増えている状況です」
いまや爆買いのメッカとなった銀座では、中国人などのアジア系観光客を乗せたバスがひっきりなしに行き交う。巨大免税店『ラオックス』前で、団体客を次々に乗降させている一方、三越前では“バスの駐停車はご遠慮ください”と書かれた札を持つ従業員が見張りをしている……。
観光客らが買い物をしている間、バスはドアを開けたままハザードランプを点滅させて停車。運転手は運転席で所在なさげに待っている。
この“爆バス”状態で、はたして運転手は足りているのだろうか。交通政策に詳しい早稲田大学の戸崎肇教授はこう解説する。
「運転手不足は外国人観光客が急増する以前から問題になっていました。発端は2000年の貸し切りバス事業の規制緩和です。これにより新規事業者の参入が相次ぎ、過当競争が激化。労働環境は途端に厳しくなりました。旅行会社がバス事業者に対して大幅なダンピングを要求するケースも蔓延し、安全を担保することができなくなりました」
結果、今年1月の軽井沢スキーバス事故のように、安全を軽視する事業者による事故が起きることに。
「労働環境は悪く給与も低いまま。若い人がバスの運転手を目指すとはとうてい思えません。そのため運転手の高齢化も深刻な問題となっています。バスの教習所や教官不足も、若い人材が育たない要因でしょう。そんな状況下で、海外からの観光客が急増しているということです」
さらに、公益社団法人『日本バス協会』事業部にも話を聞いてみた。
「バスの運転手は不足しています。路線バスは定時定路線で運行しなければならず、運転手を観光バスに回す余裕がありません。対策として『貸切バス事業者安全性評価認定制度』を設けて、優良な事業者と認定されれば、営業エリアを広げられるようにしました。
浅草、銀座、秋葉原などでは、観光バスの路上駐車も問題になっており、警察や役所には苦情が寄せられているのを把握しています。でも、こちらに関しては対策が見えていません」
同協会は、路上に観光バスのパーキングメーターを作るなど、警視庁、関係自治体の対応に期待したいという。現場の声はどうなっているのか。
「浅草などの観光地には、車高の高いバスが止められる駐車場が近くにありません。お客様の観光中、バスを止められずグルグル巡回することもしばしばで、運転手と苦笑しています。
でも、目的の場所から遠くに止めてしまうと観光や食事の時間が10分ぐらいしか取れないこともあります。バス利用客が増えるのはいいことですが、車両を増やすより、まずは駐車場の確保をしてほしいですね」(ベテランバスガイド)
駐車場不足の問題について、戸崎教授はこう語る。
「都心には土地がないので、駐車場は地下に作るしかありません。また、これはバスではなく自家用車の話ですが、通勤などの際、郊外に車を止めて、そこから電車に乗る“パーク&ライド”という動きが始まっています。
これと同様の方法で、観光客を乗せたバスが都心まで来るのではなく駐車場が確保しやすいところから個別輸送をする方法は有効だと思います。バスを降りたら、鉄道やタクシー、場合によっては自転車を活用してもらうのです」
都心の交通網はJRや私鉄、地下鉄などが入りまじり“世界一、複雑”。
「案内人を配置すれば、ある程度の対処は可能。また、交通手段そのものを観光対象として楽しんでもらうという考え方もある」