全国の大学、会社から「講義をやって」とひっぱりだこの芸人・キングコング西野亮廣さん。“仕事の広げ方”“エンタメの仕掛け方”“イベント集客”などのノウハウを型破りな視点で語り、聴衆の度肝を抜いている。
「テレビの仕事をやめる」と宣言してから10年――。漫才師、絵本作家、イベンター、校長、村長など肩書を自由に飛び越え、上場企業の顧問にも就任しちゃった西野さん。どうやって“好きな仕事だけが舞い込む働き方”を手に入れたのか。その秘密を綴った異色のビジネス書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』の一部を、8月12日の発売に先駆けて特別掲載していきます。(毎週金曜更新)
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 まず、大切なのは、「問い」を持つことじゃないかな。

「箱根駅伝のランナーの速さはどうして伝わらないの?」や「チェ・ホンマンVSボブ・サップ戦のサイズ感が伝わってこない理由は何なの?」といった「問い」。

 とにもかくにも、この「問い」を持つ癖を身につけなければ、面白いことは何ひとつ始まらない。

 しかし、だ。

 箱根駅伝や格闘技のそれといった比較的ライトな「問い」はさておき、やっかいなことに、自分の人生を賭けるほどの「問い」……たとえば、「遠くにいる人と会話することはできないの?」というような「壮大な問い」は、自分にとって“居心地が良い場所”にはあまり落ちていない。

 なぜ、自分がいる場所の居心地が良いかというと、以前、この場所にあった「壮大な問い」を、すでに誰かが解決してくれたからだ。

 1876年にアメリカのグラハム・ベルが電話を発明しちゃったから、「遠くにいる人と会話することはできないの?」という「問い」は、もう生まれない。

 つまり、人生を賭けるほどの「問い」を見つけるには、居心地の悪い場所に立つ必要がある、というか居心地の悪い場所に立った方が「問い」が見つかりやすい。

 僕は、「やりたいことが見つからない」という相談を受けた時には必ず、「僕なら、3キロのダイエットをして、その体重を維持してみるよ」と返すようにしている。

 3キロ痩せるには食生活を改めなきゃいけないし、そして痩せたまま体重を維持するには帰り道は一駅手前で降りて歩かなきゃいけないかもしれない。面倒だし、あまり居心地が良いとは言えないよね。

 ただ、それによって何が変わるかというと、入ってくる情報が違ってくる。ここが大事。

 スーパーで食品を手に取る時に、これまで気にしなかったカロリー表示を見る。カロリーが低いものを選んでいくうちに、買い物カゴには、やけに味気のないものばかりが積まれていって、「あぁ、肉、食いてぇなぁ。野菜よりカロリーの低い肉はないのかなぁ?」と、そこで「問い」が生まれる。

 帰り道、ダイエットのために一駅手前で降りて、家まで歩いてみる。その道すがら、まるで流行っていない英会話教室を見つけることもあるだろう。

 その時に、「あの英会話教室は、なんで流行ってないのかな?」という「問い」が生まれる。「教え方かな? 立地かな? 看板のデザインかな?」といった感じで「問い」がドンドンと。

 それもこれも、一駅分歩いていなければ出会わなかった「問い」だ。

 ダイエットという、居心地の悪い場所に身を投じなければ、出会わなかった「問い」。

 人生を賭けるほどの「問い」は、そんなところに潜んでいる。

その「問い」に人生を賭けてみることにした

 だから、ときどき「生きづらい世の中だ」と嘆いている人を見ると、羨ましくて仕方がない。「何故、生きづらいのか?」「それを改善するためにはどうすればいいのか?」といった「問い」に囲まれているわけだ。天然でボーナスステージに立ってんじゃん。

「問い」には必ず「答え」が埋まっている。

「どうすれば、交通事故がなくなるんだろう?」「雨の日が待ち遠しくなるようなアイデアは何だろう?」といった、長年、答えが出ていない「問い」にも必ず。

 僕は、ある時、「お笑い芸人が、ひな壇に参加せずに生きて行くためにはどうすればいいだろう?」という「問い」を持ち、その「問い」に人生を賭けてみることにした。

「ああでもない、こうでもない」という試行錯誤の日々は、もちろん不安と隣合わせなんだけど、たとえ「問い」を持たずに生きていても、どのみち不安は隣に寄り添っているし、さらには次から次へと現れてくる「答え」を出す人々に嫉妬を繰り返しながら年老いていく人生になるだろうな、と思って「問い」を持つ人生を選んだ。

 とにもかくにも、まず「問い」を持つ。

「問い」を持つために、「問い」が落ちている場所に行く。

 皆がいるような整地された場所には、あまり落ちていないから、誰も踏み入れていないような足場の悪い場所に行く。まずは、その場所に行くところから。

 ……という話を相方の梶原君に話したところ、「問いストーリーやん」と返ってきたので、明日、解散します。16年間のご声援、ありがとうございました。

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《プロフィール》
西野亮廣(にしの・あきひろ) 1980年、兵庫県生まれ。1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業『株式会社クラウドワークス』の“デタラメ顧問”に就任。

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