昨年の相続税法改正により、納税義務がある人が約2万人も増えたという。「親がまだ元気だから……」「うちは財産がないから」なんて他人事のように考えていると、相続貧乏になるだけ。
そこで年100件以上の相続相談を受ける徳原聖雨弁護士(弁護士法人・響)に、実際にあったケースに役立つアドバイスを教えてもらった。
【相談1】
先日、父が亡くなりました。すでに母親も亡くなっているので、法定相続人は兄と私の2人だけです。
妹である私は実家から離れたところに暮らしており、兄が長年、父と母の世話をしてきました。ですので、両親の財産管理は兄がすべて行っていました。
今回、相続税の申告のため、兄から遺産分割協議書に署名捺印するように言われたんです。その中には、預金残高証明書もありました。しかし、生前から父親の銀行預金より兄が勝手に引き出している気配がありましたので、このまますんなりと印鑑を押すことに不信があります。
そこで、入出金履歴を確認したくて「父の預金通帳を見せてくれないか?」と兄に頼んだんです。すると、「どこにあるかわからない!」と、通帳自体を見せてはくれません。遺産分割協議書に印鑑を押す前に、調べる方法はないのでしょうか……?
【アドバイス】
取引していた金融機関がわかっていれば、相続人であることの証明(例えば、戸籍謄本など)を金融機関に提出。所定の手続きをふめば、過去数年間の入出金履歴を見ることができる場合があります。
では、取引金融機関がわからない場合はどうすればいいのか。これは大変です。まずご自身でお父様と取引のあった金融機関を見つけだす必要があります。金融機関がわかったとしても、金融機関によっては“法定相続人全員の同意を得ないと開示できない”という運用をしているところもあるかもしれません。
最高裁判所では“相続人は預金契約上の地位を引き継いでいるので、開示を求める権利は単独でも行使できる”と認めています。
これをもとに金融機関と交渉されるか、それでもダメなら弁護士などの専門家に相談してみましょう。
【相談2】
私たち夫婦は母が亡くなるまで自宅で同居しており、母の介護を一生懸命してきました。私には弟がいるのですが、弟は母の面倒をまったくみていません。母が亡くなり、四十九日を迎えたときのことです。
弟が「遺産はどうなっているの? 自分にも半分もらう権利があるんだから、早くよこして!」と私たち夫婦に詰め寄ってきたのです。
こんな弟に“遺産を一銭も渡したくない!”というのが私たち夫婦の正直な気持ちなのですが……。何とか弟の相続分を減らすことはできないでしょうか。
【アドバイス】
まず、法律上、親の介護をしていたとしても、遺産を多く受け取ることはできません。“親子なのだから扶養する義務があるでしょう”というのが法律です。
ですから、裁判所からすれば「お母様を介護されていたとしても、法律上の義務を果たしていたんですね」ということになってしまいかねません。確かに親の介護をされていたことで、親の財産が増えたとか減るのを防止したと証明できるのであれば、寄与分として遺産の配分を変えることができる場合もあります。
もっとも、寄与分と認められるかどうかは状況によりけりで、必ず認められるというものではありません。
こうなる前に、生前の対策が重要となります。お母様に介護してもらったことを意識した遺言書をのこしてもらうのがいちばんいいでしょう。
イラスト/坂木浩子