先日、最終回を迎えたTBSドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』。中谷美紀演じる主人公が奮闘する姿が話題を呼んだ。今や「結婚したい!」という思いに、年齢もタイミングも婚歴も関係ない時代。20代から70代までの婚活女子が探し求める「出会い」、そして「幸せ」とは?
人生経験を積み重ねてきた女性たちの婚活はどういう状況にあるのだろうか。この年代になると、離婚、死別、未婚など事情もそれぞれだ。
「私は5年前に夫と死別しました。子どもが高校に入ったのでこの春、とある結婚相談所に登録して2人ほど紹介してもらいました」
そう話すのは、近藤佐都子さん(仮名・55)。ただ、子どもが高校生であることで、男性側から好印象をもたれないと感じている。
「息子が卒業してからにしようかと思ったんですが、少しでも若いうちから探したほうがいいと感じて。仕事もあるし生活に困っているわけではないので、ゆっくり活動するつもりです」
ネットの婚活サイトでパートナーを探している会社役員の佐久間映子さん(58)は、ふたりの子どもたちが独立した8年前からひとり暮らしを楽しんできた。だが、還暦を間近にして気持ちが変わった。
「このままずっとひとりで老いていくのは寂しすぎる。そう思って、いろいろな人に会いました。でも私は気ままな生活が身についていて、相手に合わせることができない。それを痛感して落ち込んでいます」
仕事を持つ女性たちは自分の生活ができあがっているので、パートナーは欲しいが、毎晩、寝食をともにする結婚は窮屈だと感じているのだろう。
■最後くらい自分の人生を優先したい
50代以上に特化した結婚相談所『アイシニア』の代表で、カウンセラーの池田淳一さんは、中高年がパートナーを求める気持ちには強いものがあるという。
「自分の人生の最後を見据えて今後を考えると、やはり一緒に支え合っていけるパートナーが欲しいと思うようです。中高年だと周りに既婚者が多いので、みんなで集まってワイワイやるときも自分だけが独身だと寂しさが強くなるのでしょう」
子どもが成人したとか就職して家を出たとか、ひとりになったとき、“これからは自分の人生を考えてもいいのではないか”と申し込んでくる人が多いそう。
一方、経済的な不安を感じている女性も多い。そのため、こんな男性がモテるとか。
「家や資産があったり、定年のない仕事についている男性は人気があります。大企業をリタイアした場合も年金が見込めますから条件はいい」(池田さん)
下の表のとおり、婚活支援サービス『パートナーエージェント』による50歳~69歳の未婚男女2000人を対象にした調査でも、その傾向が見てとれる。“婚活する理由”について尋ねたところ、「経済的に不安だから」との回答が女性の上位にきている。
坂田葵さん(仮名・48)も、金銭的な不安を胸に、婚活に励むひとりだ。
「20年前に離婚して、必死でダブルワークしながら子どもを育ててきました。気づいたら子どもは独立し、ひとりきり。そんなとき体調を崩して入院して……。貯金も家もなく、この先、どうやって年を重ねていくのかと絶望的な気分になって、婚活を始めました」
男女問わず、なかなか相手が見つからないのは、こだわりの強い人。
「自分を大事だと思うなら、デートの費用はすべて男性が出すべきだと考えている女性もいます。最初からそういう考え方だと、男性からは不信感を抱かれますね」(池田さん)
今日は男性が奢ってくれたから、次は自分が出そうという姿勢でいる女性は好感度が高い。まだデートの段階なのだから、フィフティフィフティでいこうと思えるかどうかが重要だ。
「20代から30代の場合、結婚して子どもをもちたい人が大半ですが、中高年の場合は子どもが欲しくて結婚するわけではない。家族が欲しいのではなくて、パートナーを望んでいる。自分の人生をより豊かに、充実したものにするのが目的なんですね。
だから、最終的にいちばん大事なのは価値観が合うかどうか、一緒にいて楽しいかどうか。そこを重視する方が多いです」(池田さん)
アイシニアの場合、会員の約7割が半年から1年で相手を決めるという。必ずしも法的結婚ありきではなく、事実婚も少なくない。
「お子さんがいると、財産分与の問題もあるので法律婚を望まない人もいます。お互いに納得していれば事実婚もありでしょう」(池田さん)
20年に及ぶカウンセラー体験から、「最近は中高年の婚活が増えている」と実感するのは、結婚相談所『スターブライダル』の河西智恵子さん。
「夫のDV、借金、浮気や性格の不一致などに耐えてきて、子どもが成人してようやく離婚する人も増えています。その後、ひとりになってホッとするものの、やはり人間はひとりでは生きていけない。寂しいうえに、単身の生活は殺伐とするので、パートナーが欲しいと登録される女性は多いですね」
最初は資産のある男性がいい、1円でも収入の高い人を、と言っている女性でも、いざとなると、やはり相手の人間性を重視する。
「男性も女性も、人生経験が豊富だからこそ、自分の経験に頼って相手を決めつけてしまう。また、男性はいくつになっても女性に自分の理想を押しつけるところがあります。そんな男性特有の性格を理解したうえで、上手に受け止めてあげる賢さ、器の大きさを見せることも、時には必要だと思います。私はよく言うんです。“バカ利口になりなさい”と」(河西さん)
■束縛男もジジ臭い男も絶対イヤ
婚活して2年になる小池裕子さん(仮名・66)は、一時は婚約したものの破棄した経験がある。
「夫の浮気が原因で離婚して3年たちます。再婚したいのは経済的な理由もあるけど、それ以上に精神的に伴侶が欲しいと思ったから。婚約した男性は経済的には豊かな人でしたが、婚約したとたん本性が見えてきたんですよ」
それまでは裕子さんの意見を尊重してくれていたが、婚約すると「車の運転はダメ」「マニキュアはダメ」とダメ出しが始まった。
最初は彼の言うことを聞こうと思っていた彼女も、だんだん自由がなくなっていくことに恐怖感を覚えるようになった。
「彼は経営者でとても尊敬できる人だったんですが、あまりに細かく、私の言動を規制してくるのでつらくなってしまったんです。この年齢になったら“自分”というものがありますから、そこを曲げてまで結婚しなくてもいいと思い、婚約を解消しました」
年齢がいっているからこそ互いを許し合い、おおらかに見守り合えればいいのだが、どうしても男性は自分のこだわりを相手に押しつけてしまいがちだ。それをはねつける強い女性が増えてきているのだろう。
「いくつになっても恋愛したい、ときめいていたい。そう思うけど、現実はなかなかうまくいきません」
ときめく先には現実の生活がある。ふたりで老いていくというある種の覚悟が、中高年の婚活には必要なのかもしれない。
2回の離婚を経て、今も婚活をしている小林圭子さん(仮名・71)が相手に望むのは「若々しいこと」だという。
最初の結婚が破綻したのは55歳のとき。子どもたちが独立したのを機に、性格が合わない夫に離婚届を突きつけた。
「長年、女性問題で苦しめられました。住んでいる家をもらって離婚。そのころちょうどささやかながら親の遺産も入ったので、パートで働きながら生活してきました。でも恋愛したい、ときめきたい、という気持ちは消えなかった」
彼女は将棋教室やスポーツジムなど男性がいそうなところに出向き、気の合う同世代の人を見つけて事実婚へと踏み切った。
「ところが、相手がなんだかジジ臭くて(笑)。私はふたりで外出して楽しみたいのに、いざ一緒に住んでみたら相手は家でじっとしているだけ」
彼が性的な関係を拒否したことも彼女をイラつかせた原因のひとつ。
「結局、半年足らずで彼とは別れました。もう男なんていいやと思ったけど、やはりパートナーは欲しいから、また婚活を始めました。今度はもっと明るくて楽しい人がいい。この年で求めるのはそれだけですね」
取材・文/亀山早苗
図・イラスト/イケウチリリー