親が未婚の子どものために婚活をする「代理婚活」をご存じだろうか?
5月某日・土曜日。1970年創業の結婚相談所の老舗『マリックス』が主催する代理婚活『親おや交流会』が開かれた。会場は名古屋のホテル。この日の参加者は、息子の親29名、娘の親29名の計58名。『マリックス』代表の升村要さんが交流会のシステムを教えてくれた。
「交流会当日は、娘さんや息子さんの写真つき身上書を持参し、それを見ながら条件の合う方と自由に会話してもらいます。そして、お互い気に入れば、身上書を相手と交換できます。何人とでも交換できるので、多い人は10枚程度用意してくるようですね」
会は13時スタートだったが、1時間前から会場に人が集まりはじめ、テーブルに置かれた参加者リストを熱心に見入っている。名簿には、年齢・居住地域・職業・性格・身長・体重などが書かれている。これをもとに、気になる相手を見つけ、親同士で話し合うことになる。ただ、人によってはこの段階で〇×をつけてターゲットを絞り込む。
参加者のメインは50代、60代だが、70代の親御さんもちらほら。
■人気がある息子&娘の親には行列
主催者からの説明が終わると、いよいよ交流会のスタートだ。まずは息子の親たちが、気になる娘の親の席を訪れ、情報交換。続いて、娘の親たちが息子の親の席を訪れる。
人の流れを見ていると、保育士の娘を持つ親のところにはちょっとした行列ができていた。婚活市場では保育士や看護師などが人気と聞くが、代理婚活でも同様のようだ。愛情豊かなイメージがあり、子どもをしっかり育てられそうな感じがあるのだろう。
一方、息子側では、こんなアピールをしていたご両親のもとに行列が。
「息子は料理が得意ではないんですが、今、一生懸命、姉に習っているところですので、ちゃんと手伝えます」
共働き・家事分担が当たり前の時代ならではの戦略。低姿勢で、お嫁さん候補を探していた。
交換用のプロフィールシートには息子・娘本人の写真が貼られていて、「はじめまして」のやりとりのあと、お互いの写真を見せ合うことになる。写真を見ながら「おきれいなお嬢さんですね」、「やさしそうな息子さんですね」など、容姿のチェックが入る。
「プロフィールの写真のときからちょっと太っちゃって。今はこんな感じです」
と、正直に近影のスナップ写真を持参する親もいた。風貌だけでなく、身長を重要視するなど、譲れない条件はさまざま。
「娘は背が高いですから……」と、まずは身長欄に目を光らせ、娘より背の低い男性の親をそれとなく牽制するひと幕も。一般の婚活同様に、代理婚活でも、やっぱり見た目は重要なのだ。
升村さんによれば、外見以上に年齢を気にする親御さんも多いとか。
「『親おや交流会』では、男性は25歳以上、女性は20歳以上と、年齢制限は緩いため、過去には50代の参加者もいました。とはいえ現実的には、婚活当人も、親も、なるべく年の近い相手を希望するものですね」
孫が欲しい場合“女性は40歳まで”と、親が独自に年齢制限を設けることも。
収入の程度も、婚活においては、重要なファクターであるが、同会では記入欄を作っていないという。
「親世代は特に、娘や息子に苦労させたくない、との思いからか、年収を気にしてしまう傾向にあります。でも、高身長・高学歴・高収入のいわゆる3高がもてはやされた時代と今は違いますし、ほかの条件がよくても年収だけが……という理由で、相手を除外してほしくないんです」(升村さん)
■母に感謝する娘、息子に悩む父母
身上書を持ち帰った後、当人たちは親が選んできた相手を素直に受け入れるのだろうか。代理婚活の“その後”が気になり、会場で会った青山さん(仮名)に追跡取材をさせてもらった。
娘は現在29歳・薬剤師。写真を見ると、親しみやすい笑顔が印象的な女性だ。「30歳までに結婚したい」と思っており、本人も結婚相談所に通っているが、母も並行して代理婚活を始めた。母、娘の協力態勢だ。
親おや交流会から約2週間後。娘に電話で話を聞くと、交流会で母が持ち帰ってきた10通のプロフィールシートから、2人の男性を気に入り、実際に会ったという。
「相談所でも男性とのご縁はありますが、なかなかうまくいかないので、母にも手伝ってほしいとお願いしました。今会っている人はどちらも30代半ば。1人は研究職で、もう1人は会社員です。決め手は高学歴で雰囲気が好みだったこと。会ってみたら、どちらも想像どおり素敵な方でした」(青山さん)
婚活する当人同士は初対面となるが、親同士はすでに顔なじみという関係。親子仲が良好である場合、代理婚活は非常に有効な出会いの手段となるようだ。青山さんの話を聞いていると、母娘ともに楽しんで婚活している様子が伝わってくる。
男性(息子側)の代理婚活事情はどうなっているのだろうか。
33歳の息子を持つ吉村さん(仮名)は、こんな悩みを打ち明けてくれた。
「息子は中学から男子校で、男性が多い職場のため出会いがありません。控えめな性格で、過去に彼女がいたこともなさそうなんです。心配していますよ。相手の結婚歴にはこだわっていません。妹には子どもがいて、その子たちには懐かれているので、お相手の女性に連れ子がいた場合でも、うまくやれると思うんですけどね」
夫も、仕事先でチャンスがあれば「息子が独身でして、よい方がいたら紹介してください」とアピールしているが、まだよい出会いはめぐってこないという。 “転勤が多い”という息子(38)の条件がネックで、相手が見つからないと悩むのは、中原さん(仮名)。
「代理婚活を始めて1年半ぐらい。2、3回ほど参加しました。4年前は彼女がいて、うまくいけばいいなと思っていたのですが、ダメになっちゃったみたい。男ばかりの職場で出会いもないので、親はきっかけだけつくって、あとは本人の意思に任せたいと思います。主人も“殿、そろそろご決断を”とメールをしたりして、息子を応援しています」
転勤が多いことをNG条件に挙げる女性が多く、婚活は難航しているという。
代理婚活の場合は、親が仲人役になるだけで、あとは子ども同士の問題となる。結婚を前提としたマッチングではあるが、昔ながらのお見合いとは違って、数か月の交際期間を挟むのが現代的。交際する中で違和感があった場合は、破談となることもある。
今、代理婚活はどれくらいのニーズがあるのか。
親の代理お見合い・婚活支援業者としては国内最大の『ひまわり交流会』は、2010年から東京・大阪・名古屋を中心に現在までに50回ほど実施。延べ約1500人が参加している。
同会を運営する株式会社『フロンティアインターナショナル』の江上裕史さんはこう話す。
「参加者は年々増加傾向にあります。すぐにいい相手を見つける親御さんもいれば、5、6回熱心に参加されて、やっとご縁に恵まれる方もいますね。年に数組ほど成婚のうれしいご報告をいただきますよ」
親が動かなければ、なかったはずの結婚。未婚・晩婚化社会と言われるが、チャンスに恵まれないだけで、結婚の意思はあるという男女も多いのが実情だ。
「世間では“子どもの代わりに親が婚活するなんて過保護だ”と言われることもあると聞きます。でも、当人にその気があるのなら、親御さんもちょっと手を貸して、チャンスを増やしてあげればいいと思います」(江上さん)