運転中に発病し事故を起こしてしまうなんて、大病を患っていない限りまずないだろう……。そう思っている人こそ要注意。
脳血管疾患や心疾患に続き、めまいや腹痛、失神などの比較的日常的な症状も事故への強力な危険因子だった。リスクを回避するためには?
高熱やふらつきなど、決定的な体調異変がない限り、ついつい握ってしまうハンドル。ひとたび操作を誤れば、同乗者、さらには歩行者や他の車を巻き添えに大事故に発展しかねない。
異変にはとにかく敏感でいること。運転しないという選択を堂々とすることが必須だ。
「ハンドルを握るまでに少しでも“今日は調子が悪いな”“何か身体の様子がいつもと違うな”と感じたら、まず運転しないこと。われわれの研究では、運転中に突然死した事例で、事故直前にブレーキやハンドル操作が認められたのは、わずか26.5%です」(運転中の突然死問題に詳しい滋賀医科大学の一杉正仁教授)
つまり決定的な異変に運転者が襲われたときには、もうほとんどが手遅れ。事故回避行動を取ることは不可能だ。
何かおかしい、と感じる以上に、具体的な痛みなどは身体のサイン。収まったからといって、見逃してはいけない。
「例えば脳血管疾患の場合、前兆や自覚症状として手足が動きにくくなる、しびれる、傍から見てロレツがまわっていないとわかることが多い。急にストンと意識がなくなるのではない場合も多いのです。
心疾患の場合、胸や背中にチクチクした痛みが走る、吐き気を催す、息切れがする、などの前兆がありえます」(一杉教授)
意識レベルが低下するだけで正常な運転に必要な認知、判断、行動能力を欠くことも。
「目を開いて一見、問題なく行動ができるように見えても、すでに何らかの症状が出ている場合もあります。無理をしないことはもちろんですが、周囲がいち早く異変に気づいて、運転を控えるように促すことも非常に重要です」(一杉教授)
さらに女性の場合、高血圧と同時に気をつけたい、いくつかのポイントがあるという。
「めまいを訴える人がたくさんいます。注意が必要です。妊娠中でも9割の人が運転を続けていますが、つわりがひどく集中力が保てないときなどには、おすすめできません。生理痛が強いときにも無理をすると危険です。冷え症の人も、血の流れが悪くなりがちなため、用心が必要です」(一杉教授)
血流の悪化も、運転の大敵だ。長時間、同じ姿勢で運転を続けると、腰痛、背部痛などに見舞われると同時に、身体の中では血液のドロドロ化が進んでいるという。
「2時間ジーッと座っていると、足の血液粘度は17%も増え、血液の塊ができやすくなることがわかっています。
ですから1時間半以内には、休憩をはさむこと、こまめに水分補給をすること。足がむくみ、赤く腫れていたら危険のサインです。足を少し動かすだけでも違います」(一杉教授)
最大の危険因子、高血圧に関してまずとるべき対策は?
「1日あたりの食塩の摂取量3g低下を目標に、塩分を控えること。味噌汁を薄味にする、おしんこを抜くなど少しの努力から始めてみましょう。食事は1日3回。1か月続ければ、細かいことでも90回分になりますからね」(一杉教授)
眠気など副作用のわからない市販の薬をむやみに飲むことも危険このうえない。花粉症や風邪の症状を運転時に抑えることは重要だが、自分で服薬を判断しないこと。
「日常的に車を運転する人は、きちんと医師に相談するのがいいでしょう」(一杉教授)
警察庁の運転免許統計('14年版)によれば、8200万人以上が運転免許を保有し、年間約54万件(交通事故総合分析センター・'15年)の交通事故が発生する時代。
「前兆や異変を感じたら、ただちに運転をやめること。日ごろから健康管理を怠らないことです」(一杉教授)