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熊本地震で落ちた府領第一橋

 蛇口をひねれば水が出て、いつでも橋や道路を安全に渡れる……。そんな生活の土台=インフラが壊された熊本地震は発生から1か月を過ぎてもなお余震が続き、現在も1万人近くが避難を余儀なくされている。

 平穏な暮らしを脅かすのは災害だけに限らない。1970年ごろに建設のピークを迎えたインフラは老朽化が進み、いまや崩壊への秒読み段階だ。

 地域再生、公民連携の専門家で、東洋大学経済学部の根本祐二教授は、熊本地震の被害実態にインフラの老朽化を重ねて見る。高齢化社会ならぬ“老朽化社会”の到来だ。

「役所の倒壊、体育館の天井の部分的落下、それから病院が使用停止になりました。橋が落ちました。すべてではないにしろ、老朽化して弱体化しているところに地震がきて、倒壊、落下した。新しいものは生き残っているので、老朽化すると相当弱くなっているのだということがわかります」(根本教授)

危機的な状況  

 年をとれば人間の身体にもガタが来るように、建設から何十年もたてば、建物や橋も傷む。劣化する。

「同じ時期に整備した建物や道路などは、同じ時期に老朽化を迎える。だが一気に建て替えるための予算がない。危機的な状況です」(根本教授)

 水道管が破裂し断水しても、それだけでは命にまで被害は及ばない。ところが建物や橋が壊れれば、命にかかわることがある。東日本大震災のとき、老朽化による被害があった。

「福島県の灌漑用ダムが決壊して、7人の方が亡くなっています。津波ではなく老朽化での決壊でした」(根本教授)

 戦後の高度成長期、全国でインフラ工事が行われ、日本人は便利さを手に入れた。新しい道路、新しい水道管、新しい学校……。時間がたてば、それらは古い道路、古い水道管、古い学校になり、いま、重荷になりつつある。

全国の橋の4割は建設時期すらわからない

 まずは橋について。

「日本全国に70万の橋がかかっているうち、いつ建てたのかわかる橋は40万。残りの30万は、建設時期がわからないんです」(根本教授)

 この車、何年式? と聞かれても答えられないようなもの。あまりにもひどい現状に、

「いまは国が音頭を取り、橋だけではなく、すべての公共施設、インフラの台帳を整備することになっている」(根本教授)

 法律で決められている橋の耐用年数は50年。ここに新たな“橋梁の2020年問題”が立ちはだかろうとしている。

「1970年代は毎年、1万本の橋が全国にかけられていました。それから50年たつ2020年以降にかけ替えの時期を迎える。すでに、40年たっているわけですから、ずいぶん老朽化しています」(根本教授)

 九州自動車道にかかる橋で、熊本地震で崩落した府領第一橋も建設から42年が経過していた。

 経年もさることながら、日本の橋の置かれた状況も、劣化に拍車をかけている。

「日本は地形が急峻なので、川の流れが速い。ですから、橋脚がどんどん削れていく。老朽化の症状が早く出やすいと言えます」(根本教授)

ひび割れを発見しても「予算がない」

 ふだん、安全性を疑うことなく車や自転車、歩いて渡っている橋が、これほどまでに老朽化しているが、

「年間1万本の橋をかけ替えないといけないのに、予算は1000本分しかない」という現状。そこで各自治体が打ち出している策が『長寿命化計画』だ。

「例えば橋脚の部分に鉄をグルグル巻いたり、舗装をやり替えたりして、車がスムーズに流れるようにする。そうすれば橋にかかる重力が軽くなります。全部壊してかけ替えるのではなく、一部ずつ補強したり取り壊したりして、耐用年数の50年を70年、80年へと延ばす。それが長寿命化です」(根本教授)

同じ時代にかけられた1万本の橋も、傷み方はそれぞれ。そこを見極めて、

「特に危なそうなところを集中的にやります。優先順位をつけて、人があまり通らない橋などは後回しにする。そういう基準を考えなければならないですね」(根本教授)

 前出の府領第一橋も、本来の計画では、平成26年までに修繕が完了している予定だったという。

「本体のひび割れが発見されたので、平成22年ぐらいには修繕の計画が出されていましたが、予算がつかずに実際にはできなかった」(根本教授)

避難所になる学校も一気に老朽化のピークを迎える

 学校や市役所、公共施設も、老朽化の波は避けられない。

「高度成長期のピーク時は、年間3000校作っていた。これから一気に老朽化のピークが来る」という学校は、いざという時の避難所になる。

 熊本地震では、耐震補強をしていたにもかかわらず金属のボルトが落下し、使用不可となった体育館があった。老朽化のためだ。少子化の現実を踏まえ、統廃合を進めながらも「早めに作り替えていく」必要があると根本教授。

 いちばん後回しにされがちなのが市庁舎だ。

「市役所が機能しないと罹災証明も取れない。熊本地震でも、宇土市庁舎をはじめ4つぐらいの庁舎が使用停止になりました」(根本教授)

 古くなった学校や橋や公共施設などが、日本じゅうの不安になっていることを国も承知している。

 平成28年度だけで7985億円が『国土強靭化計画』の老朽化対策として計上されているが、「今あるインフラを今後も継続するには、9兆円が必要」と、かかるお金はケタ違い。これまでと同じように、ではいかない時代……。

「箱ものを思い切って減らす必要がある。例えば、図書館や公民館は、学校の空き教室を使って、機能を集約する。何を諦めるか、何を我慢するか。住民側がしっかりと考えて決めていく時期に来ています」(根本教授)