高浜原発1、2号機は再稼働の審査に「合格」。老朽原発の運転延長に道を開いたと言われている

 熊本地震をきっかけに、国内で唯一、稼働を続けている九州電力川内原発(鹿児島県)の停止を求める要請が相次いでいる。10万人を超えるネット署名も集まったが、原子力規制員会(以下、規制委)の田中俊一委員長は「止める理由はないと判断している」と述べ、緊急性がないとの見方を強調した。

 エネルギー問題に詳しいNPO法人『環境エネルギー政策研究所』の飯田哲也所長は「科学者の風上にも置けない」とアキレ返る。

「緊急対応時の拠点となる免震重要棟を作らず、事故時の避難ルートにある橋は地震で落ちる恐れがあり、道路も寸断されるとわかった。川内原発が再稼働する際、その前提となったことが明らかに崩れています。

 加えて、熊本地震は震源域が広く、気象庁も“地震活動の推移は少しわからないことがある”としていた。前震が起きた段階で予防的に止めたほうがよかった」

■世界の原発は廃炉までの平均寿命が23年

 不安要素は地震だけではない。橋や道路、水道と同様に原発も老朽化する。そして、その影響はほかのインフラとは比較にならないほど大きい。

 川内原発1号機は1984年7月、2号機は1985年11月と運転開始から30年以上が経過している。

「福島第一原発事故後に“40年で廃炉にする”という規制が作られましたが、ここからが老朽原発という明確な基準があるわけではない。世界の原発は、廃炉までの平均寿命が23年。長期間使うほど金属がもろくなり、さまざまなトラブルが生じることで廃炉にしている。そう考えると、運転開始から30年以上たつ原発は高齢の域に入っていますし、警戒したほうがいい」(飯田さん)

■わずか2、3年の使用で微細な亀裂が1万6000か所

 もっと早いタイミングで廃炉になった原発もある。飯田さんは米カリフォルニア州サンオノフレ原発を例に挙げる。2013年に2機の廃炉が決まった原発だ。

「原因は、三菱重工が納めた蒸気発生器の伝熱管に欠陥があり、水漏れ事故を起こしたことでした。交換後わずか2、3年の使用にもかかわらず微細な亀裂が1万6000か所も見つかったのです。

 そのまま使い続けると1991年に関西電力美浜原発(福井県)で起きた“ギロチン破断事故”という、核分裂によって発熱する原子炉の炉心部を冷却する“一次冷却水”が漏れる、大事故につながる恐れがありました」

 この蒸気発生器と同じものが川内原発にも使われている、と飯田さん。

「大きな地震の直撃とともに一時冷却水が漏れ始め、外部電源が倒れて……。そうした要素が重なったら、とんでもなく怖い事態が起きてしまいます」

■福島原発2号機は地震で壊れていた!?

 事故の収束作業が続く東京電力福島第一原発も、いわゆる老朽原発のひとつだ。1号機の運転開始は1971年3月。それからちょうど40年を迎えるタイミングで東日本大震災が起きた。

 “想定外”の津波ですべての電源を失い、原子炉を冷やせなくなったことが大事故につながったと言われているが、これに対する『日本原子力研究開発機構』の上級研究主席を務めた原発研究者・田辺文也さんによる“疑惑”の提起は衝撃だ。

「福島第一原発2号機の格納容器は、地震によって壊れた可能性が高い」

 放射能を外に出さないための最後の砦、それが格納容器。核燃料が入った鋼鉄製の原子炉圧力容器を覆っている。地震でも壊れないように、ある程度の揺れまでは耐えられるよう設計、建設されているという。

「ところが2号機は、格納容器が地震の揺れで壊れたか、あるいは劣化してその後の何らかの負荷がかかったことにより破損した可能性が高い」(田辺さん)

 津波で電源が失われたあとも、福島第一原発2号機では、原子炉隔離時冷却系という装置を用いて原子炉を冷やし続けていた。2011年3月12日未明、その水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制プールに切り替えた。

 原子炉に注水すると、原子炉の熱により蒸気が発生。その蒸気で原子炉隔離時冷却系のタービンを回して注水の動力とし、排気蒸気を圧力抑制室に戻すことで循環させていた。

「圧力抑制プールを冷やす機能は津波で失われていましたから、水温がどんどん高くなるにつれ、格納容器の圧力がどんどん高まっていくはず。ところが、想定される圧力の上昇よりずっと低い。それは格納容器に穴が開いていたためとすれば、簡単に説明できます」

 それを裏付けるかのように、3月14日の夜9時半ごろ、福島第一原発の正門で毎時3000マイクロシーベルトという高い放射線量が観測された。

「2号機の格納容器に穴が開いていなければ、これだけ高い値が出ることは考えられません。核燃料が溶け落ちるメルトダウンで小さな穴が圧力容器に開いて、そこから放射能が格納容器に漏れ、それがすでに開いていた格納容器の穴から出た。そう考えると素直に理解できます」

■科学的とはいえない論理で激しく否定

 これに対し、東電や原子力安全・保安院(当時)は「地震で早期に穴が開いた可能性を、とても科学的とはいえない論理で激しく否定」したため、現在に至るまできちんと検証がなされていない。

「電力会社や保安院が認めたがらないのは、地震で壊れた可能性が否定できないとなると、これまで行ってきた、地震による影響についての評価の信頼性が危うくなるからです。この論証の仕方で大丈夫なのか、と」

 福島事故のみならず、地震発生時の重大リスクにつながりかねない疑惑を検証することなく再稼働を進めるのは無責任、と田辺さんは厳しく批判する。

■圧力容器が割れる老朽原発のリスク

「原発は老朽化するにつれ配管が腐食して割れたり、電気配線が劣化したり、コンクリートがひび割れていきます。なかでもいちばんの問題は、原子炉の炉心から飛び出した中性子線が圧力容器が脆化、つまり劣化させることです」

 そう話すのは東京大学の井野博満名誉教授(金属材料学)。老朽原発研究の第一人者で、その危険性を警告し続けてきた。

 原子炉内で起きた核分裂に伴い中性子線が発生すると、それが炉心から外へ飛び出し、圧力容器の内側に当たってダメージを与える。

「これを『中性子照射脆化』と言いますが、老朽原発では、中性子線が金属を硬くさせる現象が起こります。力が加わると、割れないで変形するのが金属の特徴。しかし、この現象で硬くなった金属は弾力が失われて変形できないため、ちょっとしたひび割れでもあればそこからパリンと割れてしまいます」

 また金属は、劣化が進むと『脆性遷移温度』と呼ばれる、ある温度を境に割れやすくなるという性質を持つ。最初はマイナス数十度でも、時間がたつにつれ徐々に上がっていくため、20年、30年という歳月をかけて、マイナスどころかプラスの温度に転じてしまうというのだ。

「運転開始から40年がたつ関西電力高浜原発(福井県)の1号機は、この温度が99℃。高温であるほどリスクは高くなります。

 というのも、地震などの緊急時には、緊急炉心冷却をして圧力容器を冷やさねばならないからです。

 急に冷たい水が注入されることで圧力容器に亀裂が生じやすくなります。ガラスのコップにお湯を注ぐようなもの。割れてしまう。原発も、同じ状態になる恐れがあります」

■“40年で廃炉”のルールには抜け穴が

 高浜原発1、2号機は原子力規制員会に再稼働を申請、“40年で廃炉”のルールがあるにもかかわらず今年4月20日に「合格」してしまった。

「40年ルールには抜け穴があります。1回限り、運転を20年延長できるという“特例”が設けられているからです」(井野さん)

 古い自動車を運転して怪我をしたり、人を傷つけたりする恐れがあると、保険代が高くつくことでブレーキがかかる。安全な車に買い替えようか、そもそも車をやめようか。そういう発想になるのが一般的。

 ところが、原発に関して電力会社の考えは異なるようだ。前出の飯田さんは言う。

「例外がむしろ本則になるような形で、次から次に40年超えの原発も延長を図ろうとしている。それが日本の現状です」