教師を苦しめる、とんでもない要求する、いわゆる“モンスター・ペアレント”。そのストレスで心を病み、休職や、最悪のケースでは自殺に追い込まれる教師も後を絶たないという。教師の心を壊すモンスター親たちの実例を、クレーム対策アドバイザーの関根眞一さんに聞いた。
■給食費未払いを開き直り
ある保護者が給食費・教材費をまったく払わないまま、クラス替えがあり、前担任は異動。新担任は電話や手紙で支払いをお願いするも、効果はなく、家庭訪問へ。母親の身なりからは、貧しい家庭には見えなかった。
「昨年の担任はそんな話をしなかった。義務教育なのにお金を取るなんておかしい。テレビでもみんな払っていないと言っている」
と言うばかり。さらに、
「違う学校のママは、給食費は校長に払ってもらっている。そんなに子どもに給食を食べさせたいなら、先生が払ってください」
母親はこう開き直る。
「未払いに味をしめたケース。義務教育への話題をすり替えてはいけません」(関根さん)
■受験生の担任は妊娠させない
新婚の女性教師が、受験を控えた中学3年生の担任に。保護者会で、役員のひとりがこう言いだした。
「子どもたちは大切な時期なので、今年1年は出産することがないようにお願いします。つきましては『出産計画誓約書』を書いてください」
それから数週間後、女性教師の妊娠が判明。すると、保護者数名が「妊娠は約束違反。クビにしてほしい」「産むつもりなら生徒に土下座して謝罪を」「謝罪文を書いて生徒全員に配って」と要求。
「SNSの普及で横のつながりが強まり、集団で無理を通そうとするパターンも増えています」(関根さん)
■弁当の材料費を要求する
小学校で、運動会が雨天順延に。すると、保護者のひとりが中止になったことに抗議にやって来た。「天気予報ぐらいちゃんと調べておけ!」「校長が雨男なんだろう」。ついには「弁当の材料費を親戚の分まで支払え。学校から出せないなら、校長が払え!」と弁当の材料費を要求。校長は自腹で支払った。
「粗暴な行為で脅し金品を要求。これは恐喝行為です」(関根さん)
■通知表を修正しろと迫る
受験熱の高い都内区立小学校。5年生の男子生徒の父親が、成績表に不満があると校長室に乗り込んできた。その生徒は、授業中は居眠りばかりで、宿題もほぼ未提出。
校長が説明しても、「うちの子を問題児扱いするのか。志望校に落ちたら担任のせいだ」と主張。成績表を一番高い評価に改め、子どもに謝罪するよう求めてきた。
その後、担任は「通知表を書き直し、届けろ」という父親からの電話を1日おきに受けるように。さらに、「名誉毀損で訴える用意もある」とまで言われてしまった。
「精神的に教師を追いつめていく手法。第三者の介入が必要です」(関根さん)
■友達申請を拒否され報復
人気者の男性教師に、ある母親がSNSで友達申請。後日、保護者会で教師から、「私生活と仕事は分けているので」と名前は挙げずに断られると、母親は腹を立て、学校のサイトに教師の悪口を流した。
「娘に色目を使っている」「SNSに保護者の悪口を載せている」という書き込みに、ほかの保護者から「あれは本当なんですか!?」と抗議が殺到。男性教師は校長からSNS退会を命じられることに。
■修学旅行をやり直させる
修学旅行を日光・鎌倉のコースで実施する中学校。ある仲のいい保護者3人が、「娘たちは思い出づくりにディズニーランドに行きたがっている。行き先を変更してほしい」と言ってきた。教師が変更はできないと伝えると、保護者たちは娘たちを修学旅行に参加させず、好きなところへ行かせると主張。
結局、3人の生徒は修学旅行のかわりにディズニーランドへ向かった。その後、学校では修学旅行の思い出話でもちきり。すると保護者が「なぜもっと修学旅行が大事だと説得しなかったのか。これでは娘たちは仲間はずれだ」と抗議。「もう1度、修学旅行をするべきだ。それまで子どもは登校させられない」と言いだした。
「子どもを“人質”にした要求。ほかの子の転校を要求するケースも」(関根さん)
■とにかく謝罪文を書かせたがる
生徒たちが授業で使った道具を持ち帰る学期末に、女子生徒が帰宅途中に転倒。すると、母親が「娘は担任教師の指示で、荷物をたくさん持たされて帰り、転んだ。その責任は担任にある」と怒って電話をかけてきた。担任は計画的に持ち帰るよう指導していたことを説明。
後日、父親が職員室へやって来て、「責任を子どもになすりつける気か!」と担任を怒鳴りつけた。さらに、「管理職の謝罪文に実印を押印して原本を届けろ」と要求。副校長が「提出はできかねます」と断ると、「1週間以内に提出しなければ親戚が殴り込む。ヤクザの知り合いもいる」と恫喝して帰っていった。
「暴力的で、一歩間違えたら警察に通報されかねない危険な行為です」(関根さん)
イラスト/鈴木七