貧しいけれど勉強したい。奨学金はそんな若者を救うためにあるはず。しかし卒業後、数百万円の返済に追われる現実がある。のしかかる利子や延滞金。返済中の若者に話を聞くと、想像以上につらい“借金生活”が明らかになった。
「留年して奨学金が打ち切られてしまい、返済が始まりました。親には頼れず、返せるお金はない。郵便による督促は全部無視しました。その3年後です。債権回収会社から督促電話がかかってくるようになったのは……」
そう話すのは、東京近郊の4年生大学を卒業した林健吾さん(26=仮名)。独立行政法人『日本学生支援機構』を通じて国の奨学金を計192万円借りた。利子と延滞金を含めた返済義務を背負う。
奨学金を返せない若者が増えている。日本学生支援機構の'14年度データによると、3か月以上の延滞者は17万3000人。総延滞額は2491億円にのぼる。
与野党は7月の参院選を見据え、こぞって「給付型奨学金の創設」を言い始めた。返す必要のない奨学金のことだ。選挙権が18歳以上に引き下げられたことに伴い、経済的に苦しい若者の救済にようやく本腰を入れたようにもとれる。
とはいえ、過去に奨学金を借りた大学生らが救われる見込みはない。
地方から上京した林さんが奨学金を借りたのは大学2年と4年のとき。実家から仕送りがあり、2年時はパソコンを購入するなど生活に余裕があった。しかし、4年時は事情が変わった。
「父親がだまされて多額の借金を負っていたんです。仕送りが止まり、バイトも頑張っていたら単位を落としてしまいました。奨学金返済からひたすら逃げ回りました」
債権回収会社から督促の電話がかかってくるたび、無視した。無視しても電話はまた鳴る。後輩の面倒見がよかった林さんが、他人を遠ざけるようになった。
「何をしていても心が休まらず、毎日電話に怯えていました。友人の誕生日を祝う気持ちがなくなり、口数も減った。自分以外にエネルギーを割けなくなったんです」
最近、雇用先で仕事ぶりが認められるようになり、将来に光が差した。少しずつ奨学金の返済を始めた。
■“こんなところにいる女はクズだ”と罵られた
笑顔がチャーミングな前田かすみさん(22=仮名)は首都圏の国立大学を卒業し、医療系の仕事に就いている。実家に余裕はなく、大学時代の生活費は無利子の奨学金でまかなった。
「返済総額600万円です。金額を言うとタメ息が出ちゃいます」
在学当時、20歳前後で百万円単位の借金がどんどん膨らんでいくのが怖かった。奨学金が通帳に振り込まれるのを確認するたび、少しでも稼ぎたいと思った。「時給4000円」は魅力的な条件だった。
「いわゆる“おっぱいパブ”でした。安っぽいドレスが支給されて、でも上半身はすぐ全部脱いじゃうんですけどね。店内の照明が薄暗くなったら客のひざの上にまたがり、5分間、上半身は何をされてもいいことになっていました」
怖い客も多かった。
「酔っ払いによく絡まれました。おしぼりで顔をぶたれたり、“こんなところにいる女はクズだ”と罵られたこともあります。夜の仕事に興味はあったけれど、奨学金返済がなければガールズバーくらいにしていたかもしれない」
完済まで10年以上かかる。返済が遅れたことはない。
今春、音楽系の大学を卒業した相川千波さん(22=仮名)はミュージシャンとして一歩を踏み出した。カフェでアルバイトしながら営業ライブなどをこなし、どうにか手取り15万円程度。総額240万円以上の有利子奨学金の返済が秋から始まる。
「音楽がやりたくて大学に入ったのに、バイトで練習時間を削られるのがイヤで、カッツカツの生活を送っていました。1食200~300円でおさめたくて、毎日モヤシばかり食べていました。栄養失調でよく体調を崩しました」
与野党が給付型奨学金の創設に向けて動いているニュースには声を荒らげた。
「どうせ、受給できるのは、ひと握りの中のひと握りですよ。そもそも財源は税金でしょ? ウチらのときにも出せって言いたいですよ!」