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貧困や虐待を生き延びた当事者でもある黒沢さん

 18歳が初めて選挙権を得る参院選が、22日に公示された。

 NPO法人『若者就職支援協会』の黒沢一樹さん(36)は定時制高校や通信制高校の特別授業で、生徒たちと社会問題について話をしている。黒沢さんは中卒で、いじめや虐待の被害者であるため、自らが“題材”となっている。

 生徒たちは政治的な関心が高くはない。なかには、都知事の名前すら知らない生徒もいるという。

「定時制はひとり親の子どもたちが多く、経済的な困難を抱えていることが多い。格差があり学力にも表れています。アルバイトをして家計を支えている生徒も珍しくない」

 定時制高校に通う生徒たちは「貧困問題」という政治課題の対象だ。しかし、生徒自身が生活と政治を結びつけることができない。

 黒沢さんが選挙に行くようになったのは27歳のころだ。勉強や選挙よりも働くことが重要視された家庭に育った。黒沢さん自身が選挙の大切さを理解できなかった。しかし、将来のことを話せば、生徒は選挙に関心を持ってくれるという。

「僕も最初、選挙は遠い存在でしたが、社会活動をするにつれて霞が関の官僚とつながるようになった」

 官僚の勉強会に招待され自らの活動について話をすることもある黒沢さんも政治が身近になってきた。とはいえ地域差も大きい。

「地方だと、地域のつながりが強く、先輩と後輩という関係で選挙の話になります。でも、都市部だとそういうつながりもなく、無関心な生徒が多い。投票しても何も変わらないと思っているんです」

 そんな生徒たちを前にしたとき、黒沢さんは関心を惹きつけるキーワードを用意している。それは「カッコいい」「かわいい」「危ない」。そうした言葉に生徒は敏感だ。

「生徒たちはリスクを嫌がります。だから“怖い”“やばい”ということにも関心があります。僕自身が中卒で苦労したので、体験談を話します。中卒だとその後の人生にリスクがあることを説明すると、高校を卒業しないと“やばい”ってことが伝わるのです」

 中卒だとアルバイトでも時給に差があり、そんななかで健康保険料や年金保険料を支払わなければならない。高卒以上とは差を感じやすい。

「貧乏なのはリスクと思っています。頭が柔軟な段階で、政治のことを学ぶ必要がある。高校生にとって身近な話題、例えば奨学金はみんな関心があり、話を聞いてくれます」

 性暴力支援、自殺対策、貧困問題……。若者をめぐる政治課題は数多くある。そうした政策に政治が目を配るには若者たち自身の声が欠かせない。選挙の投票は、その入り口だ。

取材・文/渋井哲也