横浜市の小中学校17校で、高濃度の放射能汚泥が置かれたままになっていることが発覚。8000ベクレル以下の除染土を公共事業で再利用する計画も進められ……。
3・11から5年、福島原発事故で日本中にまき散らされた放射能汚染の影響は、今なお続いていた。
「耳を疑いました。安全と思って子どもを預けている学校に、こんなものがあるなんて」
神奈川県横浜市の小学校に子どもを通わせるIさんは不安げにそう語った。“こんなもの”とは、福島第一原発事故で発生した放射能汚泥だ。
横浜市の小中学校で、1キロあたり8000ベクレルを超える汚泥が確認されたのは'11年12月。雨水を水洗トイレに利用するための施設で、貯水溝にたまっていた汚泥を市が計測してわかったものだ。17校2.9トンの放射能汚泥に対し、'13年9月、市は国へ『指定廃棄物』の申請をした。
「学校に問い合わせたら、担任の先生は知らなくて、何ですかそれ? って。ほかのお母さんたちも知らなかった」
と話すのはSさん。前述した17校に小4の娘の学校を見つけたときは驚いた。なのに、親はおろか教師の間でさえ周知が徹底されていない。
新陳代謝が活発な子どもたちほど放射線の影響を受けやすい。とにかく学校から動かしてほしい。
該当校の保護者らで作る『学校・保育園の放射能対策 横浜の会』が中心となり、インターネットでの署名活動を展開。市との話し合いも重ねた。
地道な訴えが実を結び、先月25日、市の放射線対策本部会議で、学校外での保管を検討し始めたことが明らかに。
「学校での保管が長期化し負担が大きいことに加え、保護者から不安の声が上がってきている事情を踏まえた結論です」(放射線対策本部事務局)
指定廃棄物が学校に置かれているのは全国で横浜市だけ。議会で、この事実を林宏子横浜市長から引き出した井上さくら横浜市議が説明する。
「今年3月、環境省と教育委員会が年に1度、該当校の保管状況を点検する際に同行しました。子どもが立ち入らないよう鍵をかけた部屋で、鉛を巻いたドラム缶に入れて厳重管理しているとはいえ、隣が体育館や教室だったり、階段に面していたりする」
市は「安全に保管されているので問題ない」というが、環境ジャーナリストの青木泰さんは「学校を“核の保管場所”にするなど論外」とバッサリ。さらに、こう続ける。
「原子炉等規制法で、原発や医療施設などでの放射性物質の取り扱いの基準は100ベクレルと定められ、その基準を超えたものは、今も核(廃棄物)としてドラム缶に入れて、数百年の保管が義務づけられています」(青木さん)
これに対し、横浜市の学校に保管されている指定廃棄物は、この基準の80倍の8000ベクレルを超える。
「なぜ二重基準になっているかと言うと、福島原発事故によって、東日本全域に放射性物質が大量にふりまかれたため、'12年に施行された『放射性物質汚染対処特措法』のもと、福島事故由来の放射性物質の基準は8000ベクレルにまで暫定的に引き上げられたからです。
この暫定法のもとでも指定廃棄物は特に汚染度が高く、国・環境省の責任で処理するよう定められています。5年もたつのに今日まで放置しているのは、国の怠慢と言うしかない。一刻も早く学校外へ出すべきです」
環境省は、最終的な処理のめどが立っていないことを横浜市に任せている理由とし詫びながらも、
「保管場所をどうするかは保管者たる横浜市の判断になる。放射線が遮蔽できるよう基準を満たしていれば、どこでもかまわない」(同省指定廃棄物対策チーム)
一方、市は指定廃棄物について「本来、国で処理すべき」とし、さらに「集約保管する場合、近隣の方の理解を得るのはなかなか難しいだろうとの判断から、暫定的に学校での保管を決めた」(放射線対策本部事務局)経緯がある。
放射線防護を専門とする立命館大学の安斎育郎名誉教授は、次のようにクギを刺す。
「国の主導で移せば前例を作ることになるから、環境省としては避けたいのでしょう。廃棄物は分散させるのではなく1か所に集中させて、人間の被ばくに結びつかないような場所で管理するのが原則。やはり国が責任をもって進めなければなりません」
前出の青木さんも、こう語る。
「東京電力が起こした事故による指定廃棄物ですから、環境省の指導のもとに当面、原発施設内で保管させるのが筋。全体量が約3トンなので、17校全部の指定廃棄物をドラム缶ごと運んでも、10トントラック2~3台ですむ。横浜市は学校に保管していたことを恥じ、ママさんたちの声を生かして、ただちに環境省に移管を申し入れるべきです」