鳥越「“モノより命”を保育の現場に行って痛感した」
東京都知事選に立候補しているジャーナリスト・鳥越俊太郎氏(76)=民進、共産、社民、生活推薦=は20日、JR品川駅前の街頭演説で言葉にひときわ力を込めた。
「きょう世田谷区で保育の現場を見てきました。どれだけ大変か、ということを改めて肌で感じました。保育士を目指している28歳の男性に給料を聞くと、手取り13万円という。13万円ですよ!」
毎日新聞記者を皮切りに報道番組『ザ・スクープ』(テレビ朝日系)でキャスターなどを務めた鳥越氏は“現場”から伝える。世田谷区が補助する保育室で、28歳の保育士候補生は0歳児の男児をひざの上に抱え、横から女児が泣いてすがりつき、背中には1歳3か月の男児が乗っかっていた。
「おそらく13万円では暮らしていくのにいっぱいいっぱい。本当はつらいでしょう。でも、彼は保育士の志を貫きたいと思ってやっているんです」
低賃金でもこの仕事をしたい。そんな若者の心の声が聞こえたのだろう。“取材”は進み、年配の女性保育士を含めて給料の手取り平均20万円という実態を知った。
鳥越氏は演説で訴える。
「昔は都から補助金が出ていたそうです。しかし、ある知事(石原氏)のときに打ち切られてしまったという。道路や箱モノにかけるお金があったら人にかけようよ。ねっ。モノより命、保育の現場に行って痛感したところです」
匿名のブログ『保育園落ちた日本死ね!!!」を国会で取り上げた民進党の山尾志桜里政調会長が応援に駆けつけ、こう言い切った。
「保育士さんの処遇を本気で解決する覚悟を持っている候補者は鳥越さんしかいない」
鳥越氏は、待機児童問題に真っ先に手をつけるという。
小池「知恵を絞って用地を確保する」
そんな鳥越氏に先んじて保育園を視察したのは元防衛相の小池百合子氏(64)=自民党所属。告示前の8日、江戸川区の認可保育所を訪ねた。
舛添前知事は選挙公約で「4年で待機児童ゼロ」を掲げながら、視察は美術館ばかりで保育園に1度も足を運ばず批判を浴びた。小池氏は笑顔で園児と接した。
立候補表明の会見で、小池氏はこう述べている。
「公園をつぶして保育所にすることにはいろいろな批判が出ています。知恵を絞って用地を確保する。都有地を貸し出して韓国人学校をつくる話は白紙。そこに保育所をつくるというのも一案です」
働くか、子どもを持つことをあきらめるか─。日本特有の悪しき二者択一を終わらせるために、保育所の受け入れ年齢や広さの規制を見直すという。つまり、面積要件などを緩和してもっと受け入れてもらおうということ。空き家や廃校利用を考えたり、人材確保のアイデアもある。
「子育てを終えた、あるいは子育て中のお母さんがほかのお子さんも預かる“保育ママ”など、東京が先行モデルとなってやっていきたい」
JR王子駅前の20日の街頭演説では、「アベノミクスは積み残されている部分が多いけれど、東京から引っ張っていく」などと声を張り上げた。
増田「区との連携なしにできるわけがない」
元岩手県知事の増田寛也氏(64)=自民、公明、こころ推薦=が保育園を視察したのは3番手。1日に2か所を回り、粘土でハンバーグをつくる園児らと交流した。過密スケジュールで、「もう帰っちゃうの」と残念がられた。
そのあと、増田氏はJR北千住駅前で訴えた。
「認可保育所(江戸川区)と認証保育所(足立区)を見てきました。いろいろなタイプがあります。しっかり頭に入れて『待機児童解消・緊急プログラム』を就任1か月以内につくります。9月、12月の都議会で子育て予算の増額補正をお願いする」
都福祉保健局が19日に発表した4月1日時点の都内の待機児童数は2年ぶりに増加に転じ、前年比652人増の8466人となった。
増田氏は、鳥越氏と小池氏にはない首長経験のアドバンテージを押し出している。
「保育所をつくるのは都知事ではなく、区の仕事なんです。区をいかに後押しできるか。これが都知事の役割です。区との連携なしにできるわけがない」(JR綾瀬駅前で)
都内23区の首長でつくる特別区長会の西川太一郎会長(荒川区長)らから出馬要請を受けた強みがある。
子供の貧困問題、憲法改正と東京都
先の参院選では、大学進学時の給付型奨学金の創設がクローズアップされたばかり。都は首都大学東京(旧都立大学)を抱えるが、各候補は詳しく言及しない。
鳥越氏は子どもの貧困問題に触れて「生まれるところは選べない。大学に行きたくても行けなかった。そういう現実がある。早くシステムを変えなきゃいけない」と教育予算の拡充をほのめかす。
小池氏は都独自の給付型奨学金の創設に踏み込んだ。
増田氏は「子どもの貧困をなくす」ことを政策に盛り込んでいる。
憲法改正はどうか。国会は衆参両院で改憲勢力が3分の2を占めた。母親たち、祖母たちはいずれ徴兵制につながるのではないかと心配する。
小池氏は自民党所属であることに変わりない。増田氏は記者会見で「都知事選に憲法の問題を持ち込むのはどうか」と疑義を示している。
一方、鳥越氏は「反安倍」という明確なスタンスをとる。
「平和と憲法、そして核のない社会を守る東京でありたい。これは公約の中に入れています。憲法というと、それは国政じゃないかという人がいますが、そんなことはありません。東京は日本の首都です。東京こそ憲法を大事にする。憲法を守っていくというメッセージを発信していく」