市川海老蔵さんが、妻・小林麻央さんの乳がんを公表して以来、これまで無関心だった若い世代の女性までもが医療機関の検診に殺到しているそう。
いまや12人に1人がかかるといわれる乳がん。日本人女性にいちばん多いがんで、女性のがん罹患率ワースト1位となっています(国立がん研究センター・2015年データ)。まさに、誰がなってもおかしくない病ですが、日本人女性の乳がん検診率は34・2%(同データ)と、欧米諸国の70~80%台に比べ、まだまだ低いのが現状。この数字を上げることが、早期発見の命綱といえそうです。
しかし、市区町村などが実施する『対策型検診』(40歳以上・2年に1回のマンモグラフィ検査+視触診)を受けていたのに、進行した状態で乳がんが見つかるケースも後を絶ちません。
乳がん検査には、マンモグラフィ、超音波、MRIなど、いくつかの方法があります。それぞれの検査には長所・短所があるため、一律に自治体などの検診を受けていても早期発見できるとは限らないのです。ではどうすれば、効果的な受け方ができるのでしょう? 乳腺画像診断の第一人者、戸﨑光宏先生にうかがいました。
万能ではない【マンモグラフィ検査】
行政や自治体の『対策型検診』で一般的なのがマンモグラフィ検査。X線検査のマンモグラフィは、微細な「がんの石灰化」を見つけるのは得意です。しかし、乳腺密度が濃い女性には適していません。
乳房は主に脂肪と乳腺組織からできていて、乳腺組織が多くある状態を『高濃度乳腺(デンスブレスト)』といいます。高濃度乳腺の女性は乳房全体が白く映り、乳がんも同様に白く映るため、雪景色の中で白いウサギを探すようなもの。がんを見つけにくいのです。
怖いのは、日本の集団検診の多くが、がんが見えなければ“異常なし”と通知すること。ですから、検診を受けるなら、医師と対面で結果が聞ける医療機関を選ぶ、もしくは、結果が郵送された後、医療機関に乳房の状態を問い合わせることをおすすめします。
高濃度乳腺の女性は【超音波検査】も追加して
高濃度乳腺は一般的に若い女性が多いと思われがちですが、アジア人、特に日本人女性の50歳以上で約8割が高濃度乳腺だというデータもあるほどです。ですから、検診の際、自分が高濃度乳腺とわかったら、超音波検査を追加することをおすすめします。
超音波を乳腺に当て画像診断ができる超音波検査は、しこりを見つけることが得意です。検診は自費(数千円)になりますが、マンモグラフィと併用することで、乳がんの検出率は1・5倍になります。
ただし、超音波検査は、医師や技師の経験や技術が必要です。信頼できる医療機関を選んでください(認定NPO法人乳房健康研究会のHPから医療機関を検索できます)。
発見率は90%以上【MRI検査】の威力
MRIは強い磁場を利用した装置で、乳がんを診断するための、もっとも感度(病変の発見率)の高い画像診断です。しこりになる前の非浸潤がん(※編集部注:乳管の中に乳がん細胞がとどまった状態。5年生存率で100%完治)の検出率は、マンモグラフィ検査56%に対し、乳房MRI検査92%というデータもあるほどです。
しかし、MRIは検診段階で自費診療であること、また造影剤を投与しての検査であるなどから、一般の検診と比べ、敷居が高いのが現状です。
欧米では遺伝的に乳がんにかかりやすい女性の検診に、MRIが有用だと知られています。もし、遺伝性乳がんのチェック項目(表参照)に1つでも該当していたら、遺伝性乳がんのリスクがあるかもしれないので、MRI検査を、「1度は受けてみる」ことを考えてみてもいいでしょう。受診する際は、日本乳癌検診学会の画像診断ガイドラインをクリアした医療機関を選んでください。
MRI検査の結果を踏まえ、「検診の間隔」「どの検査が効果的か」など、医師と今後の方針が立てやすくなります。
基本的には、ハイリスクの女性は「マンモグラフィ+MRI」、ハイリスクではなく高濃度乳腺の女性は「マンモグラフィ+超音波」、それ以外の女性は「マンモグラフィのみ」というように、自分のリスクを知って、有効な検診を受けることが望ましいでしょう。
最近よく耳にする遺伝性乳がんとは
女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんの予防のため、両乳房の切除手術を受けたことで注目された遺伝性乳がん。日本人でも、乳がん全体の5~10%が、このタイプに該当するといわれています。
遺伝性の乳がんの代表が、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」です。少し難しい専門用語を使いますが、HBOCは「BRCA1」「BRCA2」という2つの遺伝子の病的な変異によって、生涯乳がんになる確率が最大で85%程度、卵巣がんになる確率が60%程度まで高くなる病気です。
アンジェリーナ・ジョリーさんの場合、「BRCA1」遺伝子の変異があり、生涯乳がんにかかる確率が80%以上と高く、予防が必要でした。しかし、もしこれが20%ならどうでしょう。予防的手術より、検診を欠かさないことを選択するかもしれません。
このように、乳がんにかかりやすい遺伝子を持っていても、リスクは人それぞれ。
自分が遺伝性乳がんに該当するかも、と不安になったら、まず遺伝カウンセリングを受ける手段もあります。実際に遺伝子検査を受けるかどうか、予防的治療に進むメリット・デメリットを含め、ベストの選択を一緒に考えてくれます。このような手段があることも、頭の片隅に残しておいてください。
《プロフィール》
◎戸﨑光宏医師
放射線科医師。相良病院附属ブレストセンター・放射線科部長/さがらウィメンズヘルスケアグループ・乳腺科部長。東京慈恵会医科大学放射線科、亀田京橋クリニック画像センター長ほかを経て現職。日本乳癌学会診療ガイドライン作成委員。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク理事長。乳腺画像診断の世界的権威。