乗鞍高原の小川

 道具の準備ができたら、いよいよ山へ。L-Breath御茶ノ水店で女性限定の山の講座を定期的に開催している、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドの渡邊尚子さんにアドバイスしてもらった。

「山歩きは、女性のほうがよさを感じられる方が多いと思います。普段の生活から抜け出し、日常からかけ離れた世界に行けること。道中で会える人が挨拶をしてくれることでわかる、他人とのつながり。身体はもちろんですが、心が和らぐ機会になることが、山歩きの最大の魅力です」

生きた“情報”は直接聞いてみる

 では、まず準備で気をつけることは?

「ありがちなのは、山の名前で検索をして得た情報が“合っているのか”“自分に必要な情報なのか”を判断できずに取り入れてしまうことです」(渡邊さん)

 情報を得ることが、山を好きになるための第一歩。特に大事なのは、現地の正式な情報。天気予報や経験者のブログだけではわからないその日の山の状況は、その土地の観光協会や、山小屋などに直接電話をして聞いてみるといいという。山小屋や交通機関の営業状況はもちろん、山道の状態などの現地の情報が、準備にそのまま生きてくる。

 また、低山といえども山歩きは運動。体力に自信のある人もない人も2週間くらい前から積極的にウォーキングや、下り階段を使うようにするのが準備になるという。当日に疲れが残りやすいので、前日だけは運動をしないで安静に過ごそう。

 そして、いざ当日。おすすめは登り始める30分ほど前におにぎりを食べておく。そうするとエネルギーとして効率よく使われバテにくいそう。次に、軽くストレッチをしてゆっくり登り始めること。

 息が上がらない、心臓がドクドクしない程度のペースで、静かに足を下ろすようにする。この際、呼吸と足を下ろすタイミングを合わせることで、誰でも楽に歩けるそうだ。山は日常生活とは違う気温や気圧の変化があるため、体調不良には十分注意したい。

「女性のほうが自分の身体を守ることに優れているのか、環境の変化で体調が変わりやすいんです。でも、お仲間同士で行くと元気な方に合わせて、我慢しちゃうんですよね。童心に戻って楽しんでいる最中ですし。でも、そのちょっとずつの疲れが後で体調不良やケガにつながるので、無理をしないでください」(渡邊さん)

 体力のない人に合わせたこまめな休憩と、いつもと変わらないペースでのトイレ使用、そして重要なのは「のどが渇く前に水分をとること」と「おなかがすく前に食べること」。手軽に摂取できる糖分や炭水化物系の食べ物を、ひと口ずつ歩きながら食べることで、山歩きの体力が続く。

この行動食、口が渇かないような塩飴やグミなど、季節や好みに合わせて持っていくといい。おすすめはソフトクッキーやナッツ、ドライフルーツ、草餅や大福などの和菓子。夏であれば塩分のあるせんべいなども。

「ミニトマトや、キウイなどのカットフルーツもいいですね。女性同士だとみんなの分まで持ってきたりと、お楽しみとして食べることも多いです。山頂でお弁当をしっかり食べるのも楽しいですが、運動が続くため消化不良を起こしてしまうことも多いので、なるべく長い休憩の際以外は軽いものを」(渡邊さん)

下り道のほうがケガをしやすい

 さて、頂上まで登って山を堪能したら、次は下り。下りといえど油断は禁物。時間的に気温も下がりやすいため、ゆっくりしたペースを守り休憩をこまめに取ることが大切だ。上り以上に「静かに足を下ろす」ことを意識するといいそう。

また、下りは惰性で歩いてしまい、頭がボーッとして眠気を感じ、体力がある人でも、なぜか転んでしまう人も多いとか。

「集中力を切らさない、危険箇所は声がけをすることが前提ですが、笑うことが眠気を抑えるので、おしゃべりをしながら下りるといいですね。おしゃべりができない人は元気がないのもわかります」(渡邊さん)

初心者にもおすすめの山

■乗鞍高原(長野県松本市)

JR松本駅より上高地線で新島々駅、路線バスで50分「のりくら高原」下車。2700mまでバスで行けるので、気軽に高山トレッキングが楽しめる。北アルプスの雲の上からの大パノラマや高山植物の花畑、運がよければ雷鳥にも出会え、3000m級の高山の魅力を満喫できる。手軽だけど体調管理・天候対策は入念に!
【のりくら高原観光案内所】http://norikura.gr.jp/

■御岳山(東京都青梅市)

JR青梅線御嶽駅より西東京バスで約8分、ケーブル下停留所で下車、ケーブルカーで約6分。山頂まで一気にケーブルカーで登れる手軽さながら、まさに「秘境」と呼ぶにふさわしい手つかずの自然が残っている山。こけむした岩肌と清流の間を縫って歩けば、日常も時間も忘れて思いっきりリフレッシュできるはず。
【青梅観光案内所】http://www.omekanko.gr.jp/annai/annai.php

■陣馬山(神奈川県相模原市)

JR中央線藤野駅より、津久井神奈交バスで約5分、陣馬登山口停留所で下車すぐ。初心者向けから中上級者向けまでコースがあり、頂上では関東富士見百景に数えられる富士山をはじめ、関東平野、房総半島まで見渡せる360度の大パノラマを堪能できる。山頂のお茶屋さんでは山の幸が味わえるのもお楽しみ。
【藤野観光協会】http://info-fujino.com/

■須磨アルプス(兵庫県・六甲山系)

阪神電車須磨浦公園駅下車。六甲山の西端にある低山地域ながら、いくつもの山頂を渡り歩くことができ、気軽に山登りの醍醐味を楽しめる須磨アルプス。「馬の背」と呼ばれる岩稜地帯は海を見下ろしながら歩けるのが、スリルもあって気持ちいい!
【須磨観光協会】http://www.suma-kankokyokai.gr.jp/

■岩湧山(大阪府河内長野市)

近鉄長野線または南海高野線河内長野駅より南海バスで滝畑ダムバス停下車、徒歩にて山頂へ。道がわかりやすく、3〜4時間ほどの景色を楽しみながら安全に登ることができる大阪の名山。山頂は大阪を一望でき、秋は黄金色、春はピンク、初夏は新緑が光る山頂のカヤが広がる景色もとても印象的。
【河内長野市観光協会】http://www.kankou-kawachinagano.jp/index.cgi

■瀞峡(奈良県・三重県・和歌山県にまたがる)

三重県「有井駅」から国道311号線を西に進む。コバルトブルーに澄んだ水が彩る、荒々しく切り立った渓谷はまさに幻想的のひと言。のんびり歩いても1〜2時間で景観スポットにたどり着ける手軽さも魅力。いつもとひと味違った風景は、また格別な思い出に。
【新宮市観光協会】http://www.shinguu.jp