熊本地震は夜間に揺れが頻発し……
防災アドバイザーの山村武彦さんは、最初に震度7の地震があった今年4月14日の翌日に熊本入りし、被害地域を回り、16日の本震も現地で体験した。
「本震は、震源が浅いために突き上げるような衝撃でした。被災地で印象に残ったのは1階部分がつぶれている家屋の多さ。それも新耐震基準を満たしている新しい家屋も被害が出ていました。それが活断層周辺に、数多く見られたんですね」
山村さんは熊本地震の特徴をこう振り返る。
「熊本地方で30年間に大地震が発生する確率は、わずか7・6%。誰もが想定していない大地震が連続し、さらにほとんどが夜間に起きた地震でした。しかも、大きな揺れの7回中6回が夜間に発生。就寝時に物が落下してくる恐怖などから、人々は屋根のあるところで寝るのを嫌がった。また指定避難所の小学校などでも多くの被害が出たため車中泊や青空避難が急増し、さらなる混乱を招きました」
事前訓練でわかる避難生活の過酷さ
熊本では、家が損壊した人で直後に避難所暮らしを選択した人は約半数という。ほかの人は青空避難、車中泊、自宅前のテント暮らし。
なぜなら避難所は、暮らすには過酷な場所だからだ。特に女性や高齢者は、トイレやプライバシーなどの問題で十分な睡眠が得にくい。また、乳幼児の泣き声やペットの問題もあり、できるなら避難所で暮らさずにすませたい。では、被災地で家が壊れなかった人の暮らしはどうだったのか。
「電気が止まれば真っ暗になるのは当然ですが、換気扇も動きません。するとトイレのニオイは消えず家じゅうに広がる。下水道も使えなくなり、トイレを流せない場合も。すると汚物はビニール袋などにためるしかありません。大人1人分の大便だけで1日2、3キロになる。ましてや家族の人数分。冷蔵庫は、氷が溶けて水があふれてきます」
山村さんが提案するのが“在宅避難生活訓練”だ。
「実際にブレーカーを落として電気を消し、水道・ガスを使わずに生活してみると、本当に必要なものがわかってきます。懐中電灯でトイレに入ろうとしても手がふさがり明かりも小さく、なかなか難しい。下に置けるランタンがあったほうがいい。手すりに真っ暗でも見える蓄光シールで避難路を示せば便利だ、など実用的な方法も考案できる。また、食料や水は分散備蓄したい。玄関や納戸、寝室、車のトランクなどにも分けて保存しておくと、どこか1か所がふさがっても全滅を防げ、蓄えられる量も増えます」
震災関連死でかなりの数になるのが、避難所関連での死者だ。東日本大震災では約1800人にものぼった。そのためには避難所という選択肢以外、例えば安全な地域の親戚や知人の家に身を寄せるといった選択も考えるべきだろう。
さらに、わが家を安全な場所にする方法を普段から心がけたい。山村さんが推奨しているのは、年2回の“防災大掃除”だ。
「『命捨てるな、モノ捨てろ!』をモットーに、避難の邪魔になるものをどんどん捨てて避難経路を確保する。物に阻まれては素早く逃げることができません」
家族間と地域間の協力態勢が最重要
災害時に肝心なのは家族間の連絡である。山村さんは遠く離れた親戚や知人などを中継地点にして連絡を取り合うことをすすめる。
「災害時には被災地への携帯やスマホの通話が制限されますが、被災地から外への連絡は制限されません。普段から家族会議を行って連絡手段を決めておくべきです。“まったく連絡がつかなかったら、菩提寺の墓に伝言を残す”とか。そして家族各自がそのメモを常時持ち歩くのが大切」
神奈川県寒川町では自治体が「家族防災会議の日」を制定している。毎月第1日曜日がその日で、「身の回りの安全対策」「避難場所の確認」「非常持ち出し品の点検」などを話し合うようにしているのだ。
また、地域で助け合うネットワークづくりも大切だ。東京都昭島市では『互近助カード』が作られた。互いに近くで助け合うように、裏面には所属自治会や氏名とともに住民各自の番号が記載されていて、避難所で提示するとどこの誰が避難したかがひと目でわかるようになっている。さらに、その地域に互近助カード協力店を作り、カードを提示すると割引してくれる。地域の活性化にもつながりメリットがあるおかげで誰もが持つようになったのだ。山村さんが言う。
「ひとり暮らしの女性も安否確認をし合える友人やネットワークを持つことが大切です。災害に遭ったらまず自分が生き抜くこと、そして隣人を助けること。それが災害列島の作法です」
★非常時のトイレ問題はこうして乗り切ろう!
避難所で最も深刻な問題のひとつがトイレ。断水、下水管損壊時に用を足すには? 山村さんのイチオシ対策を紹介。手指消毒薬や予備のペーパーの備蓄も忘れずに!
<プロフィール>
◎山村武彦さん……防災・危機管理アドバイザーで「防災システム研究所」所長。現地調査250か所以上、防災講演は2000回以上行っている。『スマート防災』(ぎょうせい)ほか著書多数