「あの曲を知らない子どもやママはいないと思います。でも、急にブレイクしているのが不思議。だって、昔から保育園や児童館では当たり前のように流れていたから」

 そう話すのは、都内に暮らす小学生の子どもを持つ30代の主婦。

「あの曲」とは「エビ!」「カニ!」と歌いながら踊る『エビカニクス』のこと。作詞作曲をし、歌っているのは、ともに幼稚園教諭の資格を持つ女性2人組ユニット「ケロポンズ」だ。

ケロポンズは増田裕子(ケロ・右)と平田明子(ポン・左)からなるミュージック・ユニット

 1999年に「ケロ」こと増田裕子さん(54)と、「ポン」こと平田明子さん(48)で結成。

 以来、ファミリー向けのコンサートやイベントに引っ張りだこの存在でもある。

「『エビカニクス』は、2002年に発表してから、じわじわと保育園・幼稚園の先生や子どもたちの口コミで広まっていきました。とはいえ、曲だけがひとり歩きする状態で、私たちのことを知っている人は少なかった。4年前に動画をYouTubeに公開したことで、爆発的に広まったんです」(ケロ)

 それが評判となり、今年7月には大手レコード会社からこれまでの楽曲のベスト盤を発売し、話題となった。

「それまでは“エビカニクスを歌っている人”だったのが、『ケロポンズ』として覚えてもらえるように。最近は小学生になるうちの娘のクラスメートからサインをねだられたり、近所の店のおばちゃんから野菜をプレゼントされたり、14年前の曲が今になってこんなに反響を呼ぶなんてビックリです」(ポン)

「実は、甲殻類のアレルギーが…」

1度見たら忘れられないインパクトのある衣装。「水着の素材だから、どれだけ動いても、汗をかいても大丈夫!」(ケロさん)

 口コミ、YouTubeへの動画公開を経て、大ブレイクを遂げた『エビカニクス』。成熟するまで月日を要した曲だからこそ、こんなエピソードも。

「発表当時、園児として踊っていた子が今は保育系の学生になっていたりして。コンサート会場で“エビカニクスで育ちました!”なんて言われるんです。子どもの成長とともにこの曲も育っていったと思うとうれしいですね」(ケロ)

 YouTubeの再生回数が1400万回に届く勢いの『エビカニクス』は、勢いそのままに現在は英語、中国語、スペイン語バージョンも公開中。1度聴くと「エビカニクスで踊っちゃおう~」というフレーズが耳から離れなくなるこの曲。いったい、どうやって生まれたのか?

「食事をしながら打ち合わせをしていたときに、“エビ、カニ、エビカニエビカニ、わー!! ってやったら面白くない? エアロビクスとかけて、エビカニクスとかどう?”なんてお酒の力も借りて盛り上がっているうちに(笑)。でも、私は甲殻類アレルギーがあって、エビやカニが食べられない。食べると、お岩さんみたいに顔が腫れてしまう……」(ケロ)

「地方に行くとイベントの主催者の方が気を遣ってご当地のエビやカニを振る舞ってくれるのですが、ケロさんは食べられない(笑)。私が全力で美味しくいただきます!」(ポン)

 なんという衝撃の事実! エビとカニを食べられないのに、あんなに楽しそうに歌うなんて逆にすごい! 「子どもを楽しませるには、まずは大人が楽しまないと!」とケロさんは笑いながら話す。

「自分たちがつまらない気持ちでステージに立っていたら子どもたちも盛り上がらない。楽しむ気持ちを置いてけぼりにしてまじめなものを作ろうとすると、子どもたちに見破られる」(ケロ)

「子どもって、シンプルで覚えやすいものを好みます。覚えやすかったら大人も一緒に楽しめる可能性が高いですよね!? 『エビカニクス』の振り付けも本格的なエアロビの動きではなくて、なんちゃってエアロビ。みんなで一緒にできるから、ここまで広まってくれたのかなって」(ケロ)

 シンプルだからこそ誰でも楽しめる。ケロポンズのステージがエンターテイメントの枠を超えて、親、保育園・幼稚園の先生たちにとって“育児のコミュニケーションツール”としても重宝されているのは、子どもたちと一緒に楽しむヒントがたくさん発見できるから。

 実際、ケロポンズ効果を目の当たりにした保育園の先生たちからは、こんな声が聞こえてきた。

「普通に体操をするよりも、『エビカニクス』を流しながら子どもたちと一緒に作ったエビとカニのお面をかぶって体操したほうが私たちも園児も盛り上がる(笑)。私たちが楽しそうにしていると、子どもたちも生き生きするんです。私たち先生にとってもケロポンズはアイドルです」

育児の現場には喜びがたくさん

 ケロポンズのふたりは、ともに大学卒業後、幼稚園教諭として数年間働いていた過去を持つ。ケロさんは当時の経験が、今に生きていると振り返る。

「私の勤めていた幼稚園は、子どもたちを画一的にまとめて保育する傾向が強かった。 子どもたちは十人十色で、それぞれの育て方や可能性があるはず。息苦しさを感じ、思い悩んでしまって……。それで音楽や表現を通じて、子どもたちや保育の現場に還元したいと発起し、音楽活動を始めたんです」(ケロ)

「子どものためにという思いは一緒なはず。でも、園によってアプローチやコンセプトが違うから、自分のやりたいことが実現できない先生もいると思う」(ポン)

「私自身、悩みすぎて当時は暗くなっちゃった(苦笑)。子どもたちは大人の比ではないほどパワーを持っている。子どもたちに囲まれているんだから、子どもたちからパワーをもらって、寄り添うことが大事だなって。ラブ&ハグの気持ちをいつも心に抱いていてほしいなぁ」(ケロ)

ケロポンズの2人。大人気曲『エビカニクス』を含むDVDつきベスト・アルバム『おどって あそぼう!!ケロポンズBEST』(ユニバーサルミュージック)は、Amazonキッズ・ファミリー音楽ランキングで1位に輝くなど絶賛発売中

 待機児童問題、モンスターペアレントなどなど、何かとネガティブな話題でフォーカスがあたることの多い保育の現場。先ほどの保育園の先生は、「ポジティブな話題を保育界にもたらしてくれたケロポンズの存在に勇気づけられる」とも。

「そう言ってもらえると本当にうれしい! ケロポンズ結成以前から、私たちは個々に子ども向け音楽活動をしていました。そのときのお母さんが今はおばあちゃんになって孫と一緒に『エビカニクス』を踊っています。保育や育児の現場は人間が成長していく過程に携われるからこそ、喜びもひとしお。明るい話題がたくさんあるんです」(ケロ)

 ということは、ケロポンズのコンサートに行けば、家族が円満になれる!?

「家族だれでも楽しめるのが、私たちのライブのいいところだって自負しています。一緒に踊って、一緒に思い出を共有するのは、子どものためにもいいこと!」(ポン)

「今は子どもたちに知られた存在だけど、ひいてはお子さんのいない方や、ご高齢の方にも喜んでほしい。各国語バージョンの『エビカニクス』も作成したことだし、世界中で歌って踊ってほしいですね」(ケロ)

『エビカニクス』が世間を席巻する曲になる日も、あながち夢じゃないかも!?

<プロフィール>
◎ケロポンズ
1999年結成、増田裕子(ケロ)と平田明子(ポン)からなるミュージック・ユニット。あそび歌や体操の作詞、作曲、振り付けを手がけ、親子コンサートや、保育士・幼稚園の先生を対象にした保育セミナーなど多数出演。2008年より『おかあさんといっしょ』(NHK)に楽曲提供、2009年より『それいけ!アンパンマンくらぶ』(BS日テレ)で準レギュラーを務めるなど、多岐にわたるメディアで活動中。