碧空(みらん)、星凛(あかり)、奏夢(りずむ)、輝星(べが)……など、'16年上半期のキラキラネームランキングが発表された。全然読めない名前に頭を抱えることも多い反面、テレビで見かける若いタレントなどには、おじいちゃん、おばあちゃんにもおなじみの、古風な名前『しわしわネーム』が増えている。最近の名付けの風潮とは――。
「学校の同級生に愛瑠(える)くんという子がいました。学校や習い事で、名前の読み方を初見でわかってもらえないので、本人は困っていましたよ。陸上の試合に出るときは、競技プログラムに名前が載ることを、心底嫌がってました」
と振り返るのは、20代の会社員女性。このところ日本では、奇抜で個性的な“キラキラネーム”が増えている。
8月初旬にリクルーティングスタジオが発表した『2016年上半期のキラキラネームランキング』では、1位に「碧空」がランクインした。この名前の読み方は、「あおぞら」「あとむ」「そらと」「りく」「そら」「みく」「あおい」「みらん」と多岐にわたり、漢字の意味+響きのよさで命名されているようだ。
「キラキラネームは今に始まったものではなく、戦前からありました。明確な線引きはありませんが、派手で難読な名前が急激に増えたのは、昭和から平成の初めにかけて。年々、増加しています」
と生活総合情報サイト『All About』で赤ちゃんの命名・名付けガイドを務める牧野恭仁雄さん。少しずつキラキラネームが増え続けているが、最近、テレビの中で躍動する若い世代の中には、逆の動きがあるようだ。
「広瀬すずさんや神木隆之介くん、二階堂ふみさんなど、古風な名前だと感じる方の活躍が目立つようになりました」(芸能プロ関係者)
なじみ深いからしわしわが好き
これら古風な名前は“キラキラネーム”とは反対に“しわしわネーム”と呼ばれ黒木華、木村文乃、野村周平、門脇麦といった俳優陣のほか、リオ五輪で世界を沸かせた男子体操日本代表の白井健三など、多くの有名人がいる。名前の由来はさまざまで、
「黒木さんは“春のように華やかに生きてほしい”という思いが込められているそうです。
白井さんはお兄さんが2人いて、お父さんの名前の1文字ずつを、それぞれお兄さんの名前に付けたそう。もう漢字がない、と悩んでいるときに見た夢の中で“KENZO SHIRAI(JAPAN)”と、電光掲示板に表示された文字を見たことから、健三と名付けたとか」(スポーツ紙記者)
名前の印象が、人となりや特徴よりも強く相手に焼きつく場合もある。特に芸能人は、仕事を左右することも。
「明治の初めに戸籍制度ができた際、芸能人だけは本名とは別に名前を持ってもよいという通達が出されました。例えば、演劇をするときに18歳くらいの子の恋愛を描いているのに、本名があまりにも古い名前だと、鑑賞する人が入り込めないからなんです」(前出・牧野さん、以下同)
逆に、あまりにも変わった名前でも感情移入しにくい。そのため、昔ながらになじみ深く、誰でも読める“しわしわネーム”の有名人が好まれる傾向にあるのだ。
「さらに、一般的には古風な名前は堅実そうで安心感があります。逆に、奇抜な名前は行き当たりばったりで付けたように感じるため、いい印象を抱かない人も。最近では、個性的な名前は、受験や就活などで不利になると言われることもあります」
キラキラネームは虐待という人も
そんな風潮もあってか、“しわしわ”ブームは一般家庭でも起こっているようで、リクルーティングスタジオ『'15年赤ちゃん名付け男女トレンド』では、男の子の13位に「一郎」、女の子の9位に「文子」、19位に「徳子」などがランクイン。
じわじわと“しわしわ”が増えている。
「最近、名付け相談に来てくださる方の中でも、“キラキラネームだけはぜったいに付けたくない!”という人と、“個性的な名前を付けたい!”という人との二極化が進んでいます。
相変わらず個性的な名前であるキラキラネーム支持派に対して、世間では“キラキラネームが気の毒だ、虐待だ”という声が上がったため、以前に比べて突飛な名前をつけることへの不快感を抱く親御さんが、増えてきているのだと思います」
世間の声が大きく影響しているそうだが、ほかにも、名付けには世相が反映されていると牧野さんは言う。
「その時代に足りないものが、名前に付けられる傾向があります。例えば、太平洋戦争で負けていたときは、『勝』や『進』『勇』などが流行り、食料難の時代には『茂』『実』『豊』など。現在は人の優しさを求めて『大』『優』という漢字が増えています」
現代においては、“しわしわ”と“キラキラ”は紙一重。というのも、女の子の名前で“子”が付く名前が流行った時期もあったが、最近では逆に珍しいとされることもある。
「私のところにも、“男の子で3文字の名前だと古く見えませんか?” “郎という漢字を使うと昔っぽくなりませんか?”などと、相談をしにいらっしゃる方もいます。
ただ、結論を言えば名前によりけり。『健太郎』や『航太郎』や『琳太郎』という名前は今でも人気ですし、女の子でも『莉子』や『真子』など、今風の名前は多い。新しそう、古そうというのは、個人の主観ですから、断言はできません」
“変な名前だと思われないか”“平凡だと言われないか”と考えてしまう親は多いが、
「それでは子どもよりも、周りのことを最優先にして名前を付けてしまっています。“誰にでもわかりやすく”“誰よりも個性的で”と考えずに、自分の意見を持ち、子どもの将来を見据えて、名前をつけてください」
名前ではなく、その人自身が、キラキラと輝けることがいちばん!