これまで年金額は、物価が上昇すればその割合に応じて増えていたが、'15年4月から『マクロ経済スライド制』が発動、物価の上昇分から約1%引いた率でしか年金額が上がらなくなった。「年金は実質的に約1%ずつ目減りしていくんです」と社会保険労務士の北村庄吾さんは言う。
さらに、'19年の年金制度見直しでは、受給開始年齢を67歳にする案が出てくる可能性を指摘し、先細りの公的年金だけに頼らず、「今後は自力で年金を用意する必要が出てきます」と厳しく見通す。
'17年1月から確定拠出年金(401K)制度が変わる
「実は国のほうも、“公的年金ばかりを頼りにせず、自前の年金も用意して”というメッセージを出しています」(北村さん、以下同)
年末調整や確定申告の際、民間の個人年金に加入している人は保険料に応じて所得税がダウンするのも、その一例。
「さらに、'17年1月からは確定拠出年金(401K)制度が変わります。確定拠出年金の個人型は従来、自営業者や企業年金のない会社員しか利用できませんでした。ところが表1のように、専業主婦や公務員、企業年金のある会社員も対象になり、全員が加入できるようになるのです」
そもそも確定拠出年金とは、どういう制度?
「確定拠出年金とは、自分で掛け金(上限あり)を決めて、その運用方法も自分で選ぶというものです。当然、その運用成績しだいで将来の年金額は変わってきます。ですから私は確定拠出年金を“自分しだい年金”と呼んでいるんですよ」
運用先は、定期預金のような積み立て感覚のものから、株式投資信託のようなハイリスク・ハイリターンな金融商品までさまざま。
「確定拠出年金に加入するには、銀行や証券会社など取り扱い金融機関で申し込み、そこが用意している金融商品から選びます。50代以降なら、老後も近いですから安全志向で元本保証タイプの金融商品を選ぶといいでしょう。
まだ若いなら、リスクのある積極運用の金融商品を選ぶという手もあります。一時的に損をしても時間がたてば取り戻せ、さらに利益を得られるチャンスがありますよ」
節税効果が期待できるが、注意すべき点も
確定拠出年金の魅力は、公的年金に上乗せができるだけではない。次の3つの節税効果が期待できる。
(1)掛け金すべてが所得控除される……社会保険料、所得税、住民税を計算する際、計算のもととなる所得から、掛け金を差し引ける。「掛け金が月額2万3000円、年収500万円のサラリーマン&専業主婦家庭なら、所得税と住民税が年間で約2・5万円の軽減に」
(2)運用益も非課税……金融商品で運用益が出ると、約20%の税金がかかるが、確定拠出年金の運用益は運用期間中は非課税。
(3)受け取るときも税で優遇……老齢給付金を一時金として受け取る場合は『退職所得控除』、年金として受け取る場合は『公的年金等控除』が受けられる。「特に所得控除の節税効果は、長く続ければそのぶんお得度も大きくなっていきますから、所得税を納めている人には、すぐにでも始めることをおすすめしたいですね」
一方、次のような注意点もある。
・運用は自己責任……しっかり投資について勉強することが必要。「不安な人は、積み立てタイプを選び、節税メリットだけ狙っては」
・原則として60歳まで引き出すことができない
・手数料がかかる……加入時の手数料や毎月の口座管理費など各種手数料がかかり、その金額は取り扱い金融機関によって大きく異なる。「今のところ、おすすめはSBI証券ですね。確定拠出年金の資産が50万円以上だと、手数料が0円になります」
専業主婦の場合は判断に悩む
専業主婦の場合はどうすればいいのか、女性のマネー事情に詳しい生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさんに聞いてみた。
「専業主婦の場合、そもそも課税所得がありませんから、所得税に関するメリットは得られません。運用益の節税効果も、手数料などの負担と天秤にかけると、判断に悩むところです」
ならば、夫に確定拠出年金に加入してもらう?
「すでに住宅ローン控除を利用して納めている税金が少額なら、節税効果に関してはあまり期待できません。また、60歳まで原則として引き出しできませんから、家計に余裕がない場合は慎重に考えてくださいね」