真田信幸を演じる大泉洋が“犬伏の別れ”のシーンの舞台裏を語る (NHK提供)

『真田丸』でもヤマ場のひとつとして視聴者から期待されていた“犬伏の別れ”のシーン。

「親子が敵味方に分かれなければならなくなった“犬伏の別れ”は、その設定を聞くだけで、切ないと思いますよね」

 その期待に熱演で見事応えた、信幸を演じた大泉が撮影の舞台裏をこう語る。

「信幸はずっと父上に振り回されっぱなしで、大事なところでは蚊帳の外にされていました(笑)。なので、“犬伏の別れ”を描いた35話の台本を読んだときには、ついに来たっ! という感じがありました」

 “私は決めたっ!!”と大声をあげ、3人が敵味方に分かれる策を提案。父・昌幸(草刈正雄)の言葉に従っていた信幸が、真田家の跡取りとして立ち上がった瞬間だった。

「信繁(堺雅人)に“豊臣が勝ったときは、お前はあらゆる手を使って俺を助けよ。そして徳川が勝ったならば、俺はどんな手を使ってでもお前と父上を助けてみせる”。僕自身が言ってて、すごくグッとくるセリフでした。

 しかもここにきて、おばばさま(草笛光子)が亡くなる前に遺した“何があっても真田はひとつだ”という言葉が効いてくる。三谷(幸喜)さんの脚本はさすがだな、と」

草刈、大泉、堺がそろう最後の撮影

 真田の行く末を話した35話のラストシーンが、まさに草刈、大泉、堺の3人がそろう最後の撮影だった。

35話より、父・昌幸(草刈正雄)、信幸(大泉洋)、信繁(堺雅人)が向かい合うシーン (NHK提供)

「撮影の日を迎える前から“もうそんなに(共演シーンが)ないんだよね”と言いながらやっていたので、どこか寂しさはあった気がします。でも、3人が和気あいあいとお酒を飲んで話しているシーンなので、演じている僕たちも楽しかったし、面白かったですね」

 感動的な“犬伏の別れ”の収録現場は、意外にも爆笑の渦だったという。

「台本に書かれたセリフを終えても、カットの声がかからないんです。そこからお互いの無茶ぶりが始まって(笑)」

 セリフでは中国の歴史書『史記』に書かれた、“背水の陣”で有名な武将・韓信についてのやりとりが。

「堺さんが“兄上、もっと韓信のお話が聞きたいです”なんて振ってきて。僕は何もないから“じゃあ、次は劇団四季の話をしようか”と返したり(笑)。草刈さんは“なかなか感心な男だ、ワハハ”って(笑)。

 親父ギャグというだけあって、年配の方のダジャレのスピードには負けました。みんなゲラゲラ笑っていましたよ」

信幸は真田家の中間管理職

最初のころは信幸を拒絶していた稲だが、息子の百助を授かってからは“真田の女”として活躍を

 真田家で信幸は中間管理職のような存在だ。

「去年の朝ドラ『まれ』のときは外を歩くと“もっとしっかりしろ!”と言われたんですけど、今回は“お兄ちゃんは本当にかわいそうだ”って、すごく同情されるんです(笑)。

 父上と家康、おこうさん(長野里美)と稲(吉田羊)の板挟みになったり、義父の忠勝さん(藤岡弘、)のプレッシャー……(笑)。周りから同情されるたび、今後、もっとひどくなります! って言ってます。本当に、どれだけ板挟みにあえばいいんでしょうね」

信繁とふたりのシーンはすごく愛おしい

武田家が滅びてから、真田家を守ることを一番に考えてきた信幸たち。その思いを胸に、親子は袂を分かつ―― (NHK提供)

 天下分け目の関ヶ原の戦いは、徳川家康(内野聖陽)率いる東軍の勝利で幕が下りた。

「次回(9月18日)の放送で、信幸が昌幸と信繁の助命嘆願をしますが、このシーンへの思い入れはすごくありました。その場で家康から親父と縁を切れ、と言われるんですが、父上と弟が生き残るためならと、そこはすんなりと受け入れることができました。ですが、名前を変えろとまで言われるとは……」

 信幸の“幸”はもちろん昌幸からもらったもの。

「非常に屈辱的な思いですね。親父からもらった“幸”という字を大事にしていたでしょうから」

 このときから信之と名乗るが、“幸”の字は捨てても、読みで“ゆき”を残したのは、彼の意地だったのだろう。これまでのストーリーを見ていても感じるのが、真田の一族や兄弟の絆。

「とにかく源次郎(=信繁)とふたりのシーンは、どのシーンもいいですよね。僕に子どもができたとき、頬を叩き合って喜ぶシーンとかね。すごく大事で愛おしくて」

コミカルな演技を封印!?

 今回、大泉はコミカルな演技を封印して信幸を演じている。もしかして、かなり我慢している?

「以前、三谷さんから“おもしろいセリフを言うとき、鼻の穴がでかくなるので気をつけてください”と言われまして(笑)。鼻の穴は訓練しきれないですけど、面白いシーンをやりすぎないように、という思いは確かにあります」

 物語は最後の戦い、大坂の陣へと向かっていく。信幸・信繁、兄弟の“これから”を聞くと、

「信幸はとにかく真田を守った人。クライマックスの大坂の陣で兄弟がどうかかわってくるのか、史実でもそのあたりは不詳な部分が多いので、ドラマでどう描かれるのか、考えるだけで楽しみです(笑)」