骨などに明らかな原因があるわけではないのに、慢性的な腰痛に悩んでいる人は多い。原因は、“太ももの筋肉”にあるのかもしれないという。
腰痛治療のエキスパート西良浩一先生が解説する。
「加齢や運動不足、日常の動作のクセによって筋肉は硬くなっていきます。特に太ももの裏側の筋肉、ハムストリングスが硬い人が多い。
ここが硬いと前傾したときに骨盤が前に回転しないので、腰に負担がかかる。また、太ももの前面の筋肉、クアドが硬いと、腰を反った際に骨盤が後ろに回転しないため、やはり腰の負担が増える。その蓄積によって腰痛を引き起こすのです」
ハムストリングスとは、骨盤の下からひざの裏側をつないでいる大きな筋肉。歩いたり、地面を蹴ったりする動作のときに機能し、正常な状態だとゴムのように伸縮する。
つまり、腰痛改善には太もも両面の筋肉をやわらかくし、骨盤の回転域を広げるのがポイント。そこで、西良先生が提唱するのが拮抗筋の働きを生かしたストレッチ。
「拮抗筋とは、逆側にある筋肉のことで、ハムストリングスの拮抗筋はクアドです。クアドが縮むとハムストリングスが伸びる、というふうに拮抗筋は反対の働きをします。
硬くなった筋肉をほぐしてやわらかくするには、筋肉を伸ばすことが大切ですが、クアドに力を入れて筋肉を縮めると、逆側にあるハムストリングスが反射で伸びようとする。通常のストレッチより、拮抗筋を意識して縮めるストレッチのほうが、筋肉が伸びやすくなり、柔軟性がアップします」
身体が柔らかくなり姿勢もよくなる
立ち姿勢で前屈したとき手が床から15cm以上離れたら、かなり硬くなっている証拠。
「ハムストリングスを伸ばす『ジャックナイフ・ストレッチ』を10日間行うと、ほとんどの人は手がつくようになります。高知県の小学校では毎日の朝礼でジャックナイフを行ったところ、スポーツテストでの前屈の記録が大きく伸び、以前、高知県の平均値は全国で40番台だったのが、男子5位、女子8位に」
姿勢を美しくする効果もあるそう。
「太ももの筋肉が硬いと、猫背になったり、反り腰になって老けた印象に。悪い姿勢を続けると、さらに腰に負担がかかり、悪循環。太もも両面が柔軟になれば、立ち姿勢が整い、膝関節や股関節の動きがスムーズになり、若々しく見えるでしょう」
ただし、
「腰痛の治療中の人は、絶対に行わないでください! ただし腰痛完治後に、ストレッチを続けると再発を防ぐのに有効ですよ」
※太もも両面の柔軟性を高める4つの「拮抗筋ストレッチ」(ジャックナイフ・ストレッチ、もも上げストレッチ、お尻キックストレッチ、立てひざストレッチ)の詳細は、週刊女性2016年9月27日号掲載の記事「腰痛改善!太ももストレッチ」で図解しています。
◎西良浩一先生/徳島大学運動機能外科学(整形外科)教授。国際腰痛学会・日本代表幹事。日本オリンピック委員会にて体操競技の強化スタッフを務める。トップアスリートからの信頼も厚い腰痛治療のエキスパート。