少女はカメラ目線でニコニコ笑っている。露出度の高い水着に着替えると、不自然に股間を開く。カメラはその股間をズームアップする。改正児童買春・児童ポルノ禁止法が施行されてから1年2か月。目をそむけたくなる現実があった──。
国際人権NGOが約1年にわたる実態調査を報告
「街を歩くと、児童ポルノに見えるものが公然と売られていて、本当に児童がこんなことをやらされているのかと心が痛む。しかし、年齢確認はできない。法律が絵に描いた餅になっている。私たちは子どもを守れているのか」
と伊藤和子弁護士は深刻な表情で話した。
児童ポルノと疑わしいDVDや動画が販売店やインターネット上で売られているとして、国際人権NGO『ヒューマンライツ・ナウ』(本部・東京、以下HRNと記す)は5日、都内で記者会見し、約1年にわたる実態調査の結果を報告した。取り締まりを強化し、出演者の年齢を確認する仕組みづくりが必要と訴えた。
冒頭の伊藤弁護士は同団体の事務局長。会見には、副理事長を務める千葉大学大学院の後藤弘子教授と理事を務める雪田樹理弁護士が同席し、
「“着エロ”やイメージビデオというジャンルならば児童ポルノに該当しないという誤った認識が広がっている」(雪田弁護士)などと指摘した。
着エロとは、水着やレオタードなど「着衣のままのエロチシズム」を示す俗語だ。HRNが調査のために入手したDVDでは、18歳未満とみられる少女がきわどい水着姿で出演し、大股開きなど過激なポーズをとらされていたという。
性欲を刺激すれば、“絡み”がなくても処罰対象
児童買春・児童ポルノ禁止法は18歳未満の児童を保護するため、児童の性交や性交類似行為を記録したポルノの製造、販売、所持などを禁じている。'14年の法改正によって「自己の性的好奇心を満たす目的」で単純所持しているだけでアウトとなり、1年以下の懲役か100万円以下の罰金が科せられる。児童ポルノには次の内容も含まれる。
《衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって、ことさらに児童の性的な部位(性器等もしくはその周辺部、臀部、胸部)が露出され、または強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ、または刺激するもの》(同法第2条3項)
つまり、水着姿で股間やバストを「ことさらに強調」し、「性欲を刺激」するものであれば、セックスシーンなどの“絡み”がなくても処罰対象になる。
出演者の年齢が確認できないと取り締まれない
HRNによると、調査に着手したのは昨年5月のこと。「東京・秋葉原のDVD販売店3店舗を定点観測するとともに、ネット上の販売サイトもチェックした。児童ポルノではないかと疑われる作品は計16本あった」(伊藤弁護士)
タイトルには「小〇生」「6年生」「現役JC」などの文字が躍り、パッケージ裏面に「未成熟のロリを食い荒らす本気のレイプ」と記した作品も。
しかし、本当にタイトルどおりの年齢なのか確認することはできなかったという。
HRNは、性虐待された被害児童への往診経験が豊富な小児科医にこれらのDVDのパッケージ写真や動画を8点提供して所見を求めた。
医師は6点について「小学校高学年・中学生~18歳未満と思われる」と回答。顔つきやお尻の筋肉のつき方、骨格、乳房や陰毛の発育などから総合的に判断したという。
「18歳未満かどうかわからないという現状が、いちばんの問題なんです」(後藤教授)
HRNは報告書で、出演者の年齢が確認できないために取り締まりが行われず、審査・流通・販売段階でのチェック体制も不備だとしている。
卑わいなポージングをさせられる思春期の少女が心配
具体的には、児童ポルノの疑いがある作品はどんな内容だったのか。後日、あらためて後藤教授に聞いた。
「局部に水着が食い込むような格好をさせられたり、開脚するポージングをとらされていました。あるいは水着を濡らされ、アイスキャンデーを舐めさせられる。どう見ても不自然で性的なことを連想させる。少女が生活する中で大股開きになるシチュエーションなんてそんなにないでしょう? あったとしてもお母さんに怒られます。児童ポルノの目的でつくっているとしか思えません」
と後藤教授は説明する。
法に触れるかどうかだけを問題視しているわけではない。思春期の少女が心配という。
「卑わいなポージングをさせられた少女は傷つきます。DVDに出演することが初めての性的な経験かもしれない。こういうポーズをとれば男性は喜ぶと思い込んでしまうかもしれない」(後藤教授)
「親が悪い」というひと言では片づけられない
たしかに、心身とも未発達な少女が撮影現場で大人たちに乗せられ、過激なポーズで視線を集めるのは問題があるだろう。一方で、少女の保護者にも責任はないか。
「未成年者ですから、親が撮影現場に同席している場合も少なくないと思います。しかし、母親がDV夫に脅かされて撮影に同意しているだけかもしれないし、生活苦で追い詰められているのかもしれない。
ひどい母親がいるよね~というひと言では片づけられないと思います。製作・流通過程で複数の大人が絡んでいるわけですから、社会の一員として“もしかしたら自分たちも加担しているかもしれない”という意識を持ってほしい。問題のある作品が平気で売られているわけですから」(後藤教授)
19歳が15歳を演じても、それは“メッセージ”になる
一方、年齢が断定できない作品で18歳以上の女優が少女を演じているケースもあるだろう。現行法では児童ポルノには当たらない。
しかし、後藤教授は「仮に19歳の子が15歳を演じていたとしても、視聴する男性は作品の中に15歳の少女を見る」として次のように話す。
「15歳の子が性的な対象として存在しうるんだというメッセージになる。EU諸国では、出演女優が何歳であっても児童に見える作品は販売できません。ランドセルを背負うなんてもってのほかです。私は、子どもに見えるポルノは規制すべきだと思います」
“しずかちゃん”のお風呂シーンはなぜ問題か
表現規制は難しい。かつて児童ポルノ規制をめぐっては、漫画『ドラえもん』のヒロイン・しずかちゃんのお風呂シーンが児童ポルノに該当するか議論が分かれるなど波紋を広げた。結局、実在しない少女だとして規制対象外となった。芸能界で活躍する18歳未満の少女もたくさんいる。
「例えば、アイドルグループのプロモーションビデオで、制服を着ていたアイドルが急に水着になって胸が強調される。『ドラえもん』でお風呂に入るのはしずかちゃんばかりで、のび太くんやジャイアンの入浴シーンはそんなにありません。社会全体で子どもを性の対象としない努力をすべきと考えています」
と後藤教授は話す。
着エロDVDに鼻の穴をふくらませる年配客
HRNが調査したとみられる店舗に行った。
フロアごとに熟女モノ、SMモノなどと分かれ、着エロとロリコン物をそろえたフロアがあった。通路はすれ違うのも難しい狭さでDVDを並べた棚がびっしり。60代とみられるスーツ姿の男性客は、パッケージに「つるぺた」「ロリ娘」と書かれたDVDを手に取って鼻の穴をふくらませていた。30代とみられる男性客は、両手に5、6本のDVDを持って吟味していた。
本誌は、HRNが問題視した作品のうち2つを報道目的で購入した。会計カウンターの男性店員に「これ、児童ポルノで捕まるんじゃない?」と尋ねると、店員は少したじろいで「いや……、大丈夫だと思います」と答えた。
大股開きする少女の笑顔が痛々しい
作品Aのパッケージでは少女が片脚を高く上げている。裏面には出演少女のプロフィールが記載されており、生年月日は「2000年」とある。事実ならば現在16歳。'14年に製作しているので14歳当時の作品ということになる。笑顔のかわいい女の子だ。
胸元がざっくり開いたワンピースで登場。「おにいちゃん早く、早く」とカメラ目線で呼びかけ、洗車中に「濡れちゃうから脱ぐね」とスクール水着になる。カメラは後ろからふくらはぎ、太もも、股間となめるように追う。
ビキニに着替えると、足を広げて前屈し、浅い胸の谷間をのぞかせる。なぜかフラフープにまたがって腰を左右に揺らす。風呂場でアイスキャンデーをほおばる。視聴者を「おにいちゃん」と設定しておきながら、ストーリーに一貫性のない内容が1時間以上続いた。
作品Bは2時間弱。タイトルに「1年×組」とあり、HRNが依頼した医師が「小学生または中学生と考えられる」と判断した女の子だ。
1人でツイスターゲームをして、わざと遠いところに足をついて大開脚。庭の家庭用プールで水着を濡らし、カメラは水中から股間のアップを狙う。ビキニでお風呂に入って立ち上がると、股間から水がポタポタ。初めての撮影だったらしく、締めくくりのインタビューで「緊張して難しかった」と答えていた。
児童ポルノではなく『児童性虐待記録物』
児童ポルノの問題に詳しいジャーナリスト・渋井哲也氏は「何をもって“ことさら強調した”といえるかは判断が難しい」と指摘する。
「インターポール(国際刑事警察機構)は、児童ポルノではなく『児童性虐待記録物』と呼ぼうと提言している。撮影過程で性虐待があれば違法になる。
作品という表現の結果をどう受け止めるかは人によって異なるので、表現過程を重視したほうがわかりやすいのではないか」と話した。