日本人の死亡原因は、がんに次いで2位が心臓病、3位が脳卒中とされる。数にして年間約30万人が死亡するこれらは、動脈硬化が主な原因。芸人の前田健さんのように、若くして急死に至るケースも。
「今年発表された40歳以上の会社員を対象にした健康保険組合連合会(健保連)の調査では、血圧など健診の主要4項目がすべて基準範囲内の人はわずか17%でした。40歳を過ぎたら、健康に気をつけることが、今後の生活の質に関わってくることがわかります」
と医学ジャーナリストの植田美津恵先生。
「とはいえ、健康診断の基準にとらわれすぎるのもよくありません。基準値というのは医療機関ごとに採用する値が異なり、時代によって変動したりもします。個人差や年齢によっても、正常な値というものは変わるので“基準値からはずれたから健康ではない”とは言いきれません。
私がオススメする健康チェックの方法は脈拍測定です。自分の脈拍測定を習慣にすると、心拍数の変化や不整脈がわかり、心臓や血管の異常などの発見につながります。測り方は、第2指~4指を橈骨動脈という手首のドクドクする部分に当て、1分間の数を数えます。成人は60~100回/分が正常範囲。リズムや強さが乱れていないかも確認しましょう」(植田先生、以下同)
猫ブームとともに心臓病患者も激減?
米ミネソタ大学の研究で、猫が心臓病のリスクを下げることが明らかに。大ブームのニャンコは可愛いだけじゃない。怖~い心臓の病気にかかりにくくしてくれるんです!
「猫を飼っている人はそうでない人に比べ、心筋梗塞、心臓血管疾患のリスクが4割減少するそうです。私は大の猫好きですから、この研究報告には納得しかないですね♪
動物でなくてもいい。生き物の世話が苦手な人は、ぬいぐるみやロボットでも癒しの効果があるのでは?」
エナジードリンク飲みすぎは危険
眠いとき、疲れているとき、ゴクッと飲めばシャキッと効果てきめん……な気がするけど。
「米国フロリダ大学の研究報告では、カフェインを多く含むエナジードリンクは、不整脈など心血管系の病気に関連しており、実際に飲んで不整脈を起こし、救急搬送された例を挙げています。日本でも昨年、カフェイン中毒で死亡者が出ました。エナジードリンクだけでなく、夜勤明けだったなど、さまざまな危険リスクが重なっていました」
エナジードリンクはカフェインの量に制限はなく、高濃度に含まれるものも。
「タウリン、アルコール、高ストレスはカフェインの作用を増強します。疲れたときに飲みたくなる気持ちはわかりますが、カフェインの安全量は1日400mg程度が目安。オーバーしないよう気をつけましょう」
“腸内細菌”は脳卒中も防いでくれる
便秘にダイエットと腸内細菌の働きが続々報告されるなか、脳卒中まで防いでくれることが発覚!
「特定の種類の腸内細菌が脳卒中の重症化を防ぐと、米ワイルコーネル医科大学が報告しています。腸内細菌が脳を保護する免疫系を刺激するようです」
腸内細菌の種類は発表されていないものの、将来は乳製品などで脳卒中が予防できるようになるかも?
「まだマウスの実験段階で実用化は遠いかもしれませんが、脳と腸の関係について、医学界は大変注目しています」
減塩しても夜更かしで“マイナスの相乗効果”
味噌にしょうゆ、ケチャップと減塩調味料を使って頑張っても、不規則な生活じゃ意味がない!?
「米オーガスタ大学の研究によれば、不規則な生活、睡眠障害、加齢などは体内時計の乱れにつながるおそれがあり、高血圧や血管疾患のリスクを上げると指摘しています。さらに、低塩分食が“マイナスの相乗効果”を引き起こすという報告もされています」
マウスの実験で証明ずみ。低塩分食で一時的に血圧は下がるが、体内時計が乱れたマウスはその後、夜になっても下がるべき血圧が下がらなかったのだ。
「体内時計が乱れたままでは、心血管系疾患のリスクを高めてしまうのです」
電動アシスト自転車でも予防効果
ママチャリと主婦人気を二分する電動アシスト自転車。ラクだけど運動不足を招きそうなイメージと思いきや、意外な効果が!
座り作業が多く運動嫌いの人が、電動アシスト自転車に乗ると、心臓病を予防できると米大学が発表。
「今まで運動習慣がなかった人には、心臓に負担がかからないのでオススメ」
自転車にいつも乗っている人や、運動習慣がある人は今までどおり続けて。
高血圧にはモーツァルト
音楽を聴くなら、高血圧の人はモーツァルトとヨハン・シュトラウスがオススメ。ドイツ・ルール大学の研究によると、モーツァルトとシュトラウスを聴くと血圧と心拍数、さらに血中脂質濃度まで下がったとか。
「日本人にモーツァルトは耳なじみがいいのでオススメです。幼いころによく耳にしたクラシックもいいですよ」
お腹いっぱいでも検査OK
健康診断や検査前のつらーい食事制限。でも、もう耐えなくて大丈夫。デンマークのコペンハーゲン大学によれば、コレステロール値の測定は空腹時である必要ナシ。むしろ食事制限で検査の機会を減らしてしまうと注意している。
「日本動脈硬化学会でも、昨年、食事の摂取によるコレステロール値の影響はない、と発表しました」
コレステロールや中性脂肪は空腹時に測るべし。だから、採血がある日は食事厳禁……とされてきた。ところが、最近の研究で血中コレステロール濃度は食事のコレステロールとは因果関係がないことが明らかになっており、“卵は1日1個まで”といった制限も今はない。
医学の進歩を前に、常識は塗り替えられるものなのだ。
<プロフィール>
◎植田美津恵先生/医学博士。医学ジャーナリスト。首都医校(東京)教授。医学番組の監修、テレビコメンテーター、講演活動をこなす。著書に『忍者ダイエット』(サイドランチ)ほか