2025年には65歳以上の5人に1人、700万人が罹患するという認知症。このままでいくとピークとなる2040年には、900万人の患者と、その同数の予備軍が予測されているというが……。
「認知症は進行性の病気で、現在は症状の進行を遅らせることしかできません。国は認知症の根治治療薬の開発にお金をかけてきましたが、薬ができるのを待っていたら、日本経済は破綻してしまうでしょう」
と言うのは、認知症のスペシャリスト、白澤卓二先生。
「正しい予防法を行えば、認知症は半分に減らせると私は見込んでいます。米国での研究によると、アルツハイマー病のリスク要因は運動不足、うつ病、喫煙、高血圧、肥満、糖尿病、教育年数が9年以下であると報告されています。これらのリスク要因を減らすことが最強の予防法なのです。
運動をして、ストレスを減らして、食べすぎや甘いものを食べるのをやめて、タバコをやめて、減塩をして……、今からすぐにできることばかりです。しかも、ほとんどお金がかかりませんよね? 認知症予防は早すぎることはありません。何歳からでも始めましょう」(白澤先生、以下同)
筋肉や運動量が少ないことが問題
ビンのふたが開けられないと将来、ヤバい? 国立長寿医療研究センターが認知症のリスク要因を分析したところ、握力が18kg未満の女性は、認知症のリスクがなんと2倍だった。
「握力だけでなく、筋肉や運動量が少ないことが問題なのです。認知症を予防したかったら、握力だけを鍛えるのではなく、全身の運動習慣を身につけましょう。ウォーキングは、最強の脳トレです」
運動する習慣があればBDNFのレベルが上がり、認知症のリスクも低下するというから、まさにいいことずくめ。
「脳内のBDNF(脳由来神経栄養因子)と言われる物質が多いと、記憶力を高め、神経細胞を成長させることはこれまでにもわかっていました。この物質が、どのように運動と関わりがあるのかがニューヨーク大学の研究で明らかになったのです。
筋トレは脳トレです。パズルや計算問題をするのもいいですが、まずは身体を動かしましょう」
美白に夢中だとボケに近づく?
ビタミンが大事なのは美容だけじゃない。血液中のビタミンDの濃度が低い場合、脳機能の低下リスクが高くなることがシンガポール国立大学と米デューク大学の共同研究で明らかに。
「ビタミンDの濃度が低いと心臓、血管、神経の病気のリスクが高まるだけでなく、脳の機能低下につながることがわかりました」
ビタミンDは、主に太陽光に当たることにより体内で作られる。
「日本人は全般的に、ビタミンDの血中濃度が低め。特に美白に夢中な女性は低いです」
紫外線も怖いけど、将来の認知症も怖い……というあなたは、サプリメントより日に当たることで効果的に防止して。
方向音痴はアルツハイマーの証?
地図が読めない女性は多いとよく聞くけれど、そもそも方向音痴とは「空間認識が得意でない。つまり、脳の、空間を認識する領域が機能していないということです」と白澤先生。
そればかりか、アルツハイマー病のごく初期の兆候かも!? と米ワシントン大学が発表している。
「方向音痴はアルツハイマーの初期症状ではなく、むしろ進行している可能性があります。方向がわからなくなるのは、脳の中にある空間認識の領域が壊れている証拠なのです」
今まで方向感覚に長けていたのに、急に方向音痴になったという人は要注意
認知症の“超早期発見”は延命につながらない
認知症の“超早期発見”の研究が国内で相次いでスタート。認知症の根治治療につなげるのが狙いだとか。
「認知症の根治治療薬は20年以上研究しても現れません。今後は、薬に期待するより、予防に努めるべきです。40~50代に認知症を発見したら、その後、数十年間、脳機能低下に怯えながら暮らさなくてはならないのです。
認知症は、がんと違い、超早期発見が延命につながるものではないというのが私の考えです」
遺伝子検査が教える未来予想図
がんや生活習慣病のリスクがわかると今、話題の遺伝子検査。では認知症は?
国立長寿医療研究センターによれば、『アポE4多型遺伝子』という遺伝子を持つ家族に、認知症患者がいる傾向が高いそう。
「アポE4多型遺伝子は検査で有無を調べることができます。私のクリニックでも行っていますがオススメはしません。この遺伝子があることがわかっても、治療法が何もないからです。
しかも、この遺伝子を持つ人は心筋梗塞のリスクも高く、長く生きられない傾向にあります。それでも検査をして知りたいですか?」
未来の認知症はワクチンで防げる!?
近い将来、ワクチンで認知症が防げる日がやって来る!? アルツハイマー型認知症の予防ワクチンの開発に成功した、と米と豪の共同研究チームが発表。
「以前から認知症予防ワクチンは研究されていたのですが、臨床試験中に問題があり、新薬として登場することはありませんでした。今回はその改良型のようですが、新薬開発の経過を見ていると、臨床応用は難しいのではないかと考えています。
数十年先の新薬を期待するより、今からできる予防のほうが大切です」
<プロフィール>
◎白澤卓二先生/白澤抗加齢医学研究所所長。医学博士。アルツハイマー病とアンチエイジングのスペシャリスト。テレビ、ラジオなどマスコミで活躍。著書は『100歳までボケない101の方法』ほか、200冊以上