現地時間9月13日、カナダ・トロントで練習を公開した羽生結弦。昨シーズンまでの4回転サルコウと4回転トゥループに加え、今シーズンからは4回転ループを加えた新プログラムで戦うという。
公開練習後に行われた記者会見で羽生は、ループに対する決意を「試合で跳べるジャンプを作っていかないといけない」と述べ、こう続けた。
「今まで難しいジャンプを組み込んだ1年目はどういう感覚になっていたか、踏まえて練習をしていきたい」
そして、今季が'18年2月に開催される平昌オリンピックのプレシーズンであることに話が及ぶと、
「プレシーズンという感じはないです。ひとつひとつの試合に丁寧に向き合って、結果や内容を分析して課題を見つけて、練習を確立したい」
と、意気込みを語った。
3つめの4回転ジャンプとなるループにチャレンジすることについて、元フィギュアスケート選手で解説者の佐野稔氏はこう分析する。
「4回転ループを入れるのは、そろそろだと思っていましたよ。昨年のエキシビションでは4回転ループを跳んでいましたからね。それに、金博洋は3種類の4回転を入れていますし、宇野昌磨クンは難しい4回転フリップを跳んでいる。
そのあたりを見据えてのことでしょう。平昌オリンピックでは3種類の4回転を跳べば、金メダルは楽にいけるなと。構成点はこれ以上、点数が伸びる余地がない。
羽生クンはほとんど完璧なくらい、構成点の点数を出していますからね。そうなると、技術点を伸ばすしかないんです。昨シーズンのプログラムでは330点台を出したけど、それが上限に近い点数。それを打ち破るには、やはり技術点を上げるしかない」
今季初戦は、10月1日(日本時間)からスタートするオータムクラシック(カナダ・モントリオール)を予定している。だが、今年の羽生は、ここまで決して順調ではなかった。4月には『左足リスフラン関節じん帯損傷』であることを公表。全治2か月の診断を受けていた。
「足の甲の真ん中あたりにある関節で、5本の指の骨と足の甲とをつなぎとめる役割のじん帯です。このじん帯に体重が乗るつま先立ちの状態で長くいると、損傷する人が多いのです。早期なら経過のよい疾患ですが、場合によっては手術が必要になります」(スケート連盟関係者)
この負傷があったからこそ今季は休養を望む声も大きかった。今年から羽生が所属するANAスケート部の監督に就任した城田憲子氏は雑誌のインタビューでこう胸の内を明かしている。
《今季は休んでよいという気持ちで構えています。彼にこれ以上苦しんでほしくはありません》(『フィギュアスケート日本代表2016メモリアル』より)
そんな中で行われた公開練習だったが、ケガを微塵も感じさせない素晴らしい動きを披露してくれた。
「羽生選手が滑るたびに、ブライアン・オーサーコーチから指摘が細かく入っていましたね。ジャンプ後の足さばきや、滑りにタメを作るなどといったことです。今季から取り入れた4回転ループを難なく決めるなど、仕上がりは上々に見えました」(現地を訪れた報道関係者)
しかも、4回転ループは公式大会ではまだ誰も成功していないジャンプ。これを完璧に手に入れれば、大きな武器になることは間違いない。
「ショートプログラムの冒頭で、イーグル(両足を伸ばしてつま先を180度開いて滑る姿勢)からジャンプの構えに入った際、報道陣からどよめきが上がりました。
4回転ループの入り方にイーグルを加えるだけでなく、着地後のランディングにもイーグルをつけています。これは、大きな加点がつきます」(前出・現地を訪れた報道関係者)
昨季の世界選手権では、同門のハビエル・フェルナンデスに首位を譲ってしまった。王者奪還もかかる今季だからこそ、前人未到の330点台を獲得した昨季より基礎点の高い構成にしてきている。もちろん、その先には“オリンピック連覇”という目標も視野に入っているに違いない。
「今シーズンはオリンピックのプレシーズンなので、今季から試していってモノにするというのが、金メダルをとるためのオーソドックスな戦い方だと思います。
ソチでも4回転を2種類入れているんですが、サルコウで転倒しても、“すごいぞ”っていうものも見せつけて、金メダルをとりました。昨シーズンはその2種類の4回転は完璧にできたので、ループは試し打ちじゃないけど、来シーズンに向けて固めていきたいですね」(前出・佐野氏)
来シーズンのオリンピックへ、新たなチャレンジをスタートさせたゆづクン。だが、今季のプログラムには、重大な秘密が隠されているという。
「なぜ4回転ループを跳ぶ決断をしたかというと、それは彼の足の状態が思わしくないからですよ。つま先をつくとケガをした足に差し障りがあるから、つかなくてもよいループジャンプ─それも、難易度の高い4回転を入れてきた。
今季のプログラムはつま先を使わない4回転サルコウを2回とループ。より負担のかかる4回転トゥループは1回に抑えている。これこそ、彼にしかできない思い切ったチャレンジだと思いますよ」(別のスケート連盟関係者)
ケガを抱えながらも、絶対王者としての道を歩み続ける羽生。自分を超える戦いが、始まろうとしている。