「マスラオ」という言葉をご存じでしょうか? 漢字では「益荒男/丈夫」と書き、「立派な男、勇気のある強い男」という意味があるそうです。『マスラオ礼賛』(幻冬舎)には、ヤマザキマリさんが独断と偏見で選んだ愛すべき男たちが登場します。
「雑誌に連載していたときは『古今東西男子百景』というタイトルだったんですけど、ちょっとわかりにくいかなということで、本にまとめるとき編集さんと話をして、出てきたので『マスラオ』だったんです。そんな言葉があるのか、私は半信半疑で(笑)。でも意味を知ると面白いし、ラテン語っぽくて、パンチのあるいい言葉だなと」
本書には古代ローマ皇帝から実業家、小説家、マンガ家、芸術家、俳優、ミュージシャンといった歴史に名を残す人から、ヤマザキさんの担当編集者やおじい様、さらにはイタリアの食堂のご主人といった身近な人たち、はてはテレビの中の人やアニメキャラまで、ヤマザキさんの心をとらえて離さない男たちがズラリと並んでいるのですが……いったいどのへんが“マスラオ”なのでしょう?
私が住んでいるイタリアでは誰も空気なんて読まない
「私は見た目がいいとか経済力って二の次三の次で、知的触発のある人に惹かれるんですよ。変だけど面白い、長いものには巻かれなくて、どんなに孤立化しても、ダメなところがあっても直せない、直せないから自分と向き合って生きている人たちが好きなんです。
でもね、実はそこが評価されるところだったりするんですよ。私が住んでいるイタリアでは誰も空気なんて読まないし、周りに合わせない、変人であることをみなさん謳歌しているんです。だから私も変人に慣れていて、“あの人、変だね”ではなく“そういう人なんだ”と多元的な人のあり方を受け入れています。
でも日本って“世間”が戒律になっているんですよね。男の人も“こうじゃなきゃいけない”というのがある。曖昧で何の実態もない、アメーバのような世間がいろんなことを決めているんです。
でも世間なんて、何かあったときに助けてくれないものだし、責任持ってくれないんですよ、個人の人生に対して(笑)。だから、あまり世間にとらわれないで、自分はこういうことがしたい、言いたいことがあるという人は、それを大事にしていくと、いいものになるかもしれないです。たとえそれがすぐに発揮できることではなかったり、表現できることじゃなくても、“そうなんだ”と自覚することが大事なんです」
だからといって空気を読まないことがいいわけではない、とヤマザキさん。
「いつも空気を読むのではなくて、“ここは読まなくてもいいわ”という場を認知できる審美眼が備わったらいいのにな、って。そしたら人生はもっと面白くなるし、そういう人が増えると空気を読む必然性にこだわらなくなる。この本を書いたのは、日本でももっと“変さ”を出していいのに、ってことを示唆したかったというのもあるんです」
ピンチのときに何かを発揮して生きていく面白い男と、ダメになる男
本書ではマスラオの魅力の秘密が、ヤマザキさん独自の視点と絶妙な筆致で解き明かされていきます。
周りに流されず、やりたいことを追求し、時に失敗しようとも逞しく生き抜いていく胆力のある面白い男=マスラオたちは、世間など気にせず、信じた道をズイズイ進んでいきます。
「女性が男性を選ぶときって、やっぱり経済力だったりするじゃないですか。それって、普遍性を求めているんですよね。そう思っていなくても、世間に流される。子どもをいい学校に入れたい、私立に入れるならこの人の経済力じゃダメだ、とか……でもいいんですよ、そんなのどうだって!(笑) それってもったいないですよ。人生が終わるときに何が残るかっていったら、お金なんて天下の回りものだから、いつどこで回らなくなるかなんてわからない。
だけどピンチのときに何かを発揮して生きていく面白い男と、ダメになる男とどっちがいいかって話ですよ。経済力なんてなんとかなるもんだし、親が幸せだったら子どもは幸せに育ちます。確かにマスラオを伴侶に選ぶと大変だけど、人生は楽しくなりますよ!」
……と言われても「そうですか」と簡単にはいかないもの。どんなところに注目するといいでしょう?
急いでるのにこだわる人とか、マイペースを発揮する人
「この人のここが嫌なんだよな、というところを客観的に見ると面白くなったりするんですよ。フィルターを1回、白紙に戻して、ひとりの生き物として男性を見てみる。そうするといろんな個性が面白くなってくると思います。急いでるのにこだわる人とか、マイペースを発揮する人とか。それがマスラオ性質なんです」
ちなみに、ヤマザキさんの旦那さんと息子さん(本書にも登場します!)も相当なマスラオなんだとか。
「婚活でいい相手が見つからないとか、ウチの旦那や子どもに変なところがあると悩んでる方に読んでいただければ、パーッと視野が広がるんじゃないでしょうか。変だけどこれでいいんだ、ってことにしていくと、会社や家の中の男性が、面白い生き物としてあなたの気持ちを湧き立ててくれるのではなかろうかと。やっぱり、楽しいのが一番だと思いますよ (笑)」