女芸人コンビ・ボルサリーノは、1994年に結成されたベテランコンビ。突っ込みの山田真佐美さんと、ボケの関好江さんは、地元である名古屋でキャリアを積み、2005年に東京進出。そして元々面倒見がよく、仲間にご飯を振る舞っていた関さんの料理が評判を呼び、近年、人気芸人がこぞって食べたがる“開運飯”と言われるようになりました。
そこで、ご本人に、料理への思い、こだわり、なぜ無償で皆にご飯を振る舞うのか、開運と言われることについてどう思うかなどを、たっぷりお聞きしました!
──本業以外でも幅広く活動する芸人さんはたくさんいらっしゃいますが、ここまで本格的に料理と向き合われているのも珍しいと思います。
「ありがとうございます、でももう、本当に家庭料理なんで。私、料理の専門学校に行ったわけでもないし、飲食店で働いたこともないんです。
『実家が飲食店なの?』と聞かれたこともありますが、自動ドアを売っています。ただ、母が割と料理を作る人で、凝ったものではないんですけど、食卓にいっぱいおかずがある家で育ちました。
お仕事で料理を作るとき、フードコーディネーターの方とご一緒させていただくんですけど、私のやり方が我流すぎてビックリされます。『そんな順番で入れるんですか!?』とか、『そんなふうにするんですね』とか(笑い)」
──そもそも、関さんが料理を始められたきっかけは?
「最初は必要に迫られてという感じでしたね。私、吉本に入って芸人になって、名古屋の吉本で10年間仕事をしていたんですね。その名古屋の一座というか仲間たちは、東京に比べて人数がずっと少なくて、みんな仲良くて、ファミリーみたいな感じでした。
でも若手芸人なんてお金がありませんから、居酒屋さんでワーッと騒ぐこともできなくて、みんなウチにしょっちゅうご飯食べに来ていたんです。
それでどんどん、大量のおかずを作るようになったという感じです。だから料理を本格的に作るようになったのは、芸人になってからなんです」
「“開運飯”を本格的に始めたのは、藤井隆さんがきっかけでした」
──では、“開運飯”のスタート地点にたどり着いたのはいつごろですか?
「今から7、8年前かな? 藤井隆さんが舞台の公演中にヒザの半月板を痛めたことがあったんです。私、ケガをしたら悪い所を食べたらいい、つまりは脚を痛めたとしたら、鶏なんかの脚部分を食べればいい、なんて民間伝承を思い出して。
それで、鶏軟骨のつくねを作って、藤井さんのお見舞いに行ったんです。そうしたら話を聞いた藤井さんがとても喜んでくれて、『もっとたくさんの人に料理を作ってあげて、もっと広めたらいい』と言われました。そのときは『ええっ』と驚きました。
何しろ料理は、好きという感情だけでやっていたことなので……後輩から、ウチでご飯を食べると元気になるとは言われてはいたんですけどね。でも色々考えて、その藤井さんの言葉を胸に、“開運”“パワーフード”というものを、勉強するようになりました」
──勉強したのは、薬膳ですか?
「そうですね。昔、皇帝に何人もお医者さんがついていて、病気を治す医者だけではなく、防ぐお医者さん・運気や体調を調節する食医という人がいたんですって。食べる相手のことを考えて食材を選べば、それはもう薬膳なんです。
実は民間伝承と五行説って重なることが多くて。図書館などで勉強したのですが、答え合わせをしている気分になりました」
──理論だけお聞きすると、難しい料理が出てくるのかなと感じてしまいます。
「いえいえ、私の料理の決め事は、旬のものを使うっていうのと、あまり季節外れのものは使わないっていうことくらい。あとはなるべくシンプルに。酒・醤油・みりん・砂糖だけで作れるようにしています。その範囲内での、“開運飯”なんですよ」
──普段から芸人さんの楽屋にもお弁当を差し入れされているそうですね。
「古本街で有名な東京の神保町に、神保町花月っていう吉本の劇場があるんです。そこは若手がお芝居やる劇場なんですけど、若い子たちって深夜の稽古中にお腹がすくんです。
でもロクなものを食べていない子が多くて。お菓子ならまだいいんですけど、衝撃的なことにチキンラーメンをそのまま割って食べていたりして! もう「止めて〜!」ってなってしまって、おにぎりでもあればみんな喜ぶかなと思って、持っていくようになりました。
トレンディエンジェルも、このお弁当を食べていましたね。まだデビューして2年目、3年目の、一番下っ端のときだったんじゃないかなあ。
実は芸人って、先輩がおごってくれるから、お寿司や焼肉は、食べられる機会が案外多いんです。でも普通にカボチャの煮物とか、ひじきの煮物とか、そういうものは食べられないんですよね。だから『こういう普通のご飯が嬉しい』ってみんな言っていました」
「芸人女子会は大盛況、楽しいですよ〜。連日開催のときもあります!」
──女子のみのご飯会もよくされているそうですね。楽しそう!
「女子会は定期開催しています。誰かのお誕生日には必ず集まります。あとはウチが博多大吉さんのお家から近くて、すごくいっぱい食べ物をいただくんですね。
なのでいい食材をもらうと、『いいものが入りました』と連絡網で回します(笑い)。すると椿鬼奴とか、まちゃまちゃとか、森三中の黒沢かずことか……女芸人が集まります。
あとは急に来る人が多いですね。『今から行っていいですか』じゃなくて、『今から行きます〜』って電話がかかってくるんですよ」
──ハイペースで集まっているんですね! 材料費が大変そう。会費制ですか?
「女子会が連日続くこともありますが、会費はもらっていません。でもみんな仕事でもらった食材を持ってきてくれるんですよ。この前は黒沢が『ロケで、こんなにいっぱいもらったんです』って言って、すごい量のこんにゃくを持ってきました。
ちょっと遠方にロケに行った人は、その土地の調味料とか、特産物とか、お蕎麦とか買ってきてくれます。あとは、まちゃまちゃはお料理をするので、たまに自分で作ったものを持ってきてくれますね。あ、黒沢はカプレーゼを覚えたと言って持ってきたけど……あれ、モッツアレラ・チーズとトマトを切るだけ(笑い)。
鬼奴は、以前お母さんと住んでいたのでお母さんが作ったご飯を持って来たり、そして今は旦那が作った料理を持って来たりで、自分では作らない。ウチで一緒に料理をするっていうことはないですけど、他人の料理をたまにいただくのは、発見もあって面白いです」
──関さんの料理を一番食べている、ラッキーな芸人は誰ですか?
「黒沢が一番多いかな〜。鬼奴も、まちゃまちゃも多いですが。女芸人は仕事で会うと、みんな『私も関さんのお家に行きたいです』って言ってくれて嬉しいです。
私の家は和室なんで、みんなすぐ靴下脱いでゴロンゴロンしたがります。居心地がいいんでしょうね、だからすごいときは、40時間とかいる人も(笑い)」
「お料理をすると人が集まってくる。お友達もいっぱいできました!」
──関さんのご飯を食べると出世できる、賞レースで優勝できる、結婚できると言われていることに関して、どう思っていらっしゃいますか?
「喜んでもらえるなら嬉しいと思います。でも絶対、ご本人の努力が大きいので、私はちょっぴり手助けできたかな、くらいが実感です。
『私のご飯を食べたからだよ、ホラね!』とはやっぱり思えませんね。美味しいご飯を食べたから、気持ちが上がって仕事を頑張れたとかなら、『よかったね!』と言えるんですけど」
──人によっては他人が家に入ることを嫌がる人もいますけど、関さんはそれがないんですね。
「ぜんぜん平気です。さすがに誰とも関わりのない、知らない人を家にあげて、ご飯を出すのは無理ですけど、つながりがある人なら問題ないです。
そうえいば、うちの実家も近所の子が来て、普通にご飯食べる家でした。しかも私の実家、小学校の通学路沿いだったんですけど、『あそこの家は麦茶くれる』ってウワサが広がったことがあって。小学生が麦茶をどんどん飲みに来ちゃったんですね。
この前、母に『なんで麦茶を出してたの?』って訊いたら、当たり前だと思って〜って言われました。血筋なのか、どっか抜けているのかな(笑い)。未だに同窓会で言われますよ。『昔、関さんの家で麦茶もらった〜』って」
──そんなお母様の料理のポリシーは?
「ないんじゃないかな? 適当だったと思います。特にオーガニックとか、こだわってなかったですし。唯一は、例えば子どもが風邪っぽいと『ねぎを使った料理にしましょう』とか、民間伝承的なものを気にしていたことは覚えています。
あとは旬の食材が多くて、今思えばいわゆる“ちゃんとした家のご飯”という感じでした。インスタント食品を絶対に使わない、ということでもないですけど、あまり出ませんでしたし。外食も少なかったですし。まあ貧乏だったのかもしれませんが(笑い)」
──9月中旬に出版された『食べると人生がかわる! 開運飯』の中で、トレンディエンジェルのおふたりが関さんのことを「お母さんみたいな存在」と言っていました。お母さん芸人と呼ばれることも、最近は多いようで。バックグラウンドを聞けば聞くほど、納得してしまいます。
「もう呼び名だけでも、一回結婚したことになるならいいかなって思い始めています(笑い)。
奥さんじゃなくて、お母さんって、『子どもも産んでんの!?』って感じですが。
でも確かに後輩はみんな、子どもみたいな感じがしますし、子どもがいる後輩芸人も結構いるので、そうするとそれは孫みたいですね」
──周りがバンバン、関さんのご飯で幸せになっていますが、関さんも今、幸せですか?
「本も出せましたし、幸せです! 私、お笑いやりに東京に来たのに10年たったら料理の本を出しているなんて、本当に意外ですけどね。まさかまさかの結果です。
でもありがたいです、料理もお笑いも人に喜んでもらう仕事なので、どちらに比重をかけるということではなく、平行してやっていきたいです」
──最後に、関さんがお料理を食べてもらって、一番嬉しい言葉はなんですか?
「シンプルですが、『美味しいね』。あとは『食べられなかったものが、食べれた』とか、『これ食べれるなんて!』とかが嬉しいです。この『食べると人生がかわる! 開運飯』を読んでレシピを実践してくださった方にも、同じ喜びを味わっていただきたいです」
──関さんは、本当に人の喜ぶ顔がお好きなんですね。私もその精神、見習いたいです。今日は本当に、どうもありがとうございました!
《プロフィール》関好江(せき・よしえ)◎1971年生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。山田真佐美とのコンビ「ボルサリーノ」で活躍中。芸人に振る舞う料理に注目が集まり、食べると運気が上がると評判になった。『昼まで待てない!』(メ〜テレ)の「いいコト料理」に出演中。
(取材・文/中尾巴 撮影/斎藤周造)