古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第5回は山名宏和が担当します。

鈴木奈々 様

バラエティーで本当によく見かける鈴木奈々 撮影/蔵澄侑希

 今回、僕が勝手に表彰するのはタレントの鈴木奈々さんである。

 どうして彼女があんなにもよくテレビに出ているのか、不思議に思っている方も多いのではないだろうか。実は僕も登場した当初は、すぐに消えると思っていた。しかし今もしっかり生き残って活躍している。

 僕が担当している番組でも、気がつくと彼女が出演している。「いつの間に鈴木奈々が!」と驚くこともしばしばだ。

 出演者を決めるキャスティング会議では、よくこんな発言が聞かれる。

「とりあえず鈴木奈々でも入れとく?」

 なんとも失礼な物言いではあるが、バラエティー番組の出演者にとって、この「とりあえず」扱いは強みである。

 なぜ番組スタッフは、とりあえず鈴木奈々さんをキャスティングしてしまうのだろうか。

 理由の一つは「リアクションのよさ」である。視聴者によくウザいとまで言われるあのリアクションだ。

 以前ある番組に鈴木奈々さんがゲストで来たときのことだ。番組の途中で虫だかトカゲだかを使ったゲテモノ料理をスタジオに出した。

 それを見た途端、彼女は絶叫しながらスタジオの端まで走って逃げ出した。MCの芸人が面白がって、料理を手に彼女を追いかける。

 叫びながらスタジオ中を逃げまくり、最後は足を滑らせ大開脚で転倒。

 ここまで派手にリアクションしてくれると、手間をかけてゲテモノ料理を用意したかいがあるというものである。

 と、ここまではテレビを見ていれば、なんとなくわかることだろう。だが、鈴木奈々さんがとりあえずキャスティングされる理由はもう1つある。

収録本番で突如力を発揮!

 ある特番での話だ。収録直前の打ち合わせで、彼女がどの話題ならネタを持っているかの確認が行われた。もちろん、中にはネタのない話題もあるが、その時は話を振らないので問題はない。

 収録が始まった。

 すると途中で、打ち合わせではネタがないと言っていた話題に突然割り込んできたのだ。

 ときどき、目立ちたいがためにたいしたネタもないのに割り込んできて、トークの流れをぶち壊しにするタレントがいる。今回もその手合いだろうとディレクターは内心イラッときた。

 しかし、彼女の口から語られたのは、事前に聞いていれば採用間違いなしの合格点のエピソードだったのだ。

 ネタがないと言っていたのに、どうして本番ではネタが出てきたのだろうか。3つの可能性が考えられる。

(1) 打ち合わせの後に思い出した。

(2) 誰かに相談して考えてもらった。

(3) 自分で考えて作った。

 真相はわからないが、いずれにしろ収録直前の短い時間で質の高いネタを仕込むのは容易なことではない。そして、打ち合わせ時にはなかった話を放り込むのには、トークの流れを読む力と、何より度胸がいる。

「バカなコかと思ってたけど、実は意外と賢いんじゃないかって思いましたよ」

 ディレクターのこの言葉が、彼女がよくキャスティングされる理由をよく物語っている。

 確かに知識や常識といった面ではおバカかもしれないが、ある部分においてはとても賢い。この二つの面を併せ持っていることが、バラエティー番組の現場的にとても助かるのだ。

 そこで今回、鈴木奈々さんには「おばかしこいタレント賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。

 今後とも、とりあえず出演のほどよろしくお願いします。

【プロフィール】
◎山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『世界何だコレ!?ミステリー』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。