今月11日、父親を口論の末、暴行し死亡させた金子賢俊容疑者。近隣に住む女性は「なんでこんなことに……残されたお母さんが不憫で」と声を震わせる。容疑者の家庭は祖母、両親、姉夫婦の家族が同居していた。家族間の微妙なバランスが、犯行へと向かわせたのか──。
事件は今月11日午後、東京・豊島区の住宅街で起きた。両親、姉夫婦とその子ども2人の7人家族で暮らしていた無職・金子賢俊容疑者(31)はその日、父の宏さん(64・無職)と2人きりになった。
「就職の面接試験のことで口論になったようです」
と捜査関係者は話す。口論となり、息子は父の腹や顔を殴りつけ暴行を加えた。仕事をしない息子を心配する父親。そこで息子に投げかけた父の言葉に、衝動を抑えきれず暴力に走ったのか。
われに返った容疑者は、「父親を殴ってしまった」と義理の兄に連絡し、駆けつけた義兄が目にしたのは、台所に倒れている義父の姿だった。
近所の住民はそのとき、金子家の様子に異変を感じていたという。
「当日はお祭りでね、私も出かけていたんです。午後1時半ごろに帰ってきたら、金子さんのお宅から女の人の泣き声と“何で救急車を早く呼ばなかったのよ”って叫び声が聞こえてきて。それから警察や救急車が来て、何かあったの? ってお姉さんに聞いたら“父が倒れて頭を打ったみたいで”って話していました」
宏さんは救急搬送されたが、約2時間後、病院で死亡が確認された。翌12日、金子容疑者は警視庁目白署に傷害容疑で逮捕された。
つい最近まで祖母も同居する8人家族だった
金子容疑者の印象について、「穏やかな感じの人だったけどねぇ。凶暴性を感じさせることなんて全然なかった」
そう話すのは近所の商店主だ。以前は容疑者が姪を連れ、平日の昼間によくアイスやお菓子を買いに来ていたという。
つい最近まで金子家は容疑者の祖母も同居する8人家族だった。そのころの目撃談。
「おばあちゃんが認知症を患っていて、デイサービスに通っていたの。迎えの車が来ると必ず息子さん(=容疑者)が送り迎えしていてね。おばあちゃんも“本当にいい子なんですよ”って可愛くてしょうがないという感じでしたね」(近隣の主婦)
無職だったが、祖母の手助けを通して家族としての役割を果たそうとしていたのか。
だが、おばあちゃん子なんだと近所の住民を和ませた送迎風景は、今年になってからパッタリ途絶えた。
「おばあちゃん、最近見ないわねって(容疑者の)お姉さんに聞いたら、“身体の調子が悪くて施設に入ったんですよ”って」(前出・近隣の主婦)
祖母という潤滑油が今も家の中にいてくれたら、悲劇は防げたのかもしれない。
引きこもりでも、家庭で役割があると安定する場合が多い
社会心理学を専門とする新潟青陵大学の碓井真史教授は、31歳で無職、周囲との交流がない金子容疑者を「社会的引きこもり」と定義したうえで、次のように解説を加える。
「引きこもりでも、家庭で役割があると安定する場合が多いんです。料理、洗濯、炊事をすれば感謝もされるし必要とされる。彼の場合は、姪の面倒を見て、おばあちゃんの世話をするといった役割があったと考えられます。
おばあちゃんというのはだいたい孫にはやさしいですよね。彼には癒しだったでしょう。おばあちゃんが施設に入ることは、彼には仕事と癒しの両方をなくす喪失体験だったのかもしれません」
可愛がっていた孫が起こした悲劇。おばあちゃんには知らないままでいてほしい。