「突然ですが、ワイングラスはどこを持つのが正しいか知っていますか?」
マナー講師・諏内えみさんからのクエスチョン。アナタは正解できる?
「現在、日本ではほとんどの方がステム部分(棒のところ)を持っていますが、実は、欧米ではボウル部分を持つのが主流です。正式な晩餐会でも、各国の首脳たちはボウルを持って乾杯しているんですよ。ただ、日本のレストランやパーティーでボウルを持つ方は少ないため、“周りに合わせるのもマナー”という観点から、ステムを持ってもよいでしょう」
大切なのは“グローバルではボウル”という知識を持ったうえで、臨機応変な態度がとれること。
「マナーと聞くと、つい正解を求めてしまいますが、相手との関係性やお店のランク、国によっても変わってきます。マナーとは“人を不快にさせない”“相手を心地よくさせる”ものなんです」
知ってさえいれば、どんな場面でも萎縮せず、堂々と振る舞うことができる。逆に、知らないと自分の株を不必要に下げてしまうことも……。そして失敗が許されないのは、何といっても冠婚葬祭。
「結婚式では、パンツスタイルのように昔はNGでも、最近は許容されていることもあります。が、やはり周りの見る目は厳しい場です。“新郎新婦から呼ばれている”という自分の立場をわきまえることが何より大切です。葬儀・法要は宗教、宗派、地域性で正解が変わってくるので、難しいですよね」
とは、和文化研究家・三浦康子さん。諏内さんと同様に“基本的な知識を持ったうえで、シーンに応じて、相手の気持ちを考えながら振る舞うことが正解”だと強調する。
さっそく、食事編、訪問編を諏内さんに、冠婚葬祭編は三浦さんに、大人の基本マナーを教えてもらおう。ちなみに、見出しの後に(★)があるのは、編集部の30代独身記者が「知らなかった」と呟いたものです。
食事編
■ごはんと味噌汁、右に置くのは?
味噌汁。ごはんは左。日本人の基礎の基礎です。日本文化の考え方では“左上位”のため、主食のごはんが左となります。
ある芸能人の方がインスタグラムに逆の写真をアップして炎上したこともあったようです。また、焼き魚の向きが逆の写真をアップして炎上した議員さんもいましたね。尾頭付きは、頭が左です。
■お刺身のわさび、しょうゆに溶かす? 身に直づけ?(★)
正解は、身に直づけ。しょうゆにわさびを溶かすと見た目が美しくありませんし、すったばかりの本わさびの風味も落ちてしまいます。クセでしょうゆに溶かしてしまいがちですが、お刺身の身にわさびをのせたほうがいいですね。溶かすより、ずっとおいしくいただけますよ。
■大皿から取るとき、自分の箸を上下逆に持ち替える?(★)
よかれと思って上下を逆に持ち替える人がいますが、“逆さ箸”はマナー違反です。手で触れていた部分で食べ物を取ることになるので、不衛生ですし、見栄えもよくありません。
■箸で取ったものの汁がたれそう! 手で受ける? 小皿で受ける?(★)
口に運ぶときに、逆の手を添える“手皿”をマナーと勘違いしている人が多いのですが、実はNGです。こぼれる心配をするのであれば、小皿を持つのが正解です。手皿はドラマやグルメ番組などで見ることも少なくありませんが、子どもも見ているので、正しいマナーや所作で映ってほしいと思います。
また、テーブルと身体が離れすぎている方も多いですが、こぶしふたつ分くらい空けるといいです。頭を下げると犬食いとなりますので注意し、(頭を上げたまま)上体をやや前に倒し、口がテーブルの上に来るようにすれば、たとえ落としてもお皿の上だから大丈夫です。
■焼き魚の骨をはずすとき、手を使ってもいい? あくまで箸だけ?(★)
もちろん、いいですよ。上身を食べてしまったら、骨が出てきますよね。そして、背骨を頭のところで折ると思いますが、その際に手で頭を軽く押さえるのはOKです。とはいえ、ただ手を使うより、懐紙で覆うと上品で手も汚れません。
はずした骨は(お皿の)向こう側に置き、下身を食べ始めます。くれぐれも、ひっくり返して下身を食べることはしないように。
■引いてもらったイス。座るのは左から? 右から?(★)
基本は左から。これはプロトコルマナー(国際儀礼)です。晩餐会では、全員が同じ側から出ないとぶつかってしまうので。
ただ、面接など緊張感のあるシーンであれば守ったほうがいいと思いますが、レストランで自分は右にいるのに、わざわざ左に回る必要はありません。それは不自然ですよね(笑)。国際儀礼が左だと知っていれば、あとは臨機応変に。
■ナイフで切り終えた後なら、フォークを右手に持ちかえてもいい?(★)
右手にナイフ、左手にフォークが基本です。メインを一気に全部切り分けてしまうのもNGです。正式の場で、フォークを左手から右手に持ち替えると下品ととらえられることも。カジュアルなお店であれば、持ち替えても大丈夫です。
■パスタを巻くときに使うのはフォークのみ? フォーク&スプーン?
イタリアでは、スプーンはフォークが上手に使えない子どもが使うもの。大人が使うとびっくりされます。もちろん、スプーンとフォークの両方を出されたら“そのお店では使っていい”ということになります。
■イタリア料理で食後に頼むのは、コーヒー? カプチーノ?(★)
イタリアではカプチーノは朝食のときに飲むもの。夕食後にカプチーノを飲む習慣はありません。イタリアで、食後にカプチーノを頼むと驚かれてしまいます。そして、オーダーするのはコーヒーやエスプレッソが主流のようです。
■中華は取り皿を持ち上げて食べていい?(★)
これは、ダメ。和食と違い、食べるときも、料理を取るときも、取り皿は持たないのが中華料理のマナーです。取り皿を料理の味が混ざらないよう、料理ごとに取り替えます。たくさん使ってかまいません。
■中華の回転テーブルは時計回り? 反時計回り?(★)
時計回り、が正解。出された大皿は主賓から順に取るのが基本。全員に行き渡るように、やや少なめに取るのがマナーです。1周回って、余った分のおかわりは自由。誰かが取り分けている最中に回さないように気をつけましょう。立ち上がって料理を取るのはNGです。
■食べ終わったお椀。フタは上向きにする? 裏返して?
ひっくり返したり、わざとズラしたり……。そんなサインは不要です。お店の方はプロフェッショナルなので、食べ終わっているかはわかりますし、「下げてもよろしいですか?」というひと言が必ずあります。食べ始めるときに取ったフタをどう置くか、悩む方もいるかもしれませんが、あお向けに。伏せて置くと、水滴がテーブルに落ちてしまいます。
また、“お店の人が下げやすいように”と重ねる方もいますが、NGです。お皿の底にソースや油がつきますし、和食店であれば高価なお椀などの塗りがはげるおそれもあります。お店ごとに片づけ方が違うので下手に触らず、邪魔だったら隅のほうに置いておくのが親切です。洋食の場合も、お皿には“触らない”“動かさない”のが鉄則です。
■食事後、ナプキンはきれいにたたむのが正解?(★)
食事が終わったら、ナプキンはクシャッとさせてテーブルの上に置きます。きれいにたたむと“おいしくなかった”というサインになってしまうので気をつけましょう。
訪問編
■訪問先で靴を脱ぐときは、正面を向いて? 後ろ向きで?
正面を向いて、が〇。まず玄関には正面を向いて入りますよね。そのまま靴を脱いで上がって、くるっと回り、身体を斜めにしてかがんだ状態で靴をそろえます。
後ろ向きで脱げば、靴を直す必要がないと思うかもしれませんがNGです。なぜなら、訪問相手に背中を向けながら上がることになり、失礼です。
■手土産を渡すとき、紙袋から出す? 紙袋ごと?(★)
個人宅だったら、紙袋から出して渡すのが正式です。ただし、会社の会議室や外出先の場合は、わざわざ紙袋から出すのは大げさ。紙袋がないと、相手も持ち帰るのが大変ですから、紙袋ごと渡すほうがかえってスマートですね。
また、普通の手土産であれば、通された部屋で渡します。玄関でお渡しするのは、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れてほしいもの。そして、大きなものだけです。
■手土産を渡すときは「つまらないものですが」が正解?
昔は「つまらないものですが」が決まり文句でしたが、へりくだりすぎていて、今ではかえって失礼な印象を与えてしまいます。
「お口に合うといいのですが」でもいいですが、オススメは「すごく人気のある品なので」「私が大好きなものなので、ぜひ召し上がっていただきたくて」「〇〇がお好きと伺いましたので」などです。きっと、“自分のことをいろいろ考えて選んでくれたんだ”と喜んでくれますよ。
■人に座布団を譲るときは、裏返して? 表面をサッとなでて?(★)
「表面をサッとなでて」が〇。座布団には表と裏がありますので気をつけましょう。中央に留め糸がついているほうが表で、ないほうが裏です。向きもちゃんと決まっています。縫い目のない辺を前にして座ります。
なお、すすめられてもいないのに、勝手に座布団に座ってはいけません。まずは、座布団の下座側にはずれ、挨拶をします。すすめられてから、両手を握って身体の脇につき、ひざでにじり寄ります。また、座るときも降りるときも、座布団を足で踏まないように気をつけてください。
■出されたお菓子は、全部食べる? ひと口残す?(★)
「全部食べる」が〇。昔は、自分が残したものは、持ち帰っていました。そのくらい残すことは失礼な行為なんです。ですから、いったん手をつけたものは、残さずに最後までいただくようにしましょう。お茶も同様です。
■脱いだスリッパは先を室内に向けてそろえる? スリッパ立てに戻す?(★)
正しくは「先を室内に向けてそろえる」です。訪問先から失礼するときは、玄関方向を向いたままスリッパを脱ぎ、そして靴をはきます。その後に振り返ってかがみ、スリッパの先を室内に向けてそろえ、端に寄せるのが正解です。勝手にスリッパ立てに戻さないほうがいいでしょう。
結婚式編
■招待状の返信。「御芳名」で消すべき文字は?(★)
「御芳」を消す、が正解。「御」を消すことはみなさんご存じだと思いますが、「芳」も敬意を含んでいるので注意しましょう。受け取った側にあてられた敬語はすべて二重線か「寿」の文字で消します。「行」だけでも「寿」で消して「様」にすると気がきいています。
メッセージを書き添えるのがオススメですが、句読点はつけません。毛筆か万年筆で書くのが正式ですが、水性ペンならセーフ。ボールペンは避けましょう」(三浦康子さん、以下同)
■40歳独身女性。振袖はあり? やはり訪問着?(★)
やはり訪問着。未婚女性の第一礼装は振袖ですが、年相応の装いをすることが大切です。それからはずれると、周りから「みっともない」と思われかねません。ご自分が損をするだけでなく、新郎新婦の顔に泥を塗ることになってしまいます。35歳だと意見が分かれるところですが、40歳であれば素敵な訪問着がよろしいかと思います。
■黒いタイツはあり? なし?(★)
正解は、なし。基本的には肌色のストッキングを着用します。また、全身黒は喪服に通じるためNGです。黒いワンピースの場合は、ボレロやアクセサリーなどで明るい色を必ずプラスします。また、「白は花嫁の色だからダメ」は有名ですが、ベージュも見方によっては白になるので注意が必要です。避けたほうが無難でしょう」
■祝儀袋の上包みのかけ方。裏面の重なりで上にするのは、上からの折り返し? 下からの折り返し?
下からの折り返し、が正解。まず上から折り下げ、次に下から折り上げてかぶせます。これは、「天を仰いで喜びを表す」といわれています。逆に不祝儀の場合は「頭を垂れて悲しみを表す」ので、重なりも逆になります。
■祝儀袋の中袋へのお札の入れ方。お札の肖像画(表面)が上に来る? 下に来る?(★)
上に来るように入れるのが正解。祝儀袋の内袋の表と、お札の表(肖像画が描かれている面)を合わせ、肖像画が最初に出る向きにして入れます。たまに、袋の表と裏を勘違いしている人がいますが、間違えると不祝儀になってしまうので、とても大事です。
葬儀・法要編
■突然の訃報で「ご厚志お断りします」。香典は持っていく?(★)
念のため持っていきます。「ご厚志お断りします」は「香典も供物・供花も受け取りません」という意味ですが、気がかりですよね。最初から「断っているから香典は必要ない」という態度より、一応持参して、お伺いを立てるといいと思います。受け取る場合もありますし、本当に受け取らない場合は、ちゃんと向こうでお断りされますから。
■「供物・供花を辞退します」とある場合、香典は持っていく?(★)
正解は、持っていく。これは「供物と供花は受け取りません」という意味なので、香典はその中に含まれていません。手ぶらはNGです。先の「ご厚志お断りします」との違いを知っているといいですね。
■宗派のわからない葬儀。香典袋に書くのは「御霊前」?「玉串料」?(★)
宗派のわからない場合なら「御霊前」。基本的にはオールマイティーに使えるとされています。神式やキリスト教式の葬儀でも許容範囲ではありますが、明らかに神式なのに「御霊前」は、やはり適切ではありません。せめてどの宗教なのかぐらいはわかっていたほうがいいです。神式の場合は「玉串料」、キリスト教式の場合は「お花料」などが一般的です。
ただし、蓮の花が描かれた香典袋は仏式だけ。神式の葬儀に蓮の花が描かれた香典袋は、「御霊前」と書いてあってもNGです。無地の香典袋であればセーフです。
■通夜に「平服でお越しください」は地味な普段着でもいい?
葬儀の平服とは、地味なワンピースやアンサンブルなどの“略喪服”のことです。男性ならダークスーツを着用します。決して普段着のことではないので注意しましょう。もちろん、喪服でもまったく問題ありません。
■キリスト教式の葬儀で「心よりお悔やみ申し上げます」は不適切?(★)
「お悔やみ申し上げます」「御愁傷さまです」は仏式です。キリスト教では「安らかな眠りをお祈りします」が適切。死は神のもとに召されることだから悲しむべきことではない、とされるためです。神式では「御霊のご平安をお祈り申し上げます」です。一般的なお悔やみの言葉とは異なるので注意してください。
■遠方で出席できない。香典を郵送する? 出さない?
やはり郵送するなり、一報入れてから後日改めて訪問するなり、お悔やみの気持ちを伝えるアクションをしたほうがいいと思います。郵送の場合は、現金書留に不祝儀袋を入れ、伺えなかったお詫びの書面も同封します。最近は香典袋に新札を入れてもタブー視されなくなってきましたが、やはり古いお札のほうが無難です。
<教えてくれた人>
◎諏内えみさん
『マナースクール ライビウム』『親子・お受験作法教室』代表。情報サイト『All About』暮らしのマナーガイド。ハッとされる所作や、また会いたいと思わせる会話術の講座が人気。仲間由紀恵など、有名女優へのマナー&所作指導も。メディア出演、著書多数
◎三浦康子さん
和文化研究家、情報サイト『All About』暮らしの歳時記ガイド、順天堂大学非常勤講師。日本の行事、風習、礼儀などに造詣が深い。『ノンストップ!』ほかメディア出演多数。近著『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)