築地から引っ越す先の豊洲新市場が大騒ぎ。土壌汚染対策として、きれいな土と入れ替えたはずなのに、建物の地下には謎の空間が広がっていた。素朴な疑問をQ&A方式で読み解く。
謎の地下の空間が見つかったキッカケは?
「この夏、豊洲新市場の床が、荷物運搬用の小型特殊車『ターレ』の重さに耐えられないんじゃないかという話が持ち上がりました。事実を確認するため都側に説明を求めたところ、担当者は建物の断面図を持ってきたんです。それが地下空間騒動の始まり。耐荷重問題がキッカケでした」
と明かすのは、共産党都議団の大山とも子幹事長。
入手した断面図を建築専門家に見せたところ、「これ、地下が空洞だよ」と指摘され、「えーっ! 盛り土しているはずなのに」と仰天したという。
8月25日のことだった。
耐荷重問題はひとまず横に置き、都側に地下空間の有無を確認すると、「空洞があります」とあっさり存在を認めたという。小池百合子都知事が移転延期を正式表明したのはその6日後だった。
共産党都議団は9月7日に現地を視察。水産仲卸売場棟の地下空間をドアからのぞくと、約1センチの水がたまっているのがわかった。同14日には“ミッション”を胸に秘めて青果棟の地下を視察した。謎の地下空間をめぐる報道はヒートアップしていった。
「水を採取しようと決めていました。'07―'08年に豊洲予定地の土壌汚染が大問題になったとき、現地で水を採取しようとして、都職員から“ぜーったいダメです。水は都の所有物なので持ち出さないでください”と突っぱねられたことがあった。しかし今回は、世論や報道があったので阻止されなかった。都職員は小さな声で“水は私たちも調査していますから”とか言っていましたけれど」(大山幹事長)
ちなみにターレは最大積載時には約2トンに及ぶとされ、耐荷重が1平方メートル当たり700キロという豊洲の床が抜け落ちる懸念が報じられている。
歴史と愛着のある築地市場から引っ越したい理由は?
「石原慎太郎氏が1999年に都知事に初当選した約5か月後のこと。築地市場を視察して“古い、狭い、危ない”と渋い表情で感想を述べ、移転にカジを切った。就任以前に築地での再整備が中断されていた経緯があり、営業を続けながら再整備するのが難しい以上、移転やむなしという空気が醸成されていった。つまり、市場で働く人たちの立場からみれば、引っ越したいわけではなく、引っ越すしかないよな~と諦めたという言い方が近いだろう」
と都政に詳しい全国紙社会部記者は振り返る。
老朽化が進む築地市場について、現地での再整備計画が策定されたのは1988年だった。当時の知事は3選を果たした鈴木俊一氏(故人)。さらに青島幸男氏(故人)は工事をめぐってさまざまな問題が噴出中の'95年に就任し、翌'96年に再整備計画の見直しを決めた。どうして再整備できなかったのか。
「築地市場は23ヘクタールの敷地内に空きスペースがなく、ほかに4ヘクタール程度の作業スペースを確保しなければならない。しかし、都心の一等地だから隣接する空き地はない。首都直下型地震が心配される中、限られたスペースをやりくりしてちょこちょこ工事していった場合、工事期間は最低20年以上かかるという。その間、常に動線は変わるし、仮店舗で営業しているところがある。使い勝手が悪すぎる」(前出の記者)
石原氏が「危ない」と言ってから17年。後継の猪瀬直樹氏、舛添要一氏がトップになっても豊洲移転の方向性は変わらなかった。
4年後の東京五輪で使う道路建設は間に合わない?
「間に合いますよ。トンネルを掘らなければいいだけのことです」
と政治評論家の有馬晴海氏は明解に言い切る。
地下空間の存在が明らかになる前から、移転を延期したら'20年東京五輪で使う環状2号線の工事が間に合わなくなるとの指摘があった。主催都市は東京都だけれど、五輪には国の威信がかかる。それでも小池知事は豊洲移転について「いったん立ち止まって考える」と約束したとおり、移転延期を決めた。
全長約14キロの環状2号線は、五輪で新国立競技場と晴海の選手村、有明の競技会場を結ぶ。築地市場跡地にトンネル入り口をつくる計画なので、引っ越しが完了しないと工事に着手できない。選手の円滑な移動が妨げられる心配がある。
前出の有馬氏は、「トンネルではなく地上を通せばいいんです」として次のように話す。
「虎ノ門―新橋間の通称・マッカーサー道路はすでに開通している。未開通の新橋―豊洲間では築地大橋ができているから、築地市場跡地の計画部分は地上に仮設道路をつくればいいじゃないですか。道路より食の安全ですよ」
理想を追い求めなければ、なんとかなるかも!?
最終的に豊洲移転するのか、しないのかどっち?
「(問題が)出るわ出るわでございまして……」
小池知事は23日、都庁の会見で豊洲新市場についてそう述べた。着地点は見えていないようだ。
いつ、だれが盛り土しないと決めたのか。なぜ議会答弁が事実と異なっていたのか。職員から中間報告を受けた小池氏はそうした疑問点を列挙して「まだ曖昧な部分を残している。9月いっぱいで最終報告をまとめたい」と話した。
移転か中止かの見通しについては、来年1月に判明する地下水のモニタリング調査結果などを待って「総合的に判断したい」とした。
前出の大山幹事長は「仲卸の人などの意見をちゃんと聞いて、最善の策をとらなければいけない。築地での再整備も考えたほうがいい。豊洲の建物は何に転用できるかを含めて考えなきゃダメ」と話す。
28日に開会する定例都議会の経済・港湾委員会で集中審議し、石原元知事や歴代の市場長らを参考人として呼ぶことも視野に入れる。「ラチがあかなければ百条委員会の設置も考える」と大山氏。
前出の有馬氏は「土壌汚染などの調査を全部終えないと安全宣言できない」と読む。「問題がなければ来年7月ごろ移転できる。暴露するだけが都知事の仕事ではないし問題を収めないといけませんから。延期の予算も都議会に承認してもらわないと使えないし全部否決されたら身動きできなくなって辞職するハメになる」(有馬氏)
まずは疑惑解明が急がれる。