元祖ニューハーフタレントのカルーセル麻紀さん。放送禁止ギリギリのトークがウリのこの人は、意外にも「超」がつくほどの読書好きだった。
「私の読書は基本的にお風呂の中。いちばん集中できるんです。湯船に浸かりながら、もしくは湯船に腰かけたりしてね。2時間は読んでいますね。おもしろくてやめられなくなって3時間、なんてときもありますよ。分厚い長編が大好きなんです」
麻紀さんにとって人生最初の衝撃的な本との出会いは、三島由紀夫の『禁色』。
■『禁色』(三島由紀夫 著/新潮社)
一生を女性に裏切られてきた老作家が、女を愛することができない同性愛者の美青年を利用して、自分を苦しめた女たちに復讐を企てるという異色作品。
「自分が普通の男の子と違うことは、小学生からわかってました。中学生になって三島さんの『禁色』を読んで、ああ男同士の関係もあるんだ、と知ったんです」
高校を3か月で中退。さまざまな町のゲイバーを転々とし、30歳のときモロッコで性転換手術を受けた。
「普通なら1週間くらいで退院できるのに、私だけ高熱が続いて、結局40日間も入院してました。そのとき、たまたま持ってきていた『禁色』を5回も6回も読み返しました。そこで中学時代にはわからなかった作品の意味がようやくわかったんです」
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ナチスのホロコーストへの思い
人生で出会ってしまった2冊目の本は、30歳で初めて読んだウィリアム・スタイロンの『ソフィーの選択』。
■『ソフィーの選択』(ウィリアム・スタイロン 著/新潮社)
ナチスのホロコーストを題材に取った作品。小説はピュリッツァー賞を受賞。映画ではメリル・ストリープがアカデミー賞主演女優賞受賞。
「ホロコーストが出てくる本は全部読みます。なかでもこの作品は何度も読み返したしメリル・ストリープ主演の映画も何度も見ました。
ヒロインがアウシュビッツで子ども2人のうちどちらを取るかの選択を迫られたり、最後も生きるか死ぬかの選択があったり。わたしも性転換手術のとき選択を迫られたことを思い出しながら読みました」
実は、彼女がホロコーストの本を読むのには大きなわけがあった。
「ヒトラーはユダヤ人や同性愛者を抹殺したでしょ。私たちもずいぶん差別されて生きてきたから、それと重なるんですよ」
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直木賞作家・桜木紫乃とは同郷の仲
最近出会ってのめりこんだのは、桜木紫乃作品。
■『ホテルローヤル』(桜木紫乃 著/集英社)
北国の湿原を背にするラブホテルを舞台に生活に諦念や倦怠を感じるホテルの客、経営者の家族、従業員ら男女が絡み合う短編集。第149回直木賞受賞作品。
「直木賞や芥川賞をとった作品はほぼ読みます。この『ホテルローヤル』は、作者の桜木さんが、私と同郷の釧路市出身だと知って真っ先に買いました。
短編だけど、北国のホテルに登場するそれぞれの人物が微妙に絡み合っていておもしろかった。釧路が舞台になっているのはすぐわかりました。住んでいる人しかわからない描写がけっこう出てきますからね」
読了後しばらくすると、北海道の月刊誌を通じて、桜木さんが麻紀さんに会いたいと言ってきたという。ちょうど麻紀さん自身の自叙伝の対談相手を探していたこともあって、異色の対談が実現した。
「すごい性描写をする人だからどんな人かと思ったら、見た目はとても地味な女性で、私の中学の後輩だったんですよ。でも、女性なのにストリップ劇場に通うような変わった人。対談が終わって食事になったら2人でシャンパン飲んで盛り上がりました」
それからは、桜木さんの著書をすべて読みまくった。
「桜木さんの作品の特徴は“エグい性描写”(笑)。こんなこと、どうして書けるんだと思うくらい。すごくイマジネーションが刺激されますね。作品の中に、昔、私が働いていた根室や室蘭や札幌の町が出てきてすごく懐かしくて、北海道弁もよく使われるから親しみも湧くんです」
本を買うのは行きつけの書店。毎回、1時間ほどかけて紙袋2つは買うという。
「買ってきた本をベッドルームに並べて、次にどれを読もうかなとワクワクしながら眺める、それが幸せを感じる瞬間ですね」
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<プロフィール>
◎カルーセル麻紀(かるーせる・まき)
ニューハーフタレント。旧名、出生名は平原徹男。1942年、北海道生まれ。元男性であることをネタにした痛快なトークで人気を集める。芸能界はじめ各界に人脈を持つ。近著に『カルーセル麻紀自叙伝 酔いどれ女の流れ旅』(財界さっぽろ)