ついに環境基準を超すベンゼン、ヒ素を検出!

環境基準を超すベンゼン、ヒ素が検出された豊洲新市場

「安心・安全を確保する。それなしに市場はそもそもありえない」

 東京都の小池百合子知事(64)は9月30日の定例会見で、築地市場の豊洲移転を白紙撤回する可能性についてそう述べた。まさしく「都民ファースト」の消費者目線といえるだろう。しかし同時に、見通しの読めない言い方でもあった。

 移転延期の発表から約1か月。最終的に移転するのか、現地再整備に方針転換を図るのか。小池知事は、豊洲予定地の地下水モニタリング調査の最終結果が来年1月に出るのを待ち、複数の有識者会議の見解を踏まえるとしたうえで、

「多角的に判断できるタイミングをはかっている」

 と明かすにとどめた。

 前日29日には恐れていた事態が発覚した。豊洲の地下水から環境基準の1・1〜1・4倍のベンゼンと、1・9倍のヒ素を検出。約2年にわたる地下水モニタリング調査で初めて環境基準を超える有害物質が見つかった。

 市場問題に詳しい全国紙社会部記者が言う。

「土壌汚染の専門家は“飲むわけじゃないから問題ない”などとコメントしていたが、また新たな不安のタネが出てしまった。全9回の調査の8回目で基準値超えというのが気になる。7回目までは問題なかったのだから。当初の11月移転のスケジュールどおりに進んでいたら危なかった」

「都はよくなると言うが、これが全くの大ウソ」

東京中央市場労組の中澤誠委員長は「移転は無理」と話す

 なぜ、いまごろになって問題が次々と明るみに出るのか。ほかにいくつぐらい問題が出てくる可能性があるのか。

 築地市場で働く従業員でつくる『東京中央市場労働組合』の中澤誠・執行委員長は「細かく言えば100個ぐらい問題があるんじゃないか」として、次のように話す。

「新しい施設をつくったら、物流効率がよくなるのがフツーでしょ? 都はよくなると言っていたけれど、これが全くの大ウソ。豊洲は閉鎖型の市場なので、荷物を積んだトラックは荷卸しの順番を数珠つなぎで待つしかない。築地は開放型なので卸したいところに車を止めて、スピーディーに荷卸しできる。全国から魚を運んできたトラックが数珠(じゅず)つなぎで順番を待つというのは現実的ではありません」

 荷卸しスタイルにも問題があるという。築地の場合、大型トラックは面積の広いサイドの扉を開けて、一気に荷卸しに取りかかることができる。しかし豊洲では、1度に荷卸しする台数を少しでも多く確保するため、トラック後部を施設に向けて止めなければならない。つまり、面積の狭い後部の扉を開け、少しずつ荷卸しすることになる。

「いかに短時間で大量の荷物をさばくかが卸しの仕事。現在のスピードを維持するためには、そうとう人手を増やす必要がある。また築地は平面配置だけれど、豊洲の仲卸棟は売り場が1階で駐車場が4階。縦の動線が重要になってきますが、後づけのスロープは道幅に余裕がなく、狭くて急なヘアピンカーブをジグザグ上り、上り・下りが対面式なので事故が心配です。エレベーターも少なく、これも順番待ちになりそうです」(中澤委員長)

「ランチタイムに間に合いません」

 さらに、交通アクセスが不便すぎるという。築地市場から豊洲予定地までは直線距離で約2・5キロ。しかし道路事情が悪く、都心に向かうには混雑する晴海通りを通過しなければならない。

 その結果……、

「新宿、渋谷、池袋の飲食店向けの午前中配送は間に合わなくなるだろう、と運送業者は言っています。正午を回ってから届いても遅いんです。ランチタイムに間に合いませんから」(中澤委員長)

 このまま豊洲移転となった場合、築地直送のマグロ丼や海鮮丼、刺身定食や焼き魚定食は新宿や渋谷から消えるかもしれないというわけ。ディナーは高くつく高級店であっても、ランチタイムはもうけ度外視のサービスメニューを設定しているところが多い。列に並んででも食べるのが庶民の楽しみなのに、それが奪われるのはやるせない。

「食材にこだわるプロの料理人は築地市場に毎朝通う。日比谷線・築地駅、大江戸線・築地市場駅、都営浅草線・東銀座駅、丸ノ内線や銀座線が通る銀座駅や、JR有楽町駅からも徒歩圏内。一方、豊洲予定地は最寄りが新交通ゆりかもめの市場前駅。有楽町線・豊洲駅からも歩けるが、公共交通機関を利用したアクセスは格段に悪くなる。仕入れるだけが仕事ではないから悩ましいはず」(前出の記者)

都議会がどう反応するかも懸念材料

 どうして、都は新市場建設前にもっとユーザーの声に耳を傾けなかったのか。

 ほかにも店舗の間口が狭くてマグロが切れない、という問題が出ており、共通するのは使う人の立場で設計されていないということ。小池知事が招集した『市場問題プロジェクトチーム(PT)』は9月29日に初会合を開き、豊洲新市場について土壌汚染や施設の安全性のほか、交通アクセスや荷捌(さば)きなどの機能、働きやすさや事業継続性についても検討することを確認した。

 前出の中澤氏は「築地の物流効率は天下一品。全国の生産者のためになっている。できれば大事にしたいし、残したい。建て直すにしても、移転するにしてもオープンで開かれた議論が必要だと思います」と話す。

 市場関係者は引っ越し準備を中断したまま、宙ぶらりんで仕事を続けるしかない。

 小池知事は会見で、

「市場関係者は怒りを通り越してガッカリされているだろうとお察しします。本当に申し訳ない。市場を動かすのは市場関係者。東京都と引き続き一緒にやろう、という流れをつくっていかなければ、築地のブランドにしても、豊洲の新天地にしても、うまくいかなくなってしまうと懸念しています」

 と信頼回復を誓った。

 移転延期をめぐっては、この先、都議会がどう反応するかも懸念材料だろう。

 また内部調査の結果、豊洲予定地の主要建物の地下に広がる謎の空間については、いつ、誰が決めたことかわからなかったという。小池知事は「匿名、実名どちらもOK」という内部告発の仕組みを整える考えを示した。

 つまり、内部調査の対象外とされた職員から“タレコミ”を待つことになる。

 さらに知事は、市場問題だけに集中して取り組むことができない。前出の記者は言う。

「五輪施設の見直しも喫緊(きっきん)の課題。都の調査チームがまとめた報告書は、このままいくと開催費用が3兆円を超えそうだと指摘し、水泳やボート・カヌー、バレーボール会場となる3施設の整備計画を見直すことを提言した」

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は「IOC(国際オリンピック委員会)で決まったことをひっくり返すのはきわめて難しい」と、さっそく猛反発。スポーツ界を敵に回しそうな気配が漂っている。