全国にある空き家は820万戸とされ、年々増加傾向にある。空き家問題はいまや深刻な社会問題のひとつだ。そんな無人の廃屋のひとつから、死後数年が経過した白骨遺体が発見された。以前はラーメン店だったその建物は、現在では草木が生い茂り、夜になると異様な雰囲気だった。亡くなったのはどのような人だったのか。真相に迫った──
閉店して丸24年、店舗の中に遺体があるという噂が…
埼玉県春日部市。片側2車線の国道沿いに、かつて繁盛したラーメン店がある。その周囲は今、草木が生い茂り、一見しただけではそこに建物があると気づかない。
その廃店舗から白骨遺体が発見されたのは、9月17日午後3時過ぎのことだった。
周辺に伝わっていた「あそこに死体があるらしい」という噂話。発見者の男性(64)は、その真偽を確かめようと、知人男性と連れ立って現場へ足を踏み入れたという。
「店舗に遺体があるという噂を聞き、興味本位で訪れて発見したようです。店舗2階の座敷に横たわっており、食べ物の袋やペットボトルなど居住していた様子がありました。年齢・死因などは現在捜査中ですが、男性の可能性が高い。事件、事故両面から捜査をしていますが、事件性は低いと見ています」
捜査関係者はそう説明する。
以前、その店で働いていたという男性に話を聞いた。
「オープンは、正確には忘れちゃったけど、1971年か'72年ごろですよ。1階はラーメン店でした。途中で建て替えて、2階で焼き肉店をやるようになりました。にぎわっていましたけど、最後はファミリーレストランに押されぎみになって……'92年10月に閉店しました」
閉店して丸24年。建物は不動産価値を失っているが、約170坪の土地は5250万円で売りに出されていたという。地元の不動産業者は、
「高いよね。1坪30万円なんて、誰も買わないよ。ここらの相場は、1坪15万円かな」
買い手はつかず、ずっと空き店舗のままだった。
近隣住民が「何で放置しておくんだ。さっさと更地にしたらいいのに。気味が悪い」と声を荒らげ、近所の主婦が「人が出入りして飲み食いしているみたいよって話を聞いたわ。気持ち悪いし怖いからなるべく近づかないようにしているの」と警戒する物件。
出入りする人の影「トイレには大便がしたままに」
「誰かが廃屋に入って行ったって話を聞いたことがありますね。閉店してから窓が割られたり、不法投棄がされて、所有者がフェンスを張ったみたいだけどね」(別の住民)
一部地元で目撃されていた「元ラーメン店に出入りする人の影」。
建物の近くに畑を所有する地元女性は、
「誰かが出入りするところは見たことないけどね。建物のフェンスの中の草が踏みつけてあったから、誰か出入りしているんでねぇかなぁとは思ってたんだけどね。どうせホームレスとかだろうよ」
と推測する。
前出の元店員も、廃店舗に人の気配を感じたことがあったと、次のように証言する。
「今から15年以上前かなぁ。店を閉めてから誰か居ついていたらいけないからって、当時の常連さんと店舗の中を見に行ったことがあったんですよ。入り口の窓ガラスは割られていて、鍵が開いていてね。
トイレには大便がしたままになっていた。誰かがいたみたいな様子でしたけどね」
ラーメン店に頻繁に通っていたという近所の住民は、
「3〜4年前だけど、毎日、朝5時ごろに、うちの前を通って店舗の方向に歩いて行って姿を消す人がいたんだよ。コンビニの袋か何かに残飯なんかを入れて、髪もボサボサでガリガリにやせてね」
ここしばらく、そのホームレスの姿を目にしなくなっていたという。
ニュースで遺体の発見を知ったという地元自治会長は訴える。
「やっぱり空き家ってのはよろしくないですから、管理する人を見つけるなり、お店をやる人を見つけてもらうなりしてほしいですね。それも難しければ、やはり解体して更地にしてもらいたい」
遺体の身元が不明なら「行旅死亡人」
四半世紀も廃店舗だった物件は、周囲に生い茂る草木が目隠しになって、白骨遺体の男性が「住みついていたのでは」と捜査関係者は話す。
電気もなく、水道もなく、ガスがなくても、食料をどこかで調達できれば、ホームレスにとって廃屋は雨露をしのげる絶好のねぐらになる。
だが、たとえそこで具合が悪くなったとしても、助けを呼ぶことはできない。たったひとりで動けなくなった身体で最期を迎え、発見されたときには白骨化している……日本社会のまぎれもないひとつの側面を、孤独死体が訴える。
せめてもの救いは、その男性が、畳の上で最期の時を迎えていたということか。
9月29日現在、白骨遺体の身元について、捜査関係者は「現在も捜査中で、身元などについてはわかっていません」としている。
身元不明の場合は、市の官報と掲示板に「行旅死亡人」として掲示される。