「立場上、ある意味ではロボットになることも必要だが、それだけであってはいけない」
「憲法上、直接の警告、指導はできないが、人に会う機会が多いので、そのつど問題を質問形式で取り上げ、(問題点に)気づいてもらうよう努めています」
今から47年前、記者から「もう少し自分の意見を出したらどうか」という質問に、そう慎重に答えられた皇太子時代の陛下。
日本国憲法の第4条で、天皇は《国政に関する権能を有しない》と定められているとおりのご発言だったが、
「8月の『おことば』は、憲法や皇室典範に定められていない『生前退位』を望み、摂政の制度に否定的だったことから、“掟破り”の行為だったとも言われています」(皇室ジャーナリスト)
それだけ、陛下が国民や政府に訴えたい内容が切実で、苦渋に満ちたものだったということだが、
「今の流れのままですと、何らかの方法でもう1度、天皇陛下のお気持ちが表明されるのではないかと心配しています。
さらに、陛下のお気持ちが表明されるようなことになれば、皇室と内閣との関係がうまくいっていないことの証明になりますので、国民も心配するはずです」
と懸念を示すのは、宮内庁に23年間勤務した皇室ジャーナリストの山下晋司さん。
これまで常に自らの行動を律してきた陛下が、またも“意向”を示されることになれば、よほどのこと……。
9月26日に召集された臨時国会で、安倍晋三首相は、生前退位について「有識者会議」の設置を決めて、与野党を交えての議論を進める方針を示したが─。
「8月のお気持ち表明後の報道をみると、政府は今上陛下(現在の天皇)の退位に限定した特別措置法を制定する方向で進んでいるようです。
しかし、この特措法は憲法違反の可能性があるとも言われていますし、そもそも陛下のご意向に沿うものではないと思います」(山下さん)
陛下はおことばのなかで、「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」
と、ご自身のことだけではなく、象徴天皇制度の今後のことも望まれているように読み取ることもできる。
山下さんが続ける。
「制度の見直しは、『皇室典範』の大幅な改正が必要ですが、政府は“国の根幹に関わることなので”“時間がかかるので切り離して”と、正面から取り組む様子はみられません」
そもそも皇室の問題は、経済や外交のように、目に見える成果や数字の変化が出ないので、政府や政治家は手を出しにくい分野だと山下さん。
「今上陛下の退位のみの特措法を制定するにしても、退位に関連して必ず決めなければならないことが多くあります。
せめて政府には、いつまでに何を決めるというタイムスケジュールを出して、議論を進めてほしいと思います」(同)
そんな折、両陛下を4年以上支えていた宮内庁の風岡典之長官が、この時期に異例の勇退をすることに。
「今回の生前退位の問題に消極的だといわれる政府が、陛下のおことば発表を止められなかった長官に不満を持ち、“首を切った”とも一部ではささやかれています」(宮内庁担当記者)
陛下のお気持ちの理解者や支持者が周囲にいなくなれば、お支えする美智子さまの心労も募るばかりだろう。