『偏差値29でも東大に合格できた!「捨てる」記憶術』は、著者の杉山奈津子さんの実体験から生まれました。高三の秋に数学の模試で偏差値29だった杉山さんが、独学で東大に入った常識破りの方法とは、ずばり「捨てる」こと。

「記憶力が悪いから」ではなく「覚え方が悪いから」

『偏差値29でも東大に合格できた!「捨てる」記憶術』著者の杉山奈津子さん 撮影/森田晃博

「生まれてこの方、頭がよかったなんていう自覚は持ったことはありません。センター試験の日本史では、100点満点で21点を取ってしまいました。自分の記憶力の悪さにアキレましたね。

 でも、『頭が悪いから成績が悪い』『記憶力が悪いから覚えられない』、これは誤解です。成績が悪いのは頭が悪いからではなく、勉強の仕方が悪いから。覚えられないのは、覚え方が悪いんです。覚え方を変えれば多くのことを暗記できるようになるんです。

 私はツイッターで勉強法を書いていますが、そのとおりにやってみるけれども、勉強法の前に覚え方がうまくなくて前に進めない。そういう子が結構いたんですね。勉強法も必要ですけど、それより以前に、覚え方、暗記の仕方が大事です。勉強ってほとんど暗記ですから。受験にせよ資格試験にせよ同じです。

 ところが、多くの人の暗記の仕方というのが、点数の高いものも低いものも、出題頻度の高い問題も低い問題も焦って一気に覚えようとしている。そうではなくて大切なものから順番に詰めていく、いらないものは捨てていく。そういう取捨選択をできていない人が多いという印象を受けました。

 そこで、この本では捨てることを推奨しました。わりとみんな捨てたがらないんですよ。なので(勉強が)全然進まない。本当は捨てるからこそ、かえって早く覚えられるのに」

何回も繰り返す。最初は幹の部分だけ。いらないものは後回し

『偏差値29でも東大に合格できた!「捨てる」記憶術』(青春出版社) ※記事の中で画像をクリックするとamazonの紹介ページにジャンプします

 とはいえ、取捨選択ができずに、やたらと詰め込んでしまう人も多いはず。どうしたらいいんでしょうか。

「私が思うに、暗記のときって、いつも木を思い浮かべるんですよ。木があって、幹があって、枝があって、枝が分かれていて、葉っぱがあってって……。

 もちろん、幹の部分が大事なわけですよね。受験に出る確率が80%だったりする重要単語も決まっているじゃないですか。葉っぱが出る確率は、1%あるかないかとか、そういうものだったりするんです。

 にもかかわらず、教科書には幹と葉っぱが同じページに並列して並んでいる。なので一緒に覚えてしまうし、全部覚えないといけないように感じてしまう。あまり復習を前提としていませんね。一気にそこを覚えないといけないと考えている。1回その問題集をやったら見返さない感覚。

 私は1冊を何回も何回もやります。だから、いらないものは後でやればいいやとすごく取捨選択をするんですね。暗記のうまくない人っていうのは、完璧主義的なところがあるのではないでしょうか。重要度がまるで違うのに、すべて同じように覚えなければいけないと思ってしまっている。

 アバウト暗記というか、木の全体像を見ることが重要なんです。歴史なら原始人のいる時代から始まって現代までの全体の流れを見てから、どこが大事か見定める。そうすれば自分の現在の位置もわかるし、重要な単語も見えてくる。だけど最初の原始時代ばかりやっていたら時間配分もわからない」

日常生活でも同じ「洗濯したタオルはたたまない」

 限られた時間で最大の効果を上げるために「完璧主義」を捨て、優先順位の低いものをどんどん捨てる。杉山流暗記術は、日常生活でも生かせそうです。

「実は私は、洗濯したタオルはたたみません。箱にポイポイ入れてふたをしてしまうだけ(笑)。ブラウスやシャツもたたまないでそのままです。さすがに外に出るときにはアイロンをかけますが。言いたいのは、結果が同じなら、無駄を省いてラクなほうを選べばいいということ。

 それとうちでは服や下着、靴下を脱いだら裏返しのままです。親って、脱いだらちゃんと表に直しておきなさいとか言うじゃないですか。でも洗濯では裏返しにしておいたほうが生地が傷まなくて長持ちするそうですし。着るときは裏返しにした本人がそのときに直せばよいこと。外に出るためには、本人が表にせざるをえないわけですから、主婦の小言も減るというもの(笑)」

「いかにラクをしながら多くのことを覚えるか」を提唱する『「捨てる」記憶術』には、ほかにも常識破りの例が数多く登場します。東大受験にあたって、杉山さんが捨てたのは、「学校の授業」「予備校」「人の評価」。受験に無駄な学校の授業はサボり、予備校にも通わず、先生にどう思われてもいいと独学を貫きました。

何もしなかった人はモヤモヤを引きずる

「私は、人に迷惑をかけるものでなければ、世間体とか人からの評価は捨てていいものだと思っています。受験でも、先生の評価を気にして不合格になったら意味ないですから。

 人って、やらなかったことほど後に引きずるんですよ。例えば、大事なピアスをなくしたとします。心当たりのある場所に電話したり、引き返して確認した人は、きっぱりあきらめがつくんです。先に進める。

 でも、何もしなかった人はずっとモヤモヤを引きずるんですね。もしかしたらあったかもしれないと悔いが残る。勉強も、それと同じですよ。やるだけやったら、必ず受かるんです!」

<プロフィール>
すぎやま・なつこ 静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業。作家・イラストレーター・心理カウンセラー。高校では劣等生だったが「捨てる」勉強法を確立し東大に合格。大学卒業後は厚生労働省管轄医療財団を経て、現在は講演・執筆など医療の啓発活動に努める。『偏差値29の私が東大に合格した超独学勉強法』(角川SSC新書)など著書多数。