片岡愛之助と盛大な挙式をし、晴れて梨園の妻となった藤原紀香。愛之助のサポートを第一優先に、自分の仕事も続けると話したが、これには「梨園の妻としての資質がない」なんて声も上がっているそう。そもそも“梨園の妻”って、いったい何? どんな人がいるの? 一般社会とはちょっぴり異なる、“梨園”の世界を覗いてみると、妻たちの苦悩があった――
梨園の妻たち。左上から時計まわりに、三田寛子・小林麻央・扇千景・富司純子。扇は坂田藤十郎の不倫を一蹴。富司は女優に復帰している

 10月3日から東京・新橋演舞場で公演がスタートしたのは、先日、結婚式を終えたばかりの歌舞伎役者・片岡愛之助の主演舞台『十月花形歌舞伎 GOEMON』。

 初日から多くの人が観劇に訪れたが、舞台のほかにもお楽しみが。ラブリンの妻・藤原紀香の“梨園の妻”デビュー日でもあるからだ。

「開場直後は彼女のもとへ人が殺到して一時は大パニックに。ロビーでご贔屓筋や来場客の対応を行っていましたが、初日の感想を求められると、冒頭のように返し、梨園の妻に徹している様子でした」(スポーツ紙記者)

 梨園とは─。唐の玄宗皇帝が、宮中にある梨の庭園に子弟や宮女を集めて、舞踊や音楽を学ばせたということから転じて演劇界、特に今の日本では、歌舞伎界のことを指す言葉になっている。

「梨園とは、古いしきたりや格式を重んじるところ。一般の人の生活が洋式になってきた今の時代では、驚くような決まり事も少なくないと思いますし、梨園の妻がやるべきことは、実はたくさんあるんです」

 こう語るのは、芸能レポーターの石川敏男さん。紀香と愛之助の結婚には当初、一部で批判の声が上がっていたのも、これが原因だった。

「紀香さんが3月に行われた結婚会見の際“仕事は続けるけれど、いちばん大事なのは夫の仕事。芸能活動は許される範囲で頑張りたい”とおっしゃいましたが、それを“片手間でやろうとしているのか”と、よく思わない人がいることも確か。

 歴代のお嫁さんたちはみなさん、1度、芸能活動を引退したり、セーブしたりしています」(前出・石川さん、以下同)

四代目坂田藤十郎の妻である扇千景は、結婚のために宝塚歌劇団を引退し、芸能活動から一時、離れている。

 紀香にとって梨園の妻の大先輩にあたる、四代目坂田藤十郎の妻である扇千景は、結婚のために宝塚歌劇団を引退し、芸能活動から一時、離れている。

 同じく、七代目尾上菊五郎の妻である富司純子も結婚とともに引退。それは“梨園の妻”としての務めが、簡単なものではないからなのだ。

「まず大事にしなくてはならないのは、ご贔屓さんとのお付き合いです。歌舞伎も巡業がありますから、日本全国にいるお客さまを覚えなくてはなりません。

 並の記憶力では、顔と名前を覚えるのもつらいでしょうね。同じ話を何度もしないよう、会話にも気を配らなければなりませんし」

 会話の糸口になる言葉を探すためには、ご贔屓さんの好みそうな場所や食べ物、歌舞伎の題目の話だけではなく、二十四節気や七十二候などの季節を表す言葉を押さえたり、新聞を読んで時事ネタを叩き込むなど、いくらあっても時間が足りない。

「会話だけでなく、お礼状やお誘いのお手紙なども、役者さんではなくて奥さんが用意しますから、手紙の書き方なども常識として身につけていなければなりません。便箋や切手の選び方など、相手が気づかないようなこまやかな配慮も大事なのです」

 贔屓筋があってこそ、夫が立てる舞台があるのだ。その夫が不始末を起こすことだってある。9月に発覚した中村橋之助(現・芝翫)の不倫騒動では、妻の三田寛子の会見が話題になった。

橋之助(現・芝翫)の不倫報道に毅然と対応した三田寛子。そのかいもあり襲名公演は超満員!

「芝翫襲名直前の大事な時期に起こった騒動ということで、彼女にとっては試練だったでしょう。女性としては思うところもあるでしょうが、公の場では彼女は叱責しませんでした。夫を立ててご贔屓筋への謝罪をしたうえで、厳しい目で見守るという“梨園の妻”としての役目をキッチリこなしたのです」

 歌舞伎役者の色恋は過去にもあり、扇千景は、「女にモテない男なんてつまらない」と語り、騒動を一蹴。

 恋多き男として数々の浮名を流した故・中村勘三郎さんの妻・好江さんも、「浮気はダメ、浮体はいい」という勘三郎さんの言葉を「それは素晴らしい」と容認していたという。

「女遊びは芸の肥やしというのは、演じるうえでの色気を身につけるのが必要ということ。女形であれば、色恋から所作を学ぶこともあります。

 紀香さんは陣内さんとの離婚理由で、彼の浮気が耐えられなかったという報道もありましたから、“愛之助に色恋が出たときに耐えられるのか”という疑問の声もあります」

 とはいえ、会見では紀香も色恋については容認するような発言をしていた。

 大人の年齢のふたりだからこそ、そんな試練があっても乗り越えられるということだろう。このように、梨園の妻は陰ながらではあるが、力強く夫を支えなくてはならない。

「役者が芸の道だけを考えて動くことができるよう、妻がその他の雑務をこなし、夫を立てなくてはなりません。ただ、芸能人が梨園の妻になるということだけでも、これまでのイメージがあるぶん目立ってしまうんです」

 小林麻央も、市川海老蔵に嫁いだ当初は多くの洗礼を受けた。

海老蔵の母に習いながら、梨園妻の心得を徐々に身につけた小林麻央。評価も上がった

「舞台の際にロビーでの挨拶で青い着物を着ていたら“ドラえもん”呼ばわりされたなんて報道もありました。麻央さんも結婚後、ニュースキャスターをしばらく続けていたため、一部ではひんしゅくを買っていたのでしょう」

 しかし、麻央は仕事をセーブし、海老蔵の母である希実子さんにしきたりなどを教わりながら、メキメキと梨園の妻としての頭角を現した。

「女優やタレントというプライドを捨てて、自分は裏方に徹するということは、簡単なことではないと思います。ただ、その覚悟がなければ、頭を下げて人に教えを請うことはできません。麻央さんは着物のセンスもよく、いつも控えめに海老蔵さんを支えており、評判も上がりました」

 世継ぎを産むことも、梨園の妻が背負わなければならない仕事のひとつ。

「中村勘九郎さんの妻の前田愛さんは、ふたりのお世継ぎを出産しています。子どもに日本舞踊や歌舞伎のお稽古もつけなくてはなりませんので、今がいちばん梨園の妻として忙しい時期でしょう」

 このように多くの仕事をこなしても、いつも謙虚でこまやかな気遣いができなくてはならない。紀香は、そんな梨園の妻の中で、いちばん後輩になる。女優の仕事も続けると宣言した以上、どちらもおろそかにしない覚悟を決めているのだろう。

「紀香さんは時間さえあれば、大阪の愛之助さんの義母のもとに通い、梨園妻修業をしているそうです」(前出・スポーツ紙記者)

 梨園の妻と女優というふたつの矜持を、紀香は示してくれるに違いない。