「今季は、平昌五輪のプレシーズンとして、各選手は、何をやっておくのかを考えるのが大事になります。新しい持ち味を見せたり、今後の方向性を示唆したり、いろんなことに取り組んでいくことが必要になります」
こう語るのは、『羽生結弦 王者のメソッド』の著者でスポーツライターの野口美惠さん。
10月21日に開幕するグランプリシリーズアメリカ大会から、フィギュアスケートの本格的なシーズンが始まる。来年3月の世界選手権まで続く氷上の戦いで、前半戦となるのが世界6か国で開催されるグランプリ(GP)シリーズで、12月に行われるGPファイナルを目指す。
王子様キャラとは違う喜怒哀楽を表現するシーズン
GPファイナル男子4連覇がかかる羽生結弦は、左足甲に全治2か月のケガを負ったが、今季初戦のカナダでのオータムクラシックインターナショナルで、世界初の4回転ループを成功させ、優勝した。
「ケガ明けで、新しいジャンプを成功させているのはすごいことで、普通はできないことです。守りに入らない彼の意志や強気さを感じて、今後の進化を暗示する内容だったと思います」(野口さん、以下同)
ショートプログラム(SP)はプリンス、フリースケーティング(FS)は久石譲の曲を使用した演技にも新しい試みを感じるという。
「日本人選手は欧米選手と比べるとシャイなのでバリバリのロックは避けがちでした。センスやリズム感が問われるし、本人にもエンターテイメント性がないと表現するのが難しい。『オペラ座の怪人』や『ロミオとジュリエット』といったドラマチックな曲が得意な羽生選手が、ロックや久石さんのインストゥルメンタルな曲に挑戦することで、かわいい王子様キャラのイメージとは違う喜怒哀楽を表現するシーズンだと思います」
羽生の背中を追う宇野昌磨、300点超えへ
羽生の背中を追うのが、宇野昌磨。シニアデビューした昨年のGPでは、アメリカ大会2位、フランス大会優勝、ファイナルで銅メダルに輝き一躍、注目の的に。今季は、ロンバルディア杯優勝、昨季のチームチャレンジカップで、公式戦初の4回転フリップジャンプを成功させ、ギネス記録に認定された。
「いちばん成長が期待されている選手です。去年、いい成績を残していますが、今年が間違いなくブレイクイヤーになり羽生選手、ハビエル・フェルナンデス(世界選手権覇者)という世界トップ2を脅かす筆頭にいます。
プログラムには、4回転ジャンプをショート、フリー合わせて5本入れて、先輩2人と同じ本数。ジャパン・オープンでは、演技構成点が5つの要素のうち9点台が4つもあって高評価。あとはジャンプの出来次第によって、フリーでの200点超えはいつでもできるし、ショート、フリーと合わせて300点超えも現実的な得点だと思います。
今シーズンは、トップスケーターとしての期待やプレッシャーを受けながらも、自分の滑りと演技ができるかが問われています」
330・43点の世界記録をマークした絶対王者・羽生と、次代のエース・宇野との今季初の直接対決は、GPファイナル、もしくは全日本選手権になる。
世界選手権“3枠目”の座を狙うのは
GPシリーズには、男子では、無良崇人、昨年GPファイナルに初出場した村上大介、田中刑事、シニアデビューの山本草太も出場する。
「無良選手は高さと迫力あるジャンプが得意ですが、年齢的なこともあって、今シーズンはジャンプの改造に取り組んでいます。これまでの力強いだけではない、体力を分散できる効率のいいジャンプを跳ぶようにして、動きも柔らかくなり、大人の熟練した滑りになっていると思います。
村上選手は、バネ感のある動きや、氷に吸いつくような滑りが持ち味。2シーズン前からは、4回転サルコウジャンプが試合で決まるようになり、今季はステップアップするためにも、4回転の種類を増やしてくるでしょう。
田中選手は、去年シニア1年目で、安定した成績(NHK杯5位、全日本選手権4位)を残して、成長したシーズン。今季は、2本にした4回転ジャンプを必ず成功させて、ワンランク上のファイナル、さらには、世界選手権に出場できる3枠目の座を狙ってほしい。
山本選手は“羽生2世”とも言われる軸の細いきれいなジャンプを跳び、ミスしても空中で体勢を修正して着氷できるセンスが卓越しています。ケガ(3月に右足くるぶし骨折)が心配ですが、焦らずに、2試合(フランス大会、NHK杯)に落ち着いて臨んでもらいたいです」