10月21日に開幕するグランプリシリーズアメリカ大会から、フィギュアスケートの本格的なシーズンが始まる。来年3月の世界選手権まで続く氷上の戦いで、前半戦となるのが世界6か国で開催されるグランプリ(GP)シリーズで、12月に行われるGPファイナルを目指す。

 

“フィギュアスケート道”を追求する浅田真央

 平昌五輪出場を目指す浅田真央は、今季初戦のフィンランディア杯で2位に。代名詞のトリプルアクセル(3A)ジャンプは回避した。『羽生結弦 王者のメソッド』の著者でスポーツライターの野口美惠さんはこう語る。

「来年3月の世界選手権まで長いシーズンを戦うなかで、難しい技は後半戦にならないと決まらないことが多い。初戦から3Aが入らないことに問題はありません。むしろ、初戦にしてはジャンプも落ち着いて跳んでいたし、表現力は去年にも増して素晴らしかったです」

 SP、FSとも同じ楽曲『リチュアルダンス』を使い、浅田と長年親交のあるローリー・ニコルが振り付けた。

「凝っているプログラムで、ジャンプとジャンプの間のつなぎにも細かい振り付けが詰め込まれ、大人っぽさを引き出すような踊りで、若手選手との違いを感じます。スケーティングもひとつひとつのターンが正確で、ごまかしている動きがない。ソチ五輪後は、勝つためというよりも、自身の“フィギュアスケート道”を追求している気がします。

 フィンランディア杯では、ジャンプに左右されずに186点をマークし、表彰台に立てることがわかった。シーズン後半になれば、さらに点数が伸びる可能性は高いですから期待したいと思います」(野口さん、以下同)

 浅田は、GP初戦のアメリカ大会とフランス大会に出場するが、左足膝痛を抱えていることが明らかになり、唯一の懸念材料といえそうだ。

宮原知子(18)浅田真央(26)[写真:アフロスポーツ]

宮原知子の魅力は「ジワジワと伝わってくる味わい深さ」

 全日本選手権を連覇した女王・宮原知子は、安定感がいちばんの魅力という。

「彼女のよさは、演技を落ち着いて見られること。絵画にたとえるなら、保存状態のいい絵を安心して鑑賞できる。

 彼女の堅実な性格が、そのまま演技にも表れていて、派手ではないけど、ジワジワと伝わってくる味わい深さが魅力。練習してきたことが、試合で出るかどうかを大事にしている選手です。今シーズンは、来年の五輪シーズンに向けて、自分の得手不得手などいろんなことを見極めることが大事になります」

 “ミス・パーフェクト”“練習の虫”とも言われる宮原は、浜田美栄コーチに師事する。浜田コーチのもとでは、ジュニア世界女王の本田真凜や白岩優奈といった成長著しい選手が目立つ。

「宮原選手の練習量の多さと結果を残している姿は、チームの選手にやる気を起こさせた。最大の功績のひとつだと思います」

左から樋口新葉(15)永井優香(17)村上佳菜子(21)本郷理華(20)本田真凜(15)紀平梨花(14)[写真:アフロスポーツ]

世界に“すごい選手がいる”とアピールを

 その他の女子では、本郷理華、村上佳菜子、永井優香、シニア1年目の樋口新葉が出場する。

「本郷さんは、ショートもフリーも強いダイナミックな曲で、彼女の高身長や手脚の長さが生かされているプログラム。日本だけでなく、世界でファイナルの常連になれるように頑張ってほしいです。

 佳菜ちゃんは、表現が女性らしくなり、身体のキレがよくなっている。将来、指導者を目指していることもあって、いろんなことを試して、模索していると思います。

 永井さんは去年、シニア初戦で表彰台(カナダ大会3位)に上がりましたが、その後が続かずに苦しんだと思います。今年は、大人の滑りを目標にしているので、安定した成績が出せれば、ひとつ上のランクになれます。

 新葉ちゃんは、スピード感とパワーがあって、見ていて気持ちいいです。滑る能力が高く、最後までスピードも落ちない。フリーは、勢いのよさが生きるプログラムなので、質の高いジャンプを躊躇せずにどんどん跳んで、世界に“すごい選手がいる”とアピールしてもらいたいです」

ジュニアで注目の2人は?

 最後に、12月のジュニアGPファイナル出場が決まった本田と、女子では7人目の3Aジャンパー、紀平梨花について聞いた。

「本田さんは去年、タイトルをとったことで今シーズンは(ジュニアGPで)ジャンプの失敗があったりして、苦戦を経験した。でもジャンプを修正するための余地も余裕もあり、大きな試合での勝負強さもあって、今シーズンも伸びると思います。

 紀平さんは14歳とは思えない身体で体幹がしっかりしている。伊藤みどりさんを彷彿とさせる、前に跳び出していくような大きな放物線を描く3Aを、今シーズンだけでなく、来シーズンも跳べるようになってもらいたいです」