増えている働くお母さん
筆者は女性誌の編集者として、20年近く“働く女性”を取材し続けてきた。ここ数年の変化として顕著に感じるのは、稼ぐ女(妻)は不倫するということ。既婚者の恋愛は、かつてはタブーだった。しかし、女性が経済的に自立し男女の立場が同じになり、東日本大震災で“自分の人生をやりたいように生きる”と考える人が増えた。そんな背景もあり、恋愛する既婚女性が増えていることを感じ、彼女たちの背景を取材したのが、『不倫女子のリアル』(小学館新書)だ。取材を通して感じたのは、不倫するのは美男美女だと思い込んでいたがそうではないこと。容姿が多少劣っていようとも、子どもがいようとも変わらない。経済力があれば、子どもをベビーシッターに預けて恋愛に興じる時間を確保できるからだ。
当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です


取材対象者 松本桃子さん(仮名、40歳)
年収:500万円
夫の職業:柔道整復師(42歳)
最終学歴:有名女子大学
容姿レベルと体型:身長170センチ標準体型
好きなブランド:PLST、ZARA
結婚年数と子どもの数:13年 10歳の息子、7歳の娘
経験人数(婚前/結婚後):5人/5人

 松本桃子さん(40歳)は、大手外資系保険会社の正社員だ。営業から企画職を経て、今はコーチングを行っている。大柄で華やか、“おばさん”と彼女を表現する人もいるだろうが、そういう中傷的な意味合いを含む表現も温かく包み込むような女性だ。彼女の話を聞いていると、本当にモテる。20代~50代の男性が、彼女に欲情しているのだ。

「ある種の男は、自分より尊敬できる女性には、性的に興奮しないのよ。私はちょっと“欲求不満そうなオバサンだな”と、何段も下に見られるような演出ができるから誘いが来るんだと思う。そう思ったのは、夫以外の男性と恋愛関係になって、最初のドキドキが抜けたあたりから」

 桃子さんの持論は、夫は自分の子どもを産み育てている妻を尊敬する。尊敬する相手に対して男の多くは欲情しない。だから尊敬する妻とはレスになる。

「でも、30歳くらいで結婚して、80歳で死ぬまでの50年間、“夫だけを愛している”とか“SEXしたのは妻だけ”という人はどうなのかな? あまりにも教科書的だと思うんですよ。一生ある人を思い続ける人生は理想かもしれないけれど、それはほとんどの人ができないから、理想とされているんだと思いますよ」

 桃子さんの同期には典型的な良妻賢母がいる。毎日の食事、教育など子育てを完璧に行ない、総合職として勤務しながら2人の娘を私立の名門小学校に入学させた。

 ヨガやグリーンスムージーで外見を若々しく美しく保ち、官公庁に勤務する夫がおり、20代で港区にマンションを購入。その後、品川区と目黒区に投資用のマンションを2つ所有しているという。

「彼女を見ていると、スペック的には幸せだけれど、どうなのかな~と思う。憧れられているし、尊敬されているし、フラワーアレンジメント、ヨガ、歌舞伎、着付け、茶道などもやっているけれど、あまりにもファッション雑誌が推奨する人生みたいで……(笑)。少なくとも私には幸せだと思えません」

 それは、同期の良妻賢母が人を支配するような行動に出ていることから感じたという。

「たとえば、部の飲み会があったとき、私は親や夫をアテンドして、たまには終電まで飲もうと思って参加すると、彼女が“私たちママチームは21時で帰りましょ”と誘ってくる。

 私が断って飲んでいると“子どもが待っているんだから帰ってあげようよ”と追い打ちをかける。また、子どものよだれが付いた服に気がつかず出勤すると“ワーキングママがくたびれた格好をしていては、下の世代から憧れてもらえない”とか……私からすると、大きなお世話。

 たぶん、不倫を嫌悪し、パートナー以外と恋愛している人を糾弾するのは、彼女のような人だと思うんですよ。きっと、世間から見られる自分を演出するあまり、自分が満たされていないから、他人のことを支配したり責めたりするのだと感じます」

結婚8年目に初めて……

 そんな桃子さんが最初に、夫以外の男性と関係を持ったのは、結婚8年目のことだった。

「きっかけは、東日本大震災。それまでは私も、結婚したら別の男性と恋愛することに対するタブー感がありました。でもあの震災で、人間の命も、日常生活もカンタンに吹き飛んでしまうと思ったんです。それなら、自分がすべきことは最低限行って、それ以外は後悔がないように自由に生きようと思いました」

 以降、桃子さんは勝手気ままに、自由に生きるべく、外見から変えていく。“ママだから子育て優先”と諦めていたネイルサロンやまつ毛エクステに時間を確保。

 毎月1回は好きな映画を見て、3カ月に1回は観劇をする。コンパクトなピアノを購入し、レッスンも再開した。それと並行して、息子のサッカー当番、学校の役員も行う。以前と違い、ゆとりをもって参加していると、毎日が幸せになり、人を魅了する。

 そこで、あるインストラクターが彼女に好意を持ち接近してきた。それが最初の浮気相手になる。

「彼は当時28歳で、私よりも7歳年下でした。息子のサッカーチームにときどき教えに来てくれる人で、可もなく不可もない顔立ち。地方の国立大学出身で、そこのチームのキャプテンをやっていたそうです。

 本業が私と同じ保険業界だったので、練習の合間に雑談するうちに、“今度飲みに行きましょう”という展開になりました」

 飲みには彼から誘ってきたというが、誘わせたのは桃子さんだ。

「すごい二の腕ね、と触ったり、笑顔がかわいいとホメたりしていました。あとは、サッカーについて、相手が熱く語るのをひたすら聞いていましたね。

 決め手となったのは、私のボディタッチでしょうね。意図的に二の腕をギュッと握ったり、肩を触ったりしていました。練習後のミーティングのときなどに、気がつけば近くにいるように。そんな彼が飲みに誘ってきたので、それに乗ることにしました」 

 飲み会は震災から8カ月経った11月の土曜日だった。30歳手前で女性経験が少ない彼と恋愛関係になることは、赤子の手をひねるように簡単だったという。

 桃子さんは17時に東京・上野のチェーンのダイニング風の居酒屋を予約。彼がオゴれる程度の客単価のお店をあえて選んだ。2軒目はワインバーに行き、こちらは桃子さんもち。そのまま湯島のホテルに行った。

それにつけても、35歳の2児の母に28歳の独身サッカー男子が恋愛感情を持つのは、レディースコミックの世界だけだと思っていた。

 現実にそんなことが起こるのだろうかと勘ぐってしまうのは、モテない女のやっかみだろうか。そこで当日、桃子さんがどのようなファッションで行ったのかを、詳しく聞いてみた。

ブラジャーはチェリーピンクの“見せブラ”

『不倫女子のリアル』(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

「やはり、ちょっと相手が私のことをバカにできる、わかりやす~いモテファッションで行きましたよ。もともと、私もそういう甘めの服が好き。

 当日は、胸元が開いた白のフワフワのニットに、紺のタイトスカート。ブラジャーはわかりやすくチェリーピンクの“見せブラ”にしました。自分でもやりすぎだろうと思ったけれど、そのくらい視覚的な刺激がないと、男は……特に今の20代の草食男子は誘ってこないと思いました」

 恋愛やデートに個性と知性は禁物。そう割り切れるようになったのは、「私が既婚者だからでしょう」と自己分析する。独身女性は賢く思われたいし、身持ちが固いこともアピールしたい。

 でも、それは結婚のため。不倫の場合は堂々とモテファッションを楽しみ、バカになれる。でも、“バカで男好きだと思われてもいい”と言い切れるのは、既婚者の余裕と自信が大きいのだろう。


沢木文(さわき・あや)◎Writer&Editor 1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。