「学生時代に目指していたアナウンサーに、たまたま運よくなれちゃった。男前でもないのに、(テレビ画面に)顔出しできる。そのためにどうすればいいかを考え、欲望全開でした。29歳で局アナからフリーになりましたが、一寸先は闇。
保証がないですから、売れたいと思いましたし、僕のしゃべりを評価してもらいたい、面白いと言われたい。30代、40代になっても欲深くてギラギラしていました。
60歳を越えて“少しは枯れました”と、カッコよく言いたいけど、ずーっと変わっていない。ギラギラしていないと、コトンと倒れて死んじゃう。走り続けていないといけないんじゃないかと思っています」
フリーアナウンサーの古舘伊知郎は、こう振り返る。
古舘は、立教大学卒業後、'77年にテレビ朝日のアナウンサーとして入社。“古舘節”とも言われるプロレス中継の実況で人気を博し、'84年に退社し、フリーに。『夜のヒットスタジオDELUXE』、『F1グランプリ』(フジテレビ系)、『オシャレ30・30』(日本テレビ系)、『アッコにおまかせ!』(TBS系)など人気番組にレギュラー出演し、'96年には『NHK紅白歌合戦』の白組司会者に、民放出身のアナウンサーとして初めて選ばれた。
2004年からは、古巣のテレ朝で『報道ステーション』のメインキャスターを務めたが、今年3月末に降板した。12年間の報道キャスターについては、
「苦労したこと、学んだこと、やり切れないで終わった悔しさも含めて、僕のすべてを構成しています」
去就が注目されていたが、11月6日にスタートする2時間枠の大型新番組『フルタチさん』(フジ系毎週日曜夜7時)と、11月8日スタートの深夜番組『トーキングフルーツ』(同局毎週火曜深夜0時25分)で、8か月ぶりにレギュラー復帰することになった。
『フルタチさん』は、日常の謎や些細な疑問など“ひっかかる”をテーマにしたバラエティー。
そこで、女性週刊誌にあまり登場する機会がない古舘に、「週刊女性」について“ひっかかる”ことを聞いてみた。
「週刊女性さんに限らず、女性週刊誌の(電車の)広告には、ジャニーズやアイドルの見出しが太鼓橋のようにかかり、対角線にはベテランや人気の役者の名前、さらには不倫といった文字があって、混沌としていますよね。
“人間水族館”“人間もんじゃ”と言っていいくらい、ぐちゃぐちゃした世界が垣間見られて、ひきつけられます。ピンクやオレンジを多用した、表紙の色やデザインも、ひっかかるポイントです。
スポーツアナになりたてのころ、先輩に六本木交差点に連れて行かれて、実況をさせられました。状況描写をしゃべっているだけでは、ダメ出しされるんです。
色、匂い、音といった人間の五感をフルに使った実況でなくてはいけないんです。そういう五感が、女性週刊誌にはあると思うし、ひきつけられるところじゃないでしょうか」
日曜のゴールデンタイム(夜7時〜10時)は、NHK大河ドラマや、『ザ!鉄腕!DASH!!』、『世界の果てまでイッテQ!』(日テレ系)といった人気の高視聴率番組が並び、ここ数年、フジは苦戦を強いられてきた。
そうした状況を打破する役回りが期待されているが、「厳しい船出」と古舘。
「日曜夜の激戦区を任せていただき、ありがたいやら、怖いやら。番組のスタートが近づくにつれて、12月、いや、来春からでもいいのではと、せこい考えも浮かびます。
でも、そこで数字(視聴率)がちょっと上がったら、それだけで大躍進と言われるかもしれないし……(笑)。
開き直るような、怖いような、覚悟を決めたような、いろんな思いがないまぜになっている心境です。
視聴率でいえば、大変な苦役列車に乗ったと思います。では、なぜ乗ったのか? と問われれば、大した覚悟があったわけではなく、ほろ酔い気分の駆け込み乗車。乗ってから気づく(笑)。でも頑張ろうと思っています」
各局から番組オファーがあるなかで、フジを選んだ理由については、こう語る。
「局アナからフリーになったときに、初めてのレギュラー番組が『笑っていいとも!』で、恩義を感じていました。今回もいちばん最初に声をかけていただき、うれしかったからです」
冠番組に加えて、深夜番組も始めることには、インタビュー時に報じられた“トヨタとスズキ提携”のニュースを引用して話し、前職の顔ものぞく。
「自動車業界も再編の時代。多メディアの時代、番組も連動していかないとダメなんです。深夜は研究所。必要以上に視聴率を気にする必要もないので、いろいろと実験できるし、またスペシャリストを呼んで、いろんなことを掘り下げることができる。
それがゴールデンにつながっていけば。とは言いつつも、ゴールデンだけでは不安だったので、自賠責保険ですね(笑)」
新番組では、実況アナでも報道キャスターでもない、中庸の精神で臨むという。
「日曜夜のほのぼのとした雰囲気を出すために、『サザエさん』(日曜夜6時半)の放送が終わってつながるように『フルタチさん』というタイトルにしたいと言われて決まったけど、ちょっと意味不明でしょ。『トコブシさん』なら『サザエさん』つながりでわかる。僕は『かたよらない健全な番組』がよかった(笑)。
チャレンジはするけれど、無謀な自爆テロみたいなことはしません。いろいろバランスをとりながら、ブレはいけないけど、揺らぎに揺らいで七転八倒している番組を見てもらえたら」
バラエティー番組の司会を久しぶりに再開するにあたっては、中居正広に触発された。
「不倫騒動のベッキーが囲炉裏端で話した中居君の司会は、最高だと思いました。囲炉裏端で2人きりで話す前から中居君の言動には、入念な準備があった。
騒動前後の情報を準備するのではなく、ベッキーの心を和ませ、素にさせ、さらに言えば、泣く準備をさせてあげていたと思う。インタビューするときは準備がすべてだけど、中居君のような芸当は僕にはできないところ。
中居君のような若い司会者に学びながら、毎日が他流試合だと思っています。
昔の感覚で偉そうにものを言うのではなく、“古舘、ちょっと変わったね。ただ、うるさいだけで、また同じことをやるのかと思ったら、違った味が出ているね”と、言われないといけないし、それを目指しています」
アナウンサー人生も40年、硬軟の番組で経験と実績を積んだ“不惑のしゃべり”は、注目されそうだ。