高橋一生 撮影/伊藤和幸

 今やドラマ、映画に欠かせない存在になった高橋一生。作品ごとに大きく印象を変えることから、“カメレオン俳優”と呼ばれることも多い。しかし、本人は役づくりの意識はないという。

「どんな役をやらせてもらっても、どれも自分の側面だと思っているんです。髪の毛を染めたり、体重を減らしたりといった肉体的な負荷をかけないといけないときはありますが」

 今年放送された月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)で演じた、主人公が働く運送会社の元・上司役のビフォーアフター姿も話題になったが、舞台裏ではこんなエピソードが。

「第1章から第2章では5年の年月が経過している設定だったので、金髪姿から黒髪姿になるまでに体重を8キロ落としているんです。1週間ちょっとしか時間がなかったんですけど、ひたすら趣味の自転車で走ったり、運動をしてみたら体重をコントロールできました。その変化は見ている人に気づかれなくてもいいんです。僕自身が納得するポイントを探すためにやっているだけなので」

 どんな役もサラリと演じてしまうが、こう謙遜する。

「演じている役が全然違うって言ってもらえるのですが、それは僕自身が前面に出ていないから。知名度もそんなにないし、そのバランスがちょうどいいんだと思うんです。ただ密度の高い役にキャスティングしてもらうには、認知度も必要になってくる。でも俳優ってある程度、素性の曖昧さも持っていないといけないと思うので、僕自身は役の影に隠れていたいんです。そんな矛盾といつも向き合っています」

 '90年に子役としてデビュー。1度、芸能界から離れたものの、14歳のときジブリアニメ『耳をすませば』の声優オーディションに合格したことで、本格的に俳優業をスタートさせる。

脚本家・坂元裕二との出会いが転機に

高橋一生 撮影/伊藤和幸

「『耳をすませば』がキッカケで俳優を続けられたらいいなと思うようになりました。声だけでの表現だったので、肉体を使って表現をしたいなって思って、今の事務所に入りました」

 '00年放送のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)で演じた引きこもり役でインパクトを与えたが、その印象が強かったためか、似たような役が舞い込む時期が続いた。

「そういう印象をつけてしまったんでしょうね。それでしばらく、先に進まなかったんだと思います」

 そんな彼の転機となったのは、'14年に放送されたドラマ『Woman』(日本テレビ系)で演じたクールに見えて情に厚い、主人公の担当医役。

「別のキャラクターもできるんだと認知してもらえたのは、大きいと思います。脚本家の坂元裕二さんが、それまでの僕のイメージではない役を書いてくださって。この役に出会っていなければ、おじさんになっても悩んでいるような、ハムレットのようになっていたんじゃないですかね(笑)」

 坂元裕二脚本のドラマ『モザイクジャパン』(WOWOW)では変わり者のアダルトメーカー社長役を怪演。R-15作品で、過激なシーンも。

「どんな役を演じるときも、躊躇することはありません。自分の中で線引きを行っていないので、お話をいただいたら前向きに考えさせてもらいます。坂元さんはいろんな役を振ってくれるので、本当にありがたいです」

 ちなみに『いつ恋』も坂元脚本。そして昨年放送された『民王』(テレビ朝日系)で演じたドSながらどこか憎めない秘書・貝原茂平役が話題になり、女性ファンが急増中。

「最近、取材でそう言っていただくことが増えたんですが、インタビュアーの方が便宜上おっしゃっているだけなのかと(笑)。でも『民王』がキッカケで、たくさんの人に興味を持っていただけるようになったとは感じています。ある人に“『民王』以前、以降”と言われました(笑)」

新ドラマでは不動産の社員を演じる

高橋一生 撮影/伊藤和幸
 そんな『民王』の貝原をヒントに漫画家の池辺葵が描いたのが、『プリンセスメゾン』の伊達政一。ドラマ化にあたり、高橋が演じることになった。

「池辺さんがヒントにしたキャラクターなら、貝原っぽい演技を提供すべきだし、かといって同じモノを演じるつもりはありません。なので、どれだけ差異を出せるかは意識していました」

 伊達を演じるうえで心がけているのが、その立ち姿。

「ちょっと猫背でいることを意識しました。そういうところから感化されるものはたくさんあって、タバコの持ち方を変えるだけでも、いつもと違うエフェクトがかかるんです」

 26歳で独身、携帯電話すら持たない質素な暮らしをする居酒屋勤務のヒロイン・沼越幸(森川葵)がマンションを買うという無謀にも思える目標に向かって頑張る姿を描いた今作。自身も家の購入には興味があるそうだ。

「欲しいけど、都内に買うべきか悩んでいて。結婚もまったく考えていないし、山登りが好きなので、ログハウスでも建てたいなと」

 その厳しい言葉とは裏腹に、ヒロインをどこか温かく見守る大手不動産の社員を演じる高橋から、最後にこんなメッセージが。

「見ている方が沼越さまだと思って演じています。このドラマを見て、こんなに他人のことを思いやってくれる人に出会いたいな、世界は優しいと信じてもらえたらうれしいです」

 そう言ってニコッと微笑んだ。この秋、女性ファンがさらに増えそうだ。

■『プリンセスメゾン』プロデューサー・出水有三さんが語る高橋一生

(c)NHK

「制作会社スタッフに高橋さんの名前をあげてもらって、今回演じる伊達のキャラクターにはピッタリだと思いました。打ち合わせのときのようなオフの姿のたたずまいも伊達っぽいなと思いました。

 高橋さんの役者としての魅力は、ちょっとした動きでいろんなことを表現できるところ。オーバーアクションでなくても、これだけいろいろ演じ分けできるのはさすがだなと思います」

プリンセスメゾン(NHK BSプレミアム)
毎週火曜、夜11時15分〜(全8回)

『週刊女性』の秘蔵写真も! 高橋一生ヒストリー

■映画『耳をすませば』
1995年7月公開。ヒロインが思いを寄せる天沢聖司役を担当。「この作品を録り終わって1週間後に変声期を迎えました。録っているときからのどが痛かったです」

■2005年から2015年まで

<写真左>舞台『歩兵の本領』2005年1月21日〜2月6日 <写真中央>ドラマ『ゴンゾウ 伝説の刑事』2008年7〜9月 <写真右>ドラマ『夜のせんせい』2014年1〜3月

<写真左>舞台『歩兵の本領』2005年1月21日〜2月6日、東京・紀伊國屋サザンシアターで上演。大学受験に失敗して自衛隊に入った佐々木役。
<写真中央>ドラマ『ゴンゾウ 伝説の刑事』2008年7〜9月、テレビ朝日系。刑事課の巡査・日比野勇司役を演じた高橋を「週刊女性」がインタビューした際の1枚。
<写真右>ドラマ『夜のせんせい』2014年1〜3月、TBS系。俳優を目指していたが、金を持ち逃げされたことで多額の借金を負ったため、ホストになった山田一郎役。

<写真左>ドラマ『軍師官兵衛』2014年 <写真中央>ドラマ『だから荒野』2015年1〜3月 <写真右>ドラマ『民王』2015年7〜9月

<写真左>ドラマ『軍師官兵衛』2014年に放送されたNHKの大河ドラマでは、黒田官兵衛に寄り添う側近・井上九郎右衛門役を演じて話題に。主演の岡田准一とは高校時代の同級生。現在も趣味の山登りを一緒にするほどの仲だ。
<写真中央>ドラマ『だから荒野』2015年1〜3月、NHK BSプレミアム。鈴木京香演じる家を飛び出した主人公が、道中で出会う謎の青年・亀田章吾役を好演。
<写真右>ドラマ『民王』2015年7〜9月、テレビ朝日系で放送。遠藤憲一演じる総理の秘書・貝原茂平役。無表情で毒舌ながら、どこか憎めない姿に萌える女性が急増。コンフィデンスアワード・ドラマ賞などの助演男優賞を受賞。またスピンオフ作品では主人公に抜擢されるなど、人気を博した。

■Webドラマ『民王番外編 秘書貝原と6人の怪しい客』
2016年4月からビデオパス、テレ朝動画で配信スタート。『民王 スピンオフBOOK【貝原編】』も出版され、サイン本のお渡し会も行われた。「自分の中で納得して楽しんでいることを、お客さんに評価してもらえることほどありがたいことはないです」

■映画『シン・ゴジラ』
大ヒット上映中。脚本・総監督:庵野秀明。出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみほか。巨災対メンバーの安田龍彦役。「反響があったようで、発声上映会にも急きょ呼んでいただきました。話題にしてもらえるのは、単純に作品が素晴らしいから。役得です」