「別に何もしなくても、ただニオイを嗅いでいるだけで面白く成立するくらいキャラが濃いんですよ。それをどうやって演じようかと考えるのは楽しいし、52歳にもなってまだコミカルな演技を期待されるのはどうなんでしょう?」
正統派の二枚目から、ローマ人やダメな父親など変わり種まで幅広い役柄を演じ分ける阿部寛。『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK総合 土曜10時~)では、特殊な重要犯罪を解決するため呼ばれるコンサルタントの華岡信一郎を熱演中。
彼の武器は超人的な嗅覚。普段は鼻栓をしているが、現場に駆けつけると注射器型の特殊な器具を鼻に入れてそれをはずし、ニオイだけで犯人の年齢や性別などを判別。事件を解決していくのだ。
「ニオイを嗅ぐときにどのくらいの加減でやったらいいか悩みました。それで、ポスター撮影のときに、白目をむいてニオイを嗅ぐバージョンを撮ったら、それがいちばん人間味があったんです。1話の犯人を追い詰める場面では、捕まえるんだからそのくらいの勢いが必要と考え思いっ切りやりました。監督にはやりすぎたら好きにカットしてくださいってお願いしましたが、できあがりを見たら成立していた」
個人的にニオイにまつわる思い出はありますか?
「古い畳のある家のニオイ。セットやロケで行くと、すごくホッとするのは何でなんだろうって思うんですよね。僕の実家も一軒家で畳だったけど、ちょっと違うし、今はマンションだから余計に懐かしく感じるというか。たぶん、小さいころにおばあちゃんの家に行ったりしたときの感覚というかニオイなのかな。小さいころ自然に身に沁みたものなんだと思います」
初共演の香川照之について「頭の回転の速さがすごいんですよ」
華岡のお守役の刑事・小向達郎を演じるのは香川照之。意外にも、阿部との本格的な共演は初となる。
「作品を作るときの頭の回転の速さがすごいんですよ。台本には細かく指示が書いていないですし、華岡がマイペースなぶん、達郎がシーンの状況を作らなくてはならないので、演技が難しいんです。それを香川さんは瞬時にリハーサルで監督と“僕がこう動くと阿部さんはこうなるから……”って相談されている。
監督の作品の狙いを瞬時に頭で計算しますし、実際に映像になったときそれが効果を生み出す。香川さんは同年代ですが、僕にはできないことがいろいろできるし、毎日刺激だらけです」
原作は2013年にウクライナで制作されて大ヒット。すでに世界60か国以上が放映権を取得したという人気作だ。阿部自身は、海外ドラマといえばこんな思い出があった。
「小さいころは『奥さまは魔女』とか“アハハッ”って笑い声が入るアメリカンコメディーは見てました。あと『大草原の小さな家』とか。中学1年のときは『ルーツ』が大好きで。学校でもすごい話題でみんな見てましたね。日本のドラマでは『ムー一族』とか『時間ですよ』、石立鉄男さんの『水もれ甲介』かな。まさか当時は僕がこういう世界に入るとは思ってませんでしたけど(笑)」
勘違いから始まった俳優の道
そんな彼を俳優の道にいざなった作品があるそう。
「『ふぞろいの林檎たち』で時任(三郎)さんが等身大の大学生を演じられていて、それがすごく自然だった。本当に身近に感じて、僕にもできるんじゃないかって勝手に勘違いしたのを覚えています(笑)。それくらい当時の大学生の空気感が見事に切り取られた作品だったんです。俳優を意識したというか、やってみようと思ったのは『ふぞろい~』のおかげ。僕にいい誤解をさせてくれた作品ですね(笑)」
阿部寛にとってのヒーロー像とは?
「中学1、2年のときに見てた『子連れ狼』。中学生で見ているのも渋いですけど(笑)。ただ、内容的にはいきなり血が飛んだりとかすごい話ですよね。『座頭市』もそうですけど、昔の時代劇はハードボイルドですごくカッコいいものが多く、ワクワクしながら見ていました。いまだにすごい作品だなって思いますね」
<作品紹介>
『スニッファー 嗅覚捜査官』の原作は、2013年にウクライナで制作された大ヒットドラマ。ロシアでは過去5年のドラマの中でNo.1視聴率を獲得。海外のテレビドラマ祭で数々の賞を受賞し、60か国以上が放映権を取得するなど世界中で話題になっている。日本版の脚本は『ハゲタカ』『医龍」『BOSS』など人気ドラマを量産するヒットメーカーの林宏司。登場人物のキャラクターの濃さと伏線を散りばめた構成力に定評がある。演出は同じく『ハゲタカ』でコンビを組んだ堀切園健太郎。その緻密な映像の描写力は、この作品でも発揮されている。出演者は阿部寛、香川照之、井川遥、板谷由夏、野間口徹、吉行和子ほか。