獣医師の若山正之先生。千葉県佐倉市の若山動物病院院長を務める 撮影/齋藤周造

 いまや、子どものいる家庭よりも、ペットを飼っている家庭のほうが多くなっている日本。家族の一員であるワンちゃん、ネコちゃんも悲しいことに年をとっていくのが運命だ。

「ペットが老齢になってきたら、“介護の準備をする”のではなく、“介護にならない”ようにすることが大切です。犬猫も人間同様、ピンピンコロリ(PPK)を目指しましょう」

 と獣医師の若山正之先生。

 では、介護にならないようにするにはどうしたらいいのだろうか?

「前項(※関連記事の1本目をご覧ください)で紹介した病気の中で、犬の場合は、歯、関節、ホルモン、心臓の4つの病気を上手にコントロールすることです。猫の場合は、心臓病ではなく腎臓病になりますね」

 予防のポイントは、飼い主さんの病気に対する知識とペットの食事、獣医師の選び方だとか。

「飼い主さんは毎日の暮らしで、異変に気づいてあげましょう。犬は触られることが大好きです。それなのに嫌がるというのは、どこかに痛みがあるなど、いつもとは違う状態にあるサインです」

 ごはんを食べる量が減ったり、口が臭かったら歯の病気。元気がない、反対に元気がありすぎるのはホルモンの病気など、ワンちゃんやネコちゃんからのサインを飼い主が知っておくことが重要。

信頼できる獣医師を選ぶポイントとは

“いい獣医師”の選び方とは? 若山先生が教えてくれた 撮影/齋藤周造

「病気のサインに、どんなものがあるのかは、かかりつけの獣医師に教えてもらうのがいいと思います」

 日ごろから、飼い主さんとのコミュニケーションを大切にする獣医師を選ぶことも、老齢のペットには大切なこと。

「なかには、じっくり話をする時間をくれない獣医師もいるようです。忙しいのかもしれませんが、話だけだとお金がとれないということなのかもしれませんね(笑)」

 例えば、元気なときにワクチン接種などで病院を訪れた際、病気がないかどうか健康状態をチェックする獣医師がベスト。

「足の太さ、歯や目の状態など、健康なときほどしっかり診てくれる獣医師を探しておきましょう。もちろん、健康診断も重要ですが、獣医師の“診る力”が大きく影響します」

 獣医師が老齢ペットへの深い知識を持っているかどうかもポイント。

 また、獣医師によって、治療の得意分野があるので見極めることが必要。

「人間でも、前から見たら元気そうだけど、後ろから見たら年寄りくさい人がいますよね? 犬や猫も後ろ姿に哀愁が漂ってきたら、足腰が弱ってきている証拠なんです」

“どっこいしょ”は寝たきりのサイン

 介護につながってしまう寝たきりにさせないためには、“立つ・座る”に注意しておくといいそう。

「“どっこいしょ”という感じで立つようなら、まずは動物病院で、ひざや腰の病気がないかどうかチェックしてもらうといいと思います」

 もし、痛みがあるなら、まずはそれを取り除いてもらう。そして、飼い主は、ペットが積極的に立ち上がり、歩くように誘導することで“寝たきり”から回避することができる。

「歩かせるために、エサを少し遠くに置くなどの工夫を行うのもひとつですね。立ち上がるのが大変そうだったら、補助をしてあげるのもいい。人間でも立ち上がるときに“イタタタ……”と声を出すけれど、その後は、意外にもスタスタ歩く高齢者がいますよね? それは、立ち上がりが大変だからなんです」

 “高齢だから”と、あきらめず、少しの距離でも、散歩に行くことが大切。

「外に出て、若い犬と出会うことでドキドキする。すると、血液の循環がよくなって若返っていきます」

 いつもと同じ散歩ルートを選ぶよりも、違う道を歩くと、認知症予防になるという。

「毎日、同じ道を歩いて安心するのは飼い主さんだけ。犬は刺激を求めているんですよ」

 また、多頭飼いが、寝たきりや認知症予防になるという。

「よく、このたとえで説明するんですが、みなさんがゴリラの森で暮らしていたらどうですか? 同じ人間に会いたくなりませんか? それと同じことなんです」

 犬や猫も仲間がいることで刺激を受け元気になる。

「相性がよくて、若い同種がオススメです」

 ただし、必要以上に多く飼うのはNG。食欲やウンチなどの健康管理ができなくなるので、猫なら3匹まで、犬なら2匹がちょうどいいとか。

楽しい雰囲気がペットを元気に

「飼い主さんが、イイ女(男)になることが、ペットの長生きにつながるんです」

 なんと、ペット自身ではなく、飼い主さんの変化も大事なことなのだとか。

「ある飼い主さんは、寝たきりになった愛犬が心配で化粧もせずに病院を訪れました。そこで、“以前みたいに最近もお酒飲んでる?”って聞いたんです」

 飼い主が家でリラックスすることで、ペットが元気を出してくれるというのだ。

「自分に置き換えてみてください。暗い顔をしている人が近くにいたら、どうです? その雰囲気が移っちゃうでしょ?」

 先ほどの飼い主さんは、家で好きな音楽を聴いたり、お酒を飲んだりして楽しんでいるうちに、歩けなかったペットが歩き出したという。

「次に来たとき、飼い主さんは化粧をしていましたよ(笑)。人間と同様に犬も猫も、楽しい雰囲気が好きなんです」

 若山先生は、通院するペットの運動会やバスツアーなどを定期的に企画しており、参加したペットたちが目に見えて元気になる姿を何度も見てきている。

「“年だから”と家にばかりいないで、外に出て一緒に遊びましょう」

 そうしている犬猫の多くがピンピンコロリの人生を送るのだそう。飼い主さんと、楽しい生活を送ることが長生きの秘訣なのだ。

<プロフィール>
若山正之先生
獣医師。若山動物病院院長(千葉県佐倉市)。酪農学園大学獣医学科卒。小動物診療40年以上。犬と猫の老齢管理に力を入れ、病気や介護方法などをわかりやすく説明することで定評がある。著書に『老犬生活 完全ガイド』(高橋書店)