「ストレス社会」といわれて久しい世の中。家事に仕事に追われてクタクタ、さらにオーバー40ともなれば、家庭や職場での責任も重くなる。心身ともにグッタリしている人は少なくないだろう。加えて更年期にさしかかると自律神経は乱れがちになり、さまざまな不調を引き起こす。
音楽を聞くだけで自律神経が整う
心身に大きな影響のある自律神経だが、1日24時間365日、黙々と働き続けてくれる反面、意志の力ではコントロールすることができない。自律神経研究の第一人者、順天堂大学の小林弘幸先生によると、現代人の70%以上は常に気を張っている交感神経優位の状態。
さらに男性は30歳、女性は40歳を境に副交感神経の活動レベルが急降下し、加齢とともに交感神経が優位になりやすいという。そこで、おすすめなのが音楽。
「私たちの脳は音楽を“快”と感じるようプログラムされています。そのため、いい音楽を聞くと、交感神経をなだめ、気持ちを穏やかに整える副交感神経の働きを顕著に高められることがわかってきたのです」
副交感神経の働きを高め交感神経とともにハイレベルな状態におくことができれば、不快な諸症状が解消するだけでなく、快活で人に好かれ、能力をフル活用できる状態が作り出せるというのだ。
「クラシックでもJ-POPでも、音階の変化が激しくなく、それでいて飽きない繰り返しがある曲などがおすすめですね。ショパンの『エチュード』やSMAPの『ありがとう』は私もよく聞いています」
ほかにも、先生おすすめの音楽の選び方を以下にまとめた。
ヒーリング効果を高める音楽の選び方
・テンポが一定の曲をチョイス
「最初から最後までテンポが一定で、ゆったりした速さの音楽を」と小林先生。音楽に合わせて呼吸することで、自律神経のバランスが整う。
・4~5分程度の曲がベスト
音階の変化が少なく長すぎないものを。「長さは4〜5分程度で耳から入ってきやすく、自然に聞き流せるような曲が理想的ですね」(小林先生)
・過去の記憶を呼び起こす余韻ある曲を
「自然に自分に入ってくる曲こそ、あなたの琴線に触れたあなたのための曲」(小林先生)。楽しかった思い出を振り返りながら聞けると心がより落ち着く。
下の動画で、小林先生の最新著書に収録されている、先生イチオシの曲『希望』が1曲まるまる聞くことができます。
※YouTubeのURL https://youtu.be/uECQkLWhRZc
音楽にプラスして、さらに自律神経を整える
・呼吸を意識
呼吸と自律神経は切っても切れない関係にある。呼吸が整えば自律神経も整い、呼吸が乱れれば自律神経も乱れる。「ゆっくりと息を吸ったら2倍の時間をかけて吐く“1対2の呼吸”がおすすめ。呼吸は鼻からでも口からでもかまいません」(小林先生)
・3行日記
夜、1日の終わりに「今日いちばんの失敗」「今日いちばんの感動」「明日の目標」の順に、それぞれ1行ずつ書いていくのが3行日記。「振り返りの時間を作ることは、呼吸状態をよくすることに直結します。音楽を聞きながら書くと、さらに効果的」(小林先生)
・タッピング
「ゆったりとした一定のリズムで、頭や顔、手をトントンとやさしく叩くタッピングも有効です」(小林先生)。人さし指と中指、薬指を立てて頭の後ろから前までタッピング、次に顔の順でやってみよう。人にやってもらっても気持ちがいい。
【解説】自律神経の仕組みについて
そもそも自律神経とは? 小林先生によると、
「寝ている間も呼吸が途切れず、血液が全身に送られ、内臓を動かし続けていられるのは自律神経のおかげ。臓器をコントロールし、生命活動を支えているものこそが、自律神経なのです」
自律神経には“交感神経”と“副交感神経”があり、「自動車でいえば前者がアクセル、後者がブレーキに当たります」と小林先生。アクセルを踏めば車のスピードが増すように、交感神経の働きが高まると血管が収縮、血圧が上昇して気持ちが高揚する。逆に副交感神経の働きが高まると、血管がゆるんで血圧は低下、ブレーキを踏んだように穏やかな状態となる。
「身体も車と同じ。アクセルとブレーキがきかないと運転がうまくいかないように、2つの神経がバランスよく活発に機能することが大切なのです」
例えば、ストレスなどで交感神経の働きばかりが高まると、血流は悪くなり、免疫力も低下して疲れや頭痛、めまいなどの諸症状が見られるように。するとさらに不安やイライラが募り、ますます症状が悪化……。悪循環に陥ってしまう。
「心と身体の不調は相互に影響し合うもの。その解決には自律神経のバランスを整えることが欠かせません」
<プロフィール>
小林弘幸先生
順天堂大学医学部教授。自律神経研究の第一人者としてプロスポーツ選手やアーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス指導にかかわる。著書に『聞くだけで自律神経が整うCDブック』シリーズ(アスコム)など