神奈川県の食品販売会社「肉の石川」が販売した冷凍メンチカツを食べた男女が、腹痛や下痢などの健康被害を訴えているO-157による食中毒事件。今年8月にも老人ホームで提供された食事によって5名が死亡するなど後を絶たない。なぜ起きてしまったのか。また防止法は? 専門家に話を聞いた──。

平塚市にある肉の石川本社(囲み写真は食中毒を起こした商品)

たった1度の食中毒が長期にわたり人を苦しめる

 家庭で揚げる冷凍メンチカツを食べた1歳から79歳までの男女21人が、腸管出血性大腸菌О-157に感染するという食中毒事件が発生した。

 菌が検出された食品は神奈川県平塚市の食品販売会社「肉の石川」が販売した冷凍メンチカツ『和牛・相模豚メンチ肉の石川』。21人の感染者のうち5人から検出されたO-157と、遺伝子パターンが一致したことで、神奈川県は1日、集団食中毒事案として発表した。

 下痢や腹痛など健康被害を訴える被害者は、4日現在で25人に増え、そのうちの3人が重症で入院。1人は溶血性尿毒症症候群(以下HUS)を発症したという。

 同メンチカツは、肉の石川の委託を受け、静岡県沼津市のタケフーズ株式会社が製造し、神奈川県と千葉県のイトーヨーカドー計26店舗で、2010個が販売されていた。

 神奈川県の発表を受け、肉の石川は《発症されましたお客様、そしてご家族の皆様には多大なる苦痛とご迷惑をおかけいたしましたこと、社員一同心よりお詫び申し上げます》と謝罪コメントを発表。

 タケフーズは《食品メーカーとしてお客様への注意喚起、配慮にかける面があったかと思われます。本品が生肉の具材である旨パッケージにてもっと強調できていたら、また調理方法を大きく見やすく表示することを行っていれば、このような事態が防げたのではないかと悔やまれてなりません》と、忸怩(じくじ)たる思いを伝えた。

 食中毒は人の命を奪ったり、後遺症を残したりする。

 1996年、大阪府堺市の学校給食などで児童ら9000人以上がО-157に感染する集団食中毒が起きたが、20年たった今も、慢性腎炎などの治療を受けている人がいる。

 当時小学1年でHUSを発症した25歳の女性が、昨年10月にHUSの合併症として引き起こされた慢性高血圧による脳出血で死亡した。HUSは、腎臓や脳などを侵し、発熱、下痢、腹痛、動悸、むくみ、高血圧などの症状を引き起こす。たった1度の食中毒が長期にわたり人を苦しめる。

汚染された肉をミンチにすると

 食品衛生法が改正され、厳しくなってはいるが、食中毒事件はなぜ起こるのか。

 食品加工工場などの衛生管理のコンサルタントを行う、ジャパン・フードセイフティードクター株式会社の池亀公和代表取締役は、

牛の数パーセントは、О-157を保有しているんです。牛のお腹を裂くときに糞便が飛び散って、他の部位に付着する。その後の工程で洗浄を行いますが、肉にめり込んでしまったりすると洗い流すことができない

 そう原因を説明したうえで今回のメンチカツについて、

「汚染された肉をミンチにするわけです。肉の表面近くについていた菌をミンチにすると、中に入ってしまう。菌が生き残ってしまうわけです」

 秋から春にかけて猛威をふるうのが、「食中毒の約4割を占める」(前出・池亀氏)というノロウイルスだ。

「感染した人の便や吐物に含まれており、多くは調理従事者が排便をしたときに手や衣服に付着しそこから2次感染が起こる。最近はパンとかカット野菜とかいろいろなものからノロが検出されています。ノロはアルコールでは死にません。だから排便後、衣服を触る前に手を洗うなど、手洗いを徹底するしかない。洗えば菌は流れますから

 今年5月、福井県・若狭町の小学校の給食で、集団食中毒が発生。2次感染者を含め496人が症状を訴えた大事件。町はその後2度と起こさないようにと、給食センター調理員向けの衛生管理マニュアルに“調理時間中の排便を原則禁止”と盛り込んだが……。

「倫理的に問題があるとして、6月29日に削除しました」(同町教育委員会事務局)

生野菜の食中毒に効果的なドレッシングとは

 給食や外食で提供される料理は、安全であると信じて食べるしかないが、家庭で作る場合は、自己防衛できる。

 

 池亀氏が具体策を解説する。

「(肉については)やはり加熱をしっかりするしかない。家庭ではいちいち温度なんか測っていられないでしょうから、ハンバーグなどは赤みがなくなり茶色くなっていることを確認する。竹串を刺して肉汁が透明になっているかを確認するという基本的なことが食中毒にならないためのポイントといえるかもしれません」

 食中毒の原因というと肉や貝類などが思い浮かぶが、生で食べる野菜も案外怖いという。2011年、ドイツの有機農場で育てられたスプラウトが原因で、16か国に被害が拡大。3941人が症状を訴え、52人が死亡した。

「このときの菌はО-104という非常に強力な新型の大腸菌で、子どもや高齢者が亡くなることが多いО-157と違い、健康な成人が多数亡くなりました。世界的に見ると、野菜の食中毒は多いんです

 と前出・池亀氏。野菜の食中毒を避ける方法について、

スプラウトやカイワレは泥もなく一見きれいに見えますが、菌で汚染されている可能性があるので調理前に流水できれいに洗うことが予防のひとつ。

 生野菜で食べる場合は、お酢を使用したドレッシングを使用するのは絶大な効果がある。お酢はわさびなどと違い即効性があります。野菜全体に行き渡るようによくかき混ぜることが大事です

 都内の保育園に勤める30代の女性調理師は「保育園は当然だけどすっごい厳しい。揚げ物なんかは75度1分が基本だけど、85度1分で5個に1個は中心部の温度を測る。人の命につながることだから本当に気をつけてる」と話す。

 たとえ面倒であっても、基本的なことをしっかりと行うだけで食中毒のリスクはグンと抑えられる。愛する家族を危険にさらさないためにも手間を惜しまないことだ。