打算で結婚し、女の賞味期限の焦燥感で不倫に走るが、家庭をしっかりと維持している――そのような傾向が強いのは年収600万円以上の既婚女性たちだ。筆者が取材し続けている彼女たちの共通点は5K(経済力がある、キレイ、賢い、軽い〈体重と気持ち〉、子どもがいる)だ。
彼女たちは、離婚しても生活に困らず、子どもがいるので人間的な安定感があり、社会的分別がある人が多い。それゆえに、『失楽園』(渡辺淳一著)に代表される一昔前の不倫のように、人生かけて恋に走る、という恋愛至上主義的傾向をほとんど感じない。
彼女たちが楽しんでいるのは手軽なレジャーとしての不倫だ。コミュニケーションのインフラ(SNSやスマホ)が便利になり、既婚者でも相手を選びやすく、連絡も取りやすくなっている昨今では、不倫というレジャー施設の門はつねに開いている。ただ、そこは激しい中毒性があり、知性と客観性がないまま踏み込んでしまうと、ストーカーになったり、借金するなど、身を持ち崩す傾向が強い危険な地帯だ。
しかし5Kの彼女たちは経済力があり、容姿にも自信があり、気持ちが安定しているから、最初の高揚感が落ち着いてしまえば不倫にのめり込むことはなく、どこか危険なゲームとして楽しめる。そのゲームの参加ルールは簡単だ。外見を身ぎれいにして、ちょっとしたバカを演じ、男性から誘わせ上手になればいいのだ。
不倫をお互いに認める「オープン婚」
さて、そんな妻がいる夫の真意に興味を覚え、取材を進めると「ウチもとうとう“オープン婚”にしたよ」というフレーズを耳にするようになった。彼らの話を総合すると、オープン婚とは、相手の不倫をお互いに認める、ということだ。試しに“オープン婚”とネットで検索しても、婚姻関係にまつわる用語はヒットしなかった。
そもそも、不倫にまつわる実情や、幸福な夫婦関係に落ち着くような話題は、表に出てこない。不倫のリアルは同じような考え方をして、心を許し合った者だけが、ひそやかに語り合うものだ。
なぜなら、不倫が露呈すると非当事者から糾弾されるからだ。不倫している人が注意すべきは、家族バレではなく、他人バレだ。ここで言う“他人”とは世間という仮面をかぶり、暴走する正義だけで人を裁き謝罪を求める不特定多数の人々だ。
前出の“オープン婚”だが、これを5年前から実践している山田直樹さん(仮名)に話を伺った。彼は42歳で、早稲田大学卒、飲料メーカー勤務、年収は800万円だ。タレントで言うと、三宅裕司さんにどこか似ている。
ちなみに、山田さんの妻は、40歳、早稲田大学卒、ITメディア系会社勤務、年収は600万円。容姿は作家・室井佑月さんに似ているキリッとした美人だ。
2人は東京都江東区内のマンション(持ち家)在住、小学3年生(9歳)の娘がおり、近くに妻の実家がある。結婚10年、夫婦間のレス期間は8年だ。
「妻とは子どもが生まれてからできなくなって……。理由は産後に拒否され続けたことと、再開しても子どもが隣に寝ているとお互いにそういう気分になれなくなった。僕は妻が好きで、妻以外の女性とはしたくなかったので、ひとりエッチの日々でした」
妻が「あなたも恋人を作ったら?」
そんな夫婦の関係が変わったのは、5年ほど前。
「妻が仕事で深夜帰宅や出張が続き、それと同時に新しい服を買ったり、娘や僕に優しくなった。そこで最近どうしたの?と聞いたら、高校時代の元彼とW不倫をしていると言われたんです。
目の前が真っ暗になりました。当時は不倫=離婚だと思い込んでいたので。自分にはさせてくれない妻がほかの男とエッチしているという暴力的な事実にぶちのめされました」
怒りと情けなさと、裏切られたショックで顔面蒼白になる山田さんに、妻は、「あなたも恋人を作ったら」と言い放った。
「何を言うんだこの女は、と思ったけれど、冷静に考えてみると、それもアリかな、と(笑)。僕も女性から好意を寄せられていると感じることもあったので。
それに、妻とはエッチそのものはないけれど、あいさつ程度のキスやハグをしたり、家族全員で風呂に入るなど関係は良好。ほかの男とエッチしただけでは離婚をする理由にならない、と感じたんです」
山田さんは基本的に妻を尊敬しており、寛容さや思慮深いところがありながら大胆な性格を家族として信用している。
「僕たちは飲み会で知り合って、同じスペック同士で、いわば打算で結婚したんです。妻は婚活女子にありがちな媚びや甘えがないところが信頼できたし、人生のパートナーとしていいと思ったんです」
しかし、多くの女性は恋愛をしたいと感じている。身もふたもない話だが、女としての承認欲求は、男性に欲情されることで満たされる。もちろんその男性とは運命共同体である夫ではない。アラフォーの既婚女性はエロいとか、男を誘っているなどよろしく言われている。
その根底にあるのは、女としての賞味期限が終わってしまう前に満たされたいという焦燥感だろう。日本の男性の多くは、女性は若ければ若いほどいい、という女性観が刷り込まれている。だからこそ、“まだ若いうちにもう一勝負”と婚外恋愛に向かうのだ。
「僕自身もオープン婚になってから、この5年でワンナイトラブも含めると、10人くらいの女性とエッチしましたが、長く続いているのはW不倫の人ばかり。でもそれも、すぐに飽きて、お互いがフェードアウトしてそれぞれの家庭に帰っていく。
「相手」は大学の同級生や後輩
僕の漁場(笑)は、SNSで再会した大学の同級生や後輩です。彼女たちも妻同様、夫以外にパートナーを求めている。こんなことを言うと差別的だと思われるかもしれませんが、学歴が低い女性と恋愛してもあまりいいことがないんです。女性に尊敬される、ちょっとバカにしつつ支配できるというのは、一時的な満足感がありますが、でもそれはフーゾクと似ています」
お互いのラブアフェアを報告し合うことは、山田さん夫婦はいっさいしていない。
「今日は浮気相手と会っているんだろうな、と思うこともありますが、そういう日にかぎって妻は仕事でボロボロになって帰宅したりするから、男のカンというものはあてにならないですね」
山田さん夫妻をはじめ、オープン婚をしている夫婦の多くは、他人の遺伝子と性感染症は家庭に持ち込まないという暗黙のルールを守っている。
沢木 文(さわき あや)◎Writer&Editor。1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。